第5回 200609
『日本の地方政府』5章、終章
(↓共同でノートを作る感覚で、どんどん上書きしてください。各章の最後に質問やコメントを一人5つ程度書いてください。質問・コメントは記名で)
第5章 中央政府との関係
1 国との三つの関係
国とは何か、地域とは何か
中央政府と地方政府の役割はきれいに二つの分けられるものではない。
→安全保障ですら、緊急事態の際に人々を避難させるのは地方の役割。
→逆に、都市計画であっても、法制度の骨格は中央政府が作る必要がある。
これは私たちが、国民でもあり住民でもあるという二重の性格を持つことと関係している。
国が果たす三つの役割
中央政府と地方政府の関係
①地方政府の政治と行政に、能力など何らかの不足がある場合、中央が補う、あるいは代行する場合
②中央政府の政策の実施を、地方政府が委ねる場合
③政策から利益を受ける地域と負担を背負う地域の間にズレがあり、調整を行う場合
日本では、①と②の側面が、明治以来の中央と地方の関係の中心になっていた。
→この二つの制度の継続性の陰で、高度経済成長期に③の側面が拡大。(経済発展していく都市部と、取り残される農村部の利害調整が持ち込まれたから。)
→1990年代からの地方分権改革で、①と②の側面を改革しようとした。(制度改革)
→しかし、制度改革だけで関係が決まるものではない。③の側面も重要。
2 総務省の後見、事業官庁からの委任
地方政府の統制
中央政府が地方政府に対して、後見と委任を行う理由
→どちらも中央政府が、地方政府を統制しようとするから。
しかし、後見と委任には違いもある。
→統制を中央政府のどの省庁が行うかという点に違いがある。
委任:実際に政策を実施する事業官庁
後見:中央・地方関係を所管する制度官庁(現在の総務省)
内務省による後見
戦前の中央・地方関係の最大の特徴
→委任と後見の両方を内務省が兼ねていたこと
内務省による統制の中心は、人を送り込むことによる人的統制だった。
市町村に対しては、人的統制よりも権限を通じた統制が行われた。
また、市町村長を中央省庁の一つの機関として位置づける機関委任事務の仕組みがあった。
内務省・府県体制の変容
1919年の都市計画法で六大都市、1933年の改正で全ての都市が都市計画を実施し、独自の都市計画行政が分化していった。
社会保険行政が展開されるようになり、1938年に国民健康保険が成立され、これを所管するものとして同年に厚生省が成立した。
農村への補助 ex)義務教育費国庫負担金 →補助金のしくみの開始
事業官庁による委任
都道府県知事の公選化に伴って各省が出先機関を設置するが、都道府県の存在意義がなくなるために、機関委任事務を都道府県に適用する。その結果、中央から人材の出向が相次いだ。
機関委任事務・義務付け・枠付け・必置規制
機関委任事務→一般的な指揮監督権に加え、中央政府と都道府県知事や市町村の対立が生じた場合、その解消を図る仕組みが用意される。 例)職務執行命令訴訟制度
機関委任事務以外の統制手段
①義務付け・枠付け
②必置規制
③地方事務官制度
個別補助金
個別補助金→省庁ごとに事業を実施する一つの柱となる。それぞれの政策領域ごとに、全国的に政策実施していくための補助金が用意される。
個別補助金を含め、省庁が地方政府に移転する財源は、正式には国庫支出金という。
国庫支出金の種類
①国庫委託金(国の業務を地方が実施する場合、すべて国が負担する。)
②国庫負担金(国と地方がそれぞれ一定の責任を負う場合、その割合に応じ負担する。)
③国庫補助金(地方が責任を持たない領域に対し、中央政府が症例を行うもの。)
③、②、①の順に重くなる。①が最も重い。
機関委任事務と補助金の政治的基盤
日本の中央・地方関係の特徴として、融合性の強さがある。
中央政府は地方政府に政策実施を委任し続けてきた。
→中央政府の規模が小さいことの要因の一つ。
中央と地方の関係の変容
→1930年代から50年代にかけての変容期を経て、1960年代からは安定した。
→地方政治家や行政官は、自主財源が不足している中で、政策を展開するために、補助金を求めた。
→地方政府は自分たちの必要に応じ、補助金のメニューから必要なものを選択した。
→高度経済成長期には、機関委任事務と補助金が手を携えて拡大していく。
機関委任事務や補助金は、国政の自民党議員と地方の政治家の支持なしで、中央省庁の意向だけで維持できるものではない。
3 均衡としての地方交付税
財政移転と地域間再分配
地域再分配の主たる手段
地方交付税→自由な税源
個別補助金→使途が限定
財政移転は垂直的財政調整と水平的財政調整を組合せることで成り立つ
日本で最初に導入されたのは1936年臨時町村財政町村調整金→変遷しながら現在の地方交付税へ
地方交付税とは何か
財政調整の方法
ボトムアップ→財源確保を保障するが放漫財政や税収確保の努力放棄を招く
トップダウン→地方が必要とする財源が確保できる保障はない
→地方交付税は両方の側面を持つ
国税から確保する総額を地方政府ごとに算出した不足額にもとづき配分
→人口や経済状況、地理的条件等を考慮した算出式によって計算。そのため裁量による決定ではないので陣情や圧力で増額のしようがない。不満があれば算出式の見直しを求める形に
指示され続ける地方交付税
地方交付税制度は自治省・総務省の利益に沿い、大蔵省・財務省も完全なボトムアップ型ではないため受け入れやすい。
地方政府には算出式による配分が公平感を与え、財政確保のための圧力活動から解放
→関係者が維持に反対しないため制度が安定
地方財政への強い統制
地方交付税導入の裏返しとしてかけられる二つの統制
1.地方税の税目や税率への統制
税目は基本的に中央政府が決定
税率における三種類の統制
①一定税率 まったく裁量の余地がない税率
②制限税率 それ以上の税率が認められないもの
③標準税率 通常であれば基準となるが、財政上必要であれば裁量が認められる税率
2.地方債の発行への統制
財政不足に対応するための地方債が認められ、利払いは一部、全額を国が負担。
→自治省・総務省が地方の財政を確保する責任を負うことに
→地方は歳入自治の放棄と引き換えに、歳入額確保の責任から解放される。
都市と農村の対立の緩和へ
農村部は過剰負担か
豊かな地域から豊かでない地域への負担
ex.原子力発電所、軍事基地、ダム
負担を背負う地域には中央政府から補償が行われるが、地域住民と向き合う役割は地方政府に委ねられることになる。
4 地方分権改革
三つの改革
第一次地方分権改革
自治省・研究者が中心
機関委任事務を廃止し、法定の関与類型への置き換え
省庁と地方政府の縦割り構造の程度が弱まり、業務の総合化の傾向が強まる。
→総合化に伴い市町村のあり方へ影響 市町村合併の動きへつながった。
小泉政権での三位一体の改革
首相と財務省が主導
郵政民営化
地方税、地方交付税、国庫支出金を一体とする財政改革→三位一体
三つの同時改革であるため事業官庁、財務省、地方政府の三者間で対立と協調の関係に
地方税の拡充、地方交付税および国庫支出金の削減へ
第二次地方分権改革
2006年地方分権改革推進法制定から始まり、現在まで断続的に続く。
個別の法令の義務化の緩和や国から都道府県へ、都道府県から市町村への権限の移管を行う
地方政府の提案を元に行われるため現場の声に基づく改革が可能だが要求を受けた中央省庁が拒否することも多く、大きな成果は期待しにくい。
特区や地方創生などの官邸主体の政策が展開
5 改革の光と影
改革により変わったもの、変わらなかったもの
地方分権改革は中央政府による委任のしくみ、後見的役割の是正に関心が集中
地域間の利益と負担の調整について正面から議論されることはなかった。
小泉政権による政策転換
2000年代は戦後日本の経済発展を前提とする地域再分配の見直しが必要に
グローバル化に伴い都市部が農村へ再分配する余裕がなくなる
小泉政権は都市重視の方向性を持つ政策を展開
都市再生特別措置法 民間による開発の規制緩和
大店立地法 出店する店舗規模への制限撤廃
非争点化された地域再分配
しかしながら明確な争点化がされず、都市重視の方向転換も小泉政権以降断続
福島第一原発事故や普天間基地問題なども個々の争点にとどまり、根底にある地域再分配が争点化することはなかった。
結果として国政の争点として正面から扱われることはなかった。
複雑化する地域間対立
非争点化には地域間の利益対立が複雑化したことも影響
地方都市は生産の場から消費の場へ
三大都市圏の郊外はベットタウンから地方都市化
ニュータウンの建設によって集中した若年層の高齢化
東京の富の再分配のゆくえ
財政の見直しにおいて検討されるべき争点
都市から周辺地域への再分配の程度
法人税を都道府県の財源とすることにより、都市の経済活動成果は周辺地域に広く再分配されてきた。
東京の財源をどのように分配するか
現状としては再分配の範囲は都の範囲にとどまっている
→こうした論点が政治的な争点として浮上することはなかった。
(質問・コメント)
○官邸主導とは?(そもそも官邸とは?、中央省庁との違いは?) 坂入
・官邸とは?
→首相の仕事場所?
→内閣総理大臣の執務の拠点(関)
→内閣総理大臣の執務の拠点(杉浦)
→首相の執務の拠点
・官邸主導の政策の例
→感染症対策(関)
→国家戦略特区 (坂入)
→教育無償化
○都市から周辺地域への再分配の程度が検討されるべき争点として挙げられているが、都道府県としては現状どのように再分配が行われているか。p229 (坂入)
○圧倒的な財源をもつ東京について、再分配が争点にならなかったのはなぜか(杉浦)
水平的財政調整
○コスト削減に努める海外志向の強い企業や都市住民にとっては、農村部は「ぬるま湯」に浸かっている様に見えるとあるが、どういうことか。p.224(関)
→都市部で稼いだお金を税源の再分配によって税収が少ない農村部に移譲することで、農村部が何もしていないのにお金をもらっているように見えてしまうから
→都市で働く人々が得たお金をもとに、全国的に財源の再分配を行うことで、農村部が都市のお金で財政が保たれていること(関)
○小泉政権以降の自民党政権が、都市と農村のどちらかをとるかという争点を表に出すことを避けたのはなぜだろうか。p.226(関)
・表に出すことを避けた理由
・なぜ、都市部の方を取ったのか?
→小泉政権は、都市部の利益を優先する政党へ自民党を変革させようとした
終章 日本の地方政府はどこに向かうか
(質問・コメント)
(本日のゼミを通じて理解したこと)
小泉政権は、日本経済が中長期的に成長するために、都市部へ利益を集中させるのがよいと考え、都市部の立場をとったように思えた。また、それ以降の政権が立場を明確にしなかったのは、農村を敵に回すことを避けるためとあった事から、どちらかの立場を示すことは場合によっては政権に負の影響を及ぼすと考えた。(関)
本日のゼミを通して、有事の際を考慮し地方にもバックアップのための機能を置くべきなのか改めて考えた。コロナ終息後、東京一極集中はどのように変化していくのか目を向けていきたいと思った。(鈴木)
現在の政権は都市部、地方部対してそれぞれどのような考えを持っているのか明確な判断は見られないが、これからどのように変化していくのか注目していきたい。(青木)
安倍政権が進めるような官邸主導の政策が日本で今後どうなるのか注目していきたいと感じた。(坂入)
今日のゼミで農村部は都市部によって財政が保たれていて「ぬるま湯に浸かっている」とあったが、農村部も主に第一産業の担い手としての一面もあると思った。(岡部)