俺は転生するとチートらしいんだが
俺は転生するとチートらしいんだが
ひと月ほど前から、視界のすみにコマンドウインドウが浮かぶようになった。こんな感じだ。
▶転生する
転生しない
あまりに唐突なので、下側を選んで数日置いておいたら、翌週からこんな感じに表示が変わった。
▶転生してウハウハになる
転生しない。様子を見ることにして先延ばしにする
上側の「ウハウハ」もひどいが、下側の書き方もひどい。感情を誘導する意図が見えて気分が悪いので、またしばらく下を選んでいた。
また少しすると、今度は選択肢が増えていた。
▶転生する
転生しない
ヘルプ?
3番目の「ヘルプ」を読んでみると、転生した場合の能力値はかなり高く設定されるし、時代の色々な出来事の中心的な役割も担えるというようなことが書かれていた。
とはいえ、慌てて飛びつくほどのメリットがあるのかは疑問だったので、引き続き「転生しない」を選んでおいた。
すると今度は、ウインドウは消えて、チュートリアル用のキャラクターが視界に現れるようになった。
「キミ、転生したくはないのかのう? いや、別に無理強いするつもりはないんじゃが……。みんなやっとるよ?」
老人の姿だった。髭の長い。
「うーん、まあそうかもなんですが、こっちの世界でしてきたこともあるし、こっちの人生でしなきゃならないこともあるし、そもそもこの誘いがどういうものかの詳細も分からなかったので、検討のしようがなかったというのが正直なところです」
僕が言うと、老人はいくつか世界外に働く力のことや転生した場合のその後のことについて、追加の情報を説明してくれた。
それでも僕が煮え切らずに保留していたら、数日で老人は現れなくなった。
そして今週。
「逃げたか。あのじーさん」
チュートリアルのキャラが変わっていた。今度は女性キャラが現れるようになった。いや、スキンだけの変更という可能性もあるけど。
「本日より、上司に代わり、説得役を引き継ぎました」
と、彼女は言った。少なくとも、その姿と声については、妙齢の美人キャラというインターフェースに切り替わったようだ。
「苦労するね、あんたも。こんなめんどうな奴の説得を押し付けられるんだから」
と僕は声をかけた。
「いえ。任務について、好きだとか大変だとかは、考えないようにしていますから」
と、彼女は少し表情をくずして言った。
「それに、個人的に興味深くもありますし」