青山_練習IO資料
グローバルな課題:「未知の世界を探究する原動力とは何か」
文学テクスト:「おくのほそ道」序章
月日は百代の過客にして、行き交ふ年もまた旅人なり。船の上に生涯を浮かべ、馬の口とらへて老いを迎ふる者は、日々旅にして旅を栖(すみか)とす。古人も多く旅に死せるあり。
予もいづれの年よりか、片雲の風に誘はれて、漂泊の思ひやまず、海浜にさすらへ、去年の秋、江上の破屋に蜘蛛の古巣をはらひて、やや年も暮れ、春立てる霞の空に、白河の関越えんと、そぞろ神の物につきて心を狂はせ、道祖神の招きにあひて取るもの手につかず、股引の破れをつづり、笠の緒付けかへて、三里に灸すゆるより、松島の月まづ心にかかりて、住める方は人に譲り、杉風が別所に移るに、
草の戸も 住み替はる代ぞ 雛の家
表八句を庵の柱に掛け置く。
現代語訳
月日は二度と還らぬ旅人であり、行きかう年もまた同じ。船頭として舟の上で人生を過ごす人、馬子として愛馬と共に老いていく人、かれらは毎日が旅であり、旅が住いなのだ。かの西行法師や宗祇、杜甫や李白など、古の文人・墨客も、その多くは旅において死んだ。私もいつの頃からか、一片のちぎれ雲が風に流れていくのを見るにつけても、旅への想いが募るようになってきた。『笈の小文』の旅では海辺を歩き、ひきつづき『更科紀行』では信濃路を旅し、江戸深川の古い庵に戻ってきたのはたった去年の秋のこと。いま、新しい年を迎え、春霞の空の下、白河の関を越えよとそそる神に誘われて心は乱れ、道祖神にも取り付かれて手舞い足踊る始末。股引の破れをつづり、旅笠の紐を付け替えて、三里に灸をすえてみれば、旅の準備は整って、松島の月が脳裡に浮かぶ。長旅となることを思って草庵も人に譲り、杉風の別宅に身を寄せて、
草の戸も住替る代ぞひなの家
これを発句として、初折の八句を庵の柱に掛けて置いた。
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非文学テクスト:「宇宙に命はあるのか」エピローグ
僕たちはずいぶんと遠くまで旅をした。
150年前のジュール・ベルヌのイマジネーションからスタートしたこの旅で、僕たちはフォン・ブラウンとコロリョフが悪魔の力をも利用して宇宙飛行の夢を実現した現場を目撃し、ニール・アームストロングの「小さな一歩」の影にあった有名ではない技術者たちの活躍を間近から眺め、「そこに何かいるのか、何がいるのか」という好奇心に駆られた科学者・技術者たちがワシントンの指示に逆らってボイジャーを海王星まで送り込み人類の宇宙観を覆すのに遭遇した。
旅は未来へと続き、地球外生命の発見を通して「我々は何者か、どこから来たのか、そして我々はひとりぼっちか」という有史以前からの深遠な哲学的問いに迫る数十年後の未来を訪れ、そして自らが招いた危機を智慧によって解決して地球外文明とのファースト・コンタクトを果たし、ホモ・アストロルムとして銀河文明の一員となった、千年後、一万年後の未来を垣間見た。
この旅で僕が最も伝えたかったことは何だったか、読者の皆さんにはすでにおわかりだろう。
イマジネーションの力だ。
宇宙開発のみならず、あらゆる科学技術は、ただ方程式を解いたり、望遠鏡や顕微鏡を覗いたり、図面を引いたり、プログラムを書けば前に進むものではない。それは例えるなら車の部品のようなものだ。タイヤやエンジンが勝手にどこかに走るのではない。運転手の南へ走るという意志が車を実際に南へと走らせる。その意志がイマジネーションだ。
もしかしたら現代は、人々がイマジネーションを働かせる余裕に乏しい時代かもしれない。テレビやインターネットやスマホが片時も休むことなく情報を吐き出す。自分から頭を働かせなくとも、生活空間はほんの小さな隙間すら情報で埋め尽くされる。旅先の静かな夜や、待ち合わせに遅れた恋人を待つ甘い時間さえ、スマホは余念無く我々の心を情報の鎖で縛り、イマジネーションを働かせる自由を奪う。
もし今度、晴れた夜に外を歩く機会があったら、あるいは仕事帰りにバスを逃してバス停で待つ時間があったら、スマホをポケットにしまい、夜空を見上げて欲しい。きっとそこに輝いているはずだ。大昔から人のイマジネーションの源となり続けた、淡くまたたく星屑が。毎日形を変える銀色の月が。星々の世界に遊ぶ惑星たちが。運が良ければ流れ星が走るかもしれない。人工衛星や国際宇宙ステーションも見えるかもしれない。
想像してみよう。その美しい星空に、淡い天の川の流れの中に、一千億の世界があることを。
想像してみよう。その多くの世界には、雲が浮かび、雨が降り、川が流れ海に注いでいることを。
想像してみよう。その世界に生える不思議な形の植物や地を闊歩する異形の獣のことを。
想像してみよう。その世界に生まれた好奇心とイマジネーション溢れる知性を。
彼らはどんな言葉を喋っているのだろうか。
彼らはどんな知識を持っているのだろうか。
彼らはどんな哲学を持っているのだろうか。
彼らはどんな歌を歌っているのだろうか。
彼らは何を美しいと思い、何を愛おしいと感じるのだろうか。
そして想像してみよう。彼らの世界の夜空に広がる満天の星を。その無数の星屑のどこかに、太陽系がある。
想像してみよう、彼らが我々と同じようにその夜空を見上げ、想像に耽っている姿を。
想像してみよう。彼らが何を想像しているかを。