公共性
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発行 2000/5/19
本論に移る前に「公共性」 という言葉の若干の「用語解説」 を試みておきたい. やや図式的な説明になるが, この言葉が与えるだろう曖昧模糊とした印象を少しでも拭いとっておこう. 一般に「公共性」という言葉が用いられる際の主要な意味合いは, つぎの三つに大別できるのではないかと思う.
第一に, 国家に関係する公的な (official) ものという意味. この意味での「公共性」は, 国家が法や政策などを通じて国民に対しておこなう活動を指す.たとえば, 公共事業, 公共投資, 公的資金, 公教育, 公安などの言葉はこのカテゴリーに含まれる. 対比されるのは民間における私人の活動である. この意味での「公共性」は, 強制, 権力, 義務といった響きをもつはずである。
第二に、特定の誰かにではなく, すべての人びとに関係する共通のもの (common) という意味. この意味での「公共性」は, 共通の利益・財産, 共通に妥当すべき規範, 共通の関心事などを指す. 公共の福祉, 公益, 公共の秩序, 公共心などの言葉はこのカテゴリーに含まれる. この場合に対比されるのは、私権、私利私益、私心などである. この意味での「公共性」は、特定の利害に偏していないというポジティヴな含意をもつ反面、権利の制限や「受忍」を求める集合的な力, 個性の伸張を押さえつける不特定多数の圧力といった意味合いも含む.
第三に、誰に対しても開かれている (open) という意味. この意味での「公共性」は, 誰もがアクセスすることを拒まれない空間や情報などを指す. 公然, 情報公開, 公園などの言葉はこのカテゴリーに含まれるだろう. この場合には, 秘密, プライヴァシーなどと対比される. この意味での「公共性」にはとくにネガティヴな含みは ないが, 問題は, 開かれてあるべきものが閉ざされているということだろう. 一例を挙げれば, 水道と木陰とベンチと公衆トイレがある空間は, 人間にとっていわば最後のセイフティネットを意味するが, それをしも奪い, 公園を閉ざされた空間にしようとする動きがあるのは周知のとおりである.
興味深いのは, いま挙げた三つの意味での「公共性」は互いに抗争する関係にもあるという点である. たとえば, 国家の行政活動としての「公共事業」に対しては, その実質的な「公共性」 (publicness) ――公益性――を批判的に問う試みが現におこなわれているし, 国家の活動がつねに 「公開性」 (openness) を拒もうとする強い傾向をもつことはあらためて指摘するまでもないだろう, とくに関心を惹かれるのは, 「共通していること」 と 「閉ざされていないこと」 という二つの意味の間の抗争である. 両者を同一の平面におけば, 「共通していること」はほとんどの場合 「公共性」を一定の範囲に制限せざるをえず, 「閉ざされていないこと」と衝突せざるをえない局面をもつからである。(viii -x)