ケミストリー
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発行 2019/9/26
なんで買ったのか記憶に無いけど数年積まれたままになっていたのを引き抜いて読んだらとても良かった。
付き合っている成績優秀で人柄も最高なボーイフレンドとの結婚も視野に入る段になって、自分の両親を通して感じていた結婚生活への不安や、ボーイフレンドの家庭環境から来る考え方の溝、また自分自身の研究の上手く行かなさなどなどが重なって、もろもろ気持ちが折れてドロップアウトしてしまうアメリカに住む中国系移民の大学院生が、ちょっと歩みを止めてこれからどうすんべと心を整理して立ち直っていく話。だと思う。
単純に大学院の研究が上手く行かないとか、移民として苦労してきた親からの求めに応えられない不安や反発とか、大きく捉えれば覚えのあるような経験がいっぱい出てくるのだけど、とりわけボーイフレンドのエリックがいいやつ過ぎるあまり、自分のダメさや嫌な部分がエリックの放つ光に照らし出されてしまう感じには、分かりすぎて「うっ」となってしまった。
そういったままならない色々なしんどさに対して、過度に甘やかすことも追い詰めることもないさっぱりした文章の距離感が、今の自分には丁度良かったのかも知れない。
序盤こそ散文というか、ザッピングするみたいに思考の時系列がポンポン飛ぶのが読みづらく感じたのだけど、これは主人公のメンタルと人間関係についての話なのだなと理解できてくると、こういう思考があっちこっちに飛ぶ事って自分もあるよな…という気持ちになり、あまり気にならなくなってくるというかリズムがフィットしてきて、かえって心地いい文章に感じられるようになった気がする。
帯文とかに「リケジョのうんたら」みたいな売り文句があるけど、もっと普遍的な話として読めるのになと思った。
あと中国語と英語による世界の捉え方の違いみたいな事にも触れていたのが興味深かった。
後になってから考える、もしかしたら母がわたしに上海語を教えないのは、ちょうど英語がわたしのものになっているように、それは母のものだからなのかもしれない、と。 (p64~65)
わたしはC・S・ルイスのアドバイスに戻る:
何を愛しても、心はかきむしられ、おそらく傷つくことだろう。心を確実に無傷にしておきたいなら、誰にも心を与えてはならない。動物でさえいけない。趣味やちょっとした贅沢で注意深くくるんで、あらゆる関りを避けなさい。利己主義という宝石箱あるいは棺桶に入れて鍵をかけて安全にしまっておきなさい。だが、安全で、暗く、動きがなく、風通しの悪いその箱のなかで、心は変化する。心は傷つくことはない。壊れることのない、頑迷で救いようのないものとなるのだ。
わたしは自分の心にこんなことはひとつも起こってほしくない。
だから、箱から抜け出して、どこかほかへ行く。 (p144~145)
長いあいだ、科学者たちはなぜ原子核がくっつくのかわからなかった。理論的にくっつくはずがないのだ。すべて正電荷で構成されているので反発するはずなのに、なぜかそのままでいる。
あの車から母が飛び降りたとは思えない。きっと三まで数えたら、母は思いとどまっていただろう。
しまいに、母は父に言う。何が起ころうと、離婚はしない。 (p235)