「先行研究の要約テンプレート」の説明と応用例
#ゼミ補足資料
公開:2023/05/27
改訂:2023/06/17
概要
先行研究に関する文献メモ(レジュメ)は、後日使いやすい形式で蓄積していかないと死蔵されてしまう。
大学(院)への進学直後の段階では、そもそもメモを「使う」という表現に違和感を覚えるかもしれない。
いずれ腑に落ちるはず。
今は「1文献につき1つのWordファイル、といったやり方が得策でない」という前提だけ受け入れて聞いてほしい。
分野を超えて共通する先行研究レビューの前提:
我々は書くために読んでいる。
ただし、「読む」から直接的に「書く」へ移行できるわけではない。
「読む」段階の成果をメモに残し、そのメモを使いながら「書く」のが通常。
使いやすい文献メモとは?
円滑な情報管理のための要件
メモ自体を探しやすい
元の文献の内容を思い出しやすい
メモから元の文献に遡りやすい
メモの内容を検索しやすい
アイディアの創発を促すための要件
メモを複製しやすい(気軽に編集できる)
メモを別の形式に変換しやすい
メモ同士を並べて一覧しやすい
メモ同士の関係を可視化しやすい(グループ化や関連づけの作業がしやすい)
筆者が院生時代に作ったものと、後述する「落合フォーマット」を組み合わせてテンプレートを作ってみた。
主に経営学系の人向け。
ゼミ生向けにはGoogle Driveで共有済み。
2023/06/17 - Goodle SlidesのデータをエクスポートしただけのPowerPoint版と、戯れに作ったKeynote版も配付。
先行研究の要約テンプレート YH_at_OMU 2024-04-10.pptx
2024-04-10 - Ⅲの表現を微修正
先行研究の要約テンプレート YH_at_OMU 2023_0617.key
自由に改編して使えばいいと思う。
ただし、汎用性を重視したつもり。例えば……
理論研究の場合、Ⅲでは「検討された理論学説」をまとめればよい。
レビュー論文の場合、Ⅳでは「レビューの手続き」をまとめればよい。
https://gyazo.com/5c1c4595099629b39a0694885eeeea00
https://gyazo.com/290f43738067d9c79a608faa6dc86b81
初学者へのアドバイス
いきなり完成させる必要はない。
特に、研究の初期段階に当てはまる。
例えば、大量の文献をダウンロードしてきてアブストラクトだけ読みまくる時期がある。
そのような段階では、全ての項目を埋めることができなくてもよい。
前掲のテンプレートに固執する必要はないが、意図は理解してほしい。
スライド形式にしているのは、メモのボリュームを有限化するため。
ボリューミーすぎるメモは使いづらい。
自分にとって重要な文献だと判断すれば、当然ながらより詳細なレジュメを作成する。
その上で、レジュメから要点を抜粋してコンパクトなメモを別途作るとよい。
ゼミ生向けのアドバイス
Google Slidesファイルをゼミ内で共有済みの作業フォルダに配置し、そこで編集することを推奨。
クラウドなので自動的に同期、バックアップ、バージョン管理をしてくれる
教員が進捗状況を把握しやすい
スライド内のオブジェクトを一括コピーするだけで、適切な順序で文字列を取得できるようになっている
生成AIに要約させてみてもいいけど、人力で整理整頓しないとすぐにゴミ屋敷化するので注意。
メモの使い方の具体例
メモが蓄積されてきたら、下記のような方法でアイディア出しに役立てることができる。
これらのアプローチは全て並行して用いてもよい。
むしろ研究工程をリニア化することは諦めて、試行錯誤を許容する心構えを持つこと。
研究仲間と一緒に試してみるのもよい。
マトリクス化
文献メモの内容をさらに要約し、スプレッドシートを用いて表として一覧化する。
必要に応じて項目を増やしてもよい。
最初からマトリクス形式で文献メモを作る手もあるが、挫折しやすい気がする。
終わりが見えないので絶望的な気持ちになる
視覚的なノイズが多くて気が散る
操作性が悪い
ある分野でどのような研究が盛んで、逆にどのような研究が不足しているかを特定しやすい。
文書をマトリクス形式で比較検討する一般的なテクニックについては『質的データ分析法』第8章などを参照。
使用ソフト例:Excel,Numbers,Google Sheets
ゼミ生向けには「文献要約マトリクスのテンプレート」を共有済み。
既存ユーザーはNotionでも実現できる。
https://gyazo.com/57ffaae574883ca20147c28f195518f8
カード化
文献メモを印刷し、分割して情報カード化する。
A4用紙に2アップ〜4アップくらいの大きさが妥当。
机の上で並べ替えたり、模造紙やホワイトボードに貼ったり、ステープラーで連結したりする。
厳密には異なるが、『知的生産の技術』で提唱されたKJ法を参考にするとよい。
文献同士の関係性を吟味したり可視化したりする用途に向いている。
とりあえず印刷して眺めているだけでもアイディアが刺激される可能性は高い。
デジタルで行う場合
お勧めのソフトはMiro。
大学の(.acドメインの)アドレスで登録すれば、有料プラン相当の機能が使える。
文献メモを画像として書き出し、GoogleのJamboardやAppleのフリーボードに貼り付ける方法でも実現できる。
https://gyazo.com/6522f8fc5e7fe1e67b91f04c91c9bf59
Wiki化
要約の文章をハイパーテキスト化して、自分用のデータベースを作る。
取っつきづらいかもしれないが、理解できれば強力。
通常のWikiシステムを使ってもいいが、Scrapboxが簡便。
最近ではObsidianやLogSeqの利用者も増えている。
Notionでもできなくはない。
なお、このページはScrapboxで作成されている。
補足
テンプレートの着想元は、世間で「落合フォーマット」と呼ばれているもの。
筑波大学の落合陽一氏の講義資料の中で紹介されたものが多方面に普及している。
先端技術とメディア表現1 #FTMA15 p.65
オリジナル版の6項目
1. どんなもの?
2. 先行研究と比べてどこがすごい?
3. 技術や手法のキモはどこ?
4. どうやって有効だと検証した?
5. 議論はある?
6. 次に読むべき論文は?
フォーマットに言及している記事の例
高速で論文がバリバリ読める落合先生のフォーマットがいい感じだったのでメモ - 書架とラフレンツェ
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