調和した社会を法学からデザインする。「実証法学の確立に向けた法学方法論の探究」|京都大学学術研究展開センター
稲谷先生の描くビジョンをお聞かせいただけますか?
「人と自然と人工物、この3者が共生・混生する社会をイメージしています。
近代の西洋思想では、人間が一方的に自然や人工物を支配する、あるいは精神が肉体を支配しているというモデルで世界を捉えていました。これは明治以降に日本に輸入された法学の考え方の根底にもあります。ですが、実際には私たちは身体を通じて外部の環境にアクセスしたり、逆に影響を受けたりしながら物事を考えたり行動したりしています。例えば、私たちは、紙に書いたりパソコンを使ったりすることで脳の情報処理能力を格段に上げることができます。この時、私たちは脳の機能を外部に委託しているわけです。逆に言えば、そうしたものがなければ文明や文化は発展できなかったとも言えます。こうした人と人工物との関係性を受け入れることが、調和した社会の足がかりになると考えています。
人と自然と人工物とが、互いに完全に支配しているわけでもなければ、支配されているわけでもなく、相互に影響しあっている。こうした曖昧な関係を捉える思想は欧米だと尖ったものだとみなされますが、日本人の感覚としてはむしろしっくりきますよね。私はそんな考え方を法学にも導入することで、多くの人が幸福に生きられるような状態を作りたいと思っています」
2024/12/23