ジュリアン・バトラーの真実の生涯
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発行 2021/9/28
今年の初めになんとなく見ていたみんなのつぶやき文学賞の国内部門で1位になっていて、その際に解説されていた「実際の欧米文学史を下敷きにした、ジュリアン・バトラーという全く架空の人物の回想録の日本語訳という体のフィクション」というたてつけが面白そうだなと思って、結構前に買っていたものの、結構な分厚さに若干慄いて後回しにしていたのをようやく読んだら、めちゃくちゃ面白くてババッと読めてしまった。
正直に言えば、カポーティとかゴア・ヴィダルとか、文中に出てくる現実の作家については名前こそ知っていても作品とか文学史における立ち位置について全く無知だったのだけど、それぞれがどういう作家だったかについては、この回想録の作者(という体)であるアンソニー・アンダーソンの口を通して無理なく語られていて理解できるようになっているのも、至れり尽くせりという感じで非常に読みやすかった。もちろんその辺の時代背景や文学史についての教養がある人であればもっと楽しめるんじゃないかとは思うけども、それによって読者が選別されないのは嬉しい。
また、単純に登場人物のジュリアン・バトラーやこの回想録を書いている(としている)アンソニー・アンダーソンことジョージ・ジョンという人物そのものに魅力的な深みがあるので、終盤に至るころにはこれがメタフィクション的な仕組みのある作品とか抜きにしても面白いじゃんなどと思っていたら、本編の後、翻訳者としての川本直氏によるあとがきで再度その辺りの面白みが立ち上がってくるのが最高に良かった。