グラップラー刃牙はBLではないかと考え続けた乙女の記録ッッ
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放送開始 : 2021年8月
エピソード数 : 全7話
物語は、都内の文房具メーカーの商品企画部に勤務する傍ら、BL作品を密かな楽しみとして愛好している女性、児島あかね(松本穂香)が、たまたまウェブコミックサイトで無料公開されていた「グラップラー刃牙」を軽い気持ちで読み始めるところから始まる。
読み進める内に、それが完全にBL要素に溢れた作品なのでは…という素通りできないバイブスにあかねは愕然とする。先入観から絵柄の独特な脳筋バトルギャグ漫画程度にしか認識せずに無視してきた作品が、実は完全に自分の大好物だったという事実。衝撃のあまり、同じBLを愛好する友人達に異常な熱量で布教し、時には夜更しし過ぎて寝坊するほどのめり込んでいく。
一方会社では社内プレゼンを控えてサポートを任されていた、後輩の竹野(岡山天音)から突然告白されるというイベントが発生。ところが、推しキャラ愚地克己も登場し、完璧に刃牙の沼にズブズブなタイミングで同僚である竹野とプライベートで関わるなど、その後の気まずさも含めて論外にしか考えられず、余計に竹野に悪印象を感じて冷たくあしらうあかね。
その結果、失恋によるショックで竹野は全く仕事に身が入らなくなってしまい、上司からはプレゼン準備の進捗について小言も言われ…と避けたかった展開にまんまと陥り、それまで会社で波風立てずに過ごしてきたあかねの日常に綻びが生まれてしまうのだった。
そんな面倒な現実とそこから逃避するべく、あかねは一層BLとしての刃牙の世界を掘り下げまくる日々を送る内に…
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というお話の中で、あかねが元々BLとして制作されていない「刃牙」の中に「この描写って表面上こう描いてますけど完全にアレですよね」的な解釈を見出したり興奮しまくる様子がテンポよく描かれていてとても面白かった。
ていうかそもそも「刃牙がBLってどういう事よ?」という話ではあるのだけど、例えばMMAの試合の後にそれまで激しくド突き合っていた選手同士が熱い抱擁と共に健闘を称え合うような場面は現実にもよく見るわけで、格闘技の様な直接肌を合わせてコミュニケーションを取る者同士の間で、噛み合うものや認めざるを得ないものを感じた時に、尊敬とか友情を超えたような感情が湧くのでは…と想像するのはそこまで突飛な発想ではない気がして、自分としては違和感なく楽しむ事が出来た。
まあそういった想像の大半は「ワンチャン渋川剛気とジャックハンマーはカプいけるっしょ」みたいなネタっぽいノリのものではあるんだけど、そう言い放つ為の深読みに含まれてる、キャラクターの行動や言葉の汲み取り方の細かさってめちゃくちゃ真面目だよなという点は無視できない。
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同時にジェンダー絡みの描写などへの違和感があった時には、ドン引きしたりちゃんと指摘をする場面も印象的に残っていて、むやみに自分たちの好きな側面だけを切り取ってワッショイワッショイするだけに留まらない姿勢にも、ダイバーシティに限らず人と人とのコミュニケーションについて細かいデリカシーをもって取り扱おうという意識を感じる。女性が主体となって作られるBLというジャンルがよりそうさせるのかも知れないなと思った。
そういった現実の「正しさ」に関する問題提起や指摘が作品の中で行われる時、ものによっては少し説明的になりすぎて興がそがれる事も自分にはあるのだが、この作品のように何かの表現に向き合い語る事がテーマであると、そういう印象もなく見る事が出来るのが良かった。もちろんコメディだからっていうのも大いにあるのだと思うけど。
コメディという点で言えば、あかねの脳内を具象化したような、Eテレの教育番組風やYouTuber的なセットへの唐突な場面転換、視聴者への語りかけみたいな、舞台っぽい演出がテンポよく差し込まれたりするのもバカバカくて楽しい。演出の山岸聖太と言ったら自分の中では完全に乃木坂個人PVでおなじみの人なんだけど、流石のキレで、もっとテレビシリーズをやってもらいたくなってしまう。 また何より松本穂香の予想以上のコメディエンヌっぷり、脇でも竹野役の岡山天音のあかねを前にした時のしゃべり方だったり、BL仲間の今里ちこを演じた穂志もえかの佇まいから滲み出るオタクっぽさとか、どの役者の芝居もテンション高めな演出に対してやり切っていて素晴らしかった。 https://gyazo.com/561cbd88898f651b03335268ebbc2766
最初の方に挙げたラジオでの金田淳子の発言によれば、最近はBLを扱った作品を映像化した企画も増えてきていて、自分のようにそれまで愛好してこなかった人間の目に触れる機会も多くなってきているのに伴い、コミュニティの中で文化という事でなあなあにしてきたような問題のある表現について見直されつつあるタイミングっぽいのだけど、そういった検討に対してより意識的であろうとするのも今の日本においてBLの映像化作品が、他ジャンルに比べて先鋭的で面白く感じる理由なのかも。
https://www.youtube.com/watch?v=c21i4oWCAs0
https://www.youtube.com/watch?v=8wR6bL6lgc0&t=0s