ブロデックの報告書
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発行 : 2009年1月
出版社 : みすず書房
第二次大戦後間もないドイツとの国境近くのフランスの集落を思わせる架空の村で起きた、なかば村ぐるみでの集団殺人事件について、偶然その現場に居合わせてしまったがために報告書の記録を命じられた主人公ブロデックが、報告書の作成をしながら、戦争を通して起きた村の変化や、収容所に送られた自分の過去のトラウマを回想し、いとも簡単に失われてしまうコミュニティの倫理や人間性や正義について問いかけてくる物語。
何をきっかけで買ったのか忘れてしまいずっと積読のままだったのを、いい加減読もうと思って読み始めたら、思いがけず重苦しい胸にずっしりくる話でしんどかったが、不思議とページをめくる手は止まらず読み終えてしまった。
物語の発端となる村ぐるみでの殺人は、アンデラー(ドイツ語でAndere = Other = 他者)と呼ばれる道化師の様な男が、この村や村人にとっては忘れる事も出来ないが振り返って直視する事も出来ない、戦時下とは言え忌まわしい行いをしてきた自分達自身の姿を突きつけた事で起きてしまう。
村人たちが突きつけられた彼ら自身の過去の行いや、それを行ってしまう精神のあり方は、戦争の様な状況下では仕方のない事で、何よりも悪いのは差別感情をたきつけ、戦争を始めた連中な訳なのだから、ここで村人たちを責める事でもないのかも知れない。だけど、そこの問いかけを仕方ない事だったで諦めてしまうとあまりにやり切れないし、その後どう生きるのであれ、罪を背負い続けなければならないのであって、たとえそういった過去の罪をわざわざ掘り返してくる者があったとしてもそれを無視する事や無かった事にするなんてのは、あってはならないのだと思う。
日本が戦時中に他国で行ったことに関して取るべき態度も見えてくるはずなのだが、状況としてはなかなか厳しく、人間が集団になった時に露わになる弱さだとか発現してくる醜悪さって逃れられないのかなと思ってしまう。