ライフログ研究でリア充に!?
以下は、情報処理学会誌のリレーコラムに書いた文章です。ATR時代の同僚の坊農さんからバトンを受け、大学時代の友人の伊藤さんへバトンを託しました。
角康之:ライフログでリア充に!?, 情報処理学会誌, Vol.60, No.7, pp.669, 2019. PDF NIIの坊農さんから「自分の研究について語ってよし」というバトンを渡されましたので、私の研究テーマの一つであるライフログについてご紹介させて頂きます。ライフログとは、自分の生活に関する情報を記録することです。
写真やビデオを記録して家族や友達と楽しむということは、もう誰でもできます。最近は腕時計型の活動量計も普及しており、健康管理だけでなく、日常活動の振り返りの手掛かりとしても活用されています。なので、日常を記録し、振り返るというだけであれば、十分社会に浸透していると思います。
私が研究対象として興味があるのは、その先です。自分の記録を自分(と身近な人たち)のみで利用するだけでなく、顔も知らない誰かの問題解決に役立てたり、大勢のライフログの集合体から組織や社会の問題発見や社会知を見出す、といったことに興味があります。
とは言え、「研究者は、自分が苦手なことを研究テーマにしてしまいがちである」ということはよく言われることで、例えば、「発想支援研究者の発想は大抵面白くない」、「協調活動支援の研究をしているくせに協調性が無い」といった冗談もよく耳にします。翻ってみるに、私のライフログ研究にも似たような面があるかもしれません。いくつか例をご紹介します。
GPSロガーで毎日の移動を記録して、個々人の行動ログに基づいた地図を作ろう、という研究テーマに取り組んでいた学生がいました。予備検討を始めたばかりの頃に彼のデータを見せてもらったところ、自宅と大学の往復しか足跡の無い状態が何日も続いているのを見て、ずっこけてしまいました。ライフログ研究をしようっていう人が、こんなに単調な生活をしていたら、なかなか面白い研究にはならないなあという危機感を感じたものです。
また、自動車の中のおしゃべりを地図上に貼り付けて街の「いま」を可聴化しよう、というプロジェクトに取り組んでいたときに、自動車通学をしている学生たちに協力を求めたところ、「いつも一人で運転しているだけで、自動車の中で誰かと話すことは無い」とのこと。まあそれはそうだよなと反省し、研究室内で学生たちと声を掛け合い、一台の車に乗り合って、外で昼ご飯を食べるように心がけました。その結果、函館市内の食事処を色々開拓できましたし、学生たちと何気ない世間話をして、研究室内の風通しも良くなったような気がしています。図1は、その頃のデータの一部を地図上に貼り付けた例です。大学周辺に自動車で走った足跡と車内でのおしゃべりがマッピングされています。
https://gyazo.com/18923b122c1d4c9a8fdc69dec778e3b1
図1:自動車の中のおしゃべりを地図に貼り付けた例
最近取り組んでいるテーマに、ライフログカメラに映る対面者の数を数えて日々の社会活動量を推定してみよう、というものがあります。図2は、動作確認のつもりで研究室のみんなと連れ立って居酒屋に行った時の一場面です。最近も、ちょっとログが寂しいと思ったのか、学生同士で呼びかけ合って、街の観光や花見に出かけよう、という計画を立てているようです。
https://gyazo.com/b7123b638eb5b89becc885ca7a01f876
図2:ライフログからの社会活動量計測
嘘から出たまことではないですが、研究活動を通して,まずは自分自身や周囲をより良くすることに取り組んでいきたいと思っています。ちなみに、「共食会話中の非言語行動から漏れ出る対人感情」といった妄想研究テーマを長年温めており、「定期的に合コンしようよ」と毎年のように学生には言っているのですが、本気にしてもらえません。
さて次回ですが、もしかしたら合コン研究に協力をお願いできるかなという下心から、お茶の水女子大学の伊藤貴之さんにバトンを渡したいと思います。