人間は感情の生き物である
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「脳の中で、感情の形成に関わる部位のうち、一番重要なのは“扁桃体(へんとうたい)”です」 扁桃体は、脳の左右にある神経細胞の固まり。アーモンドのような形をしているので、扁桃(アーモンドの和名)という名前がついたという。「扁桃体は、何かを見たり聞いたりしたとき、それが生存に関わる重大なものであるかを一瞬のうちに評価します」
心(あるいは脳)と身体の関係 が関心の一つです。大学院は社会心理学でしたが,このテーマには 修士論文のころから関心がありま した。そこでは報復行動を取り上 げました。何か嫌なことをされて も,相手の悪意や責任についての 考えを改めることはできるのです が,たとえ認知が変化しても,生 理的に覚醒していると(それが実験とは関連ない運動で生じたものでも),強い報復が行われました。 身体は合理性を超越した独自の論理をもっているのです。 大学院のころは,いわゆる「冷たい認知」の時代でした。社会心理学でも知識構造や表象などの概念が隆盛していました。それでも 身体が重要なはずだ,という思いはずっとありました。そんなとき,1991 年の認知科学会で徃住彰文先生が企画した「感情と認知」と いうシンポジウムで話す機会を得 ました。当時は非常に新しいテー マでした。そこでモデルを提唱し たところ,多くの方に興味をもっ て頂き,海保博之先生のお誘いで 『「温かい認知」の心理学』(金子 書房,1997)に収録されることに なりました。 最新の認知科学の発展によって 感情は単なる反射ではなく 非常に複雑で柔軟性のあるシステムだと 分かってきました それは私達が受け継いだ 生物学的特長と 今 生きている文化の双方に 影響を受けます それは認知的な現象なのです 身体によってだけでなく 思考や概念や言語によって 形作られるものです 神経科学者 リサ・フェルドマン・バレットは 言葉と感情のダイナミックな関係性に 強い関心を持ちました 彼女は人が感情を表す言葉を 新たに学習すると それに従って 新たな感情が 生じると主張します 私は歴史家として 言語が変われば 感情も変わると ずっと思ってきました 過去を見れば 感情が 時として 劇的なまでに 変化を遂げてきたことは明らかです 感情は 新しい文化的期待や 宗教的信念や ジェンダーや民族や年齢に関する 新しい思想に呼応してきました 新しい政治的・経済的イデオロギーにさえ 呼応して変化してきたのです 感情には史実性があり これが つい最近になって 理解され始めてきました 感情を表現する新しい言葉の学習が 役立つことには 大いに同意します しかし もっと先に 話を進める必要があります 真の感情的知性を身につけるためには それらの言葉がどこから来たのか どんな生き方や振舞い方についての思想が その言葉とともに もたらされたかを 知る必要があります