バービー
https://www.youtube.com/watch?v=8zIf0XvoL9Y
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公開 2023/8/11
上映時間 114分
『ケンたちはどう生きるか』。
バービーの話と思いきや、同時にケンの話でもあった。というのは事前情報から想像していた通りではあったのだけど、ただ男女の関係性を反転させて「男もこういう立場になったら女性の置かれている状況がわかるだろう」とするみたいな話にとどまらず、属性にとらわれないで生きていく事についてふざけながらも真正面から説いていていい映画だった。
ライアン・ゴズリングのケンは完璧だし、ケンダムで行われる典型的男性の有害な振る舞いはゴッドファーザーのくだりを筆頭に思わず笑っちゃうんだけど、この映画自体に、観ている最中も何かしら過ぎっては何か言いたくなるようなモチーフやセリフが散りばめられているのも、いじわるすぎるくらい良く出来てると思う。
ちなみに自分は「スナイダー版ジャスティス・リーグが云々」というくだりでゲラゲラ笑ってしまったすぐ後で、それがトラップだった事に気づき、無事なんとも言えない気持ちに。
などなどポジティブなものを受け取れる作品で、断片を切り取ってみればすごく笑っちゃうような場面ばかりなんだけど、1本の映像作品として観ると結構ガチャガチャしていて、そこまで好みではなかったのが正直なところだったりもする。
荒唐無稽を通り越し「こういうものだから」で済ませられてしまう、おもちゃならではな無理矢理さを利用しすぎている気がして、何が起きてもどうでもよくなっちゃうというか。
特にマテル社のシーンはリアルワールドなのにリアリティラインがよく分からず、テンション的にちょっとついて行けなくてつらかった。バービーランドとの境界であるからという事も、あそこを生々しくリアルに描いたらギャグとして成立しなくなっちゃうだろうというのもわかるのだけど。
こと日本においてはマテル社の上層部のジェンダーバランスとか笑えなかったりもするので、その辺の温度調整に難しさというのもあったかもしれない。
またフェミニズムというかジェンダー的な問題提起がなされているとは言えわりかし優しめで、だいたい想像通りといえば想像通りの範囲の話な上に、コメディとしてオブラートに包まれているのが逆に肩透かしでもあった。もっと男が身につまされすぎて凹みまくるようなものを身構えていた身からするともっと刺しに来て欲しかった。
まあ諸々いまの社会状況の中でコメディとして広く観られるためにはこのくらいがよいのではという判断なのかも知れないのだけども。
ただ、この先どんな困難があろうと自分の人生を引き受けていく事を決めた姿を端的に描いたラストシーンは文句なしに美しくて、冒頭の『2001年宇宙の旅』のギャグっぽいパロディに、バービー自身の変化というまた別の象徴的な意味が重なって、ああこれはまごうこと無きグレタ・ガーウィグの映画だったんだと気付かされる見事なエンディングだった。
その直後のエンドクレジットで、ニッキーミナージュとアイススパイスの”Barbie World”が設定おかしいのでは…ってくらい爆音で鳴り響いていてスクリーンが震えていたのも超よかった。
映画の後で観たBLACKHOLEの配信で、Utomaruさんのおもちゃとしてのバービーについての話も面白かった。
https://www.youtube.com/watch?v=kJ1m98HbBpM