対談:松本卓也×東畑開人
ちょっと、垂直
――二〇一〇年代の思想と臨床、そして政治をつなぐキーワードは何か
松本 ……同じ観点から、現代の「エビデンス主義」にも不満をもっています。科学的なエビデンス(証拠、根拠)に基づいた知識、特に医学的知識が社会のなかで第一義的に参照されるべきだとする立場です。最近はEvidence‐Based Policyといって、政策決定もエビデンスに基づいてやるべきだという考えが出てきています。もちろん、このような考えには一定の利点があります。しかし見方を変えれば、かつて存在した強い「父」や神や王の位置が、現代ではエビデンスによってそっくり乗っ取られているようにも見えます。最近、医学的なエビデンスに基づいた食事術の本が売れているようですね。もちろん、そういう本は重要だと思います。全然効果のない健康食品はたくさんあって、人は惑わされてしまいますから。しかし、エビデンスに基づいたものすごく健康な食事というのは人間にとっての食事の目的を転倒させてしまっています。そもそも、ものすごく健康な食事を毎日食べたいですか? ラーメン二郎のほうが食べたいでしょ(笑)。
2018/9/4