2021S 現代法学の先端 第1回 競争法に関する質問への回答
競争法について書かれた初学者にもおすすめの本を教えてください
2021年6月頃に、入門的な翻訳書が出版される予定です。
日本の独禁法を中心とした本ですが、『独禁法講義 第9版』(有斐閣、2020年)という本を書いています。
米国競争法では搾取規制をしてこなかったという説明でしたが、昨年、米国司法省がGoogleを競争法違反として提訴したという報道がありました。これは、どのように理解すればよいでしょうか。
米国司法省によるGoogleの提訴は、Googleが取引先から搾取した、という法的構成を根拠とするのでなく、Googleが他の検索エンジンを排除した、という法的構成を根拠としています。
米国以外では、取引先から搾取したことを根拠として競争法違反に対する法的措置をとることができますが、米国ではできないので、排除という説明の仕方を(事件によっては無理矢理にでも)する必要があります。
米国競争法で搾取を規制してこなかったのは、なぜでしょうか。
主に、次のようなことが言われています。
競争を促進するには、競争に打ち勝った場合に大きな報酬を得ることのできることが必要である。競争に打ち勝った者が搾取することを規制すると、これから競争をしようとする者の競争インセンティブを阻害することになる。
競争に打ち勝った強者の行為、例えば高価格設定を、規制するとして、どこまでが許される価格で、どこからが許されない価格か、の線引きが難しい。価格規制はすべきでない。
皆さんはどう考えますか?
東京書籍の『世界史B』の303ページには、「19世紀末にはシャーマン法が制定されたが巨大企業の形成を制御することができなかった」と書いてあるのですが、何故でしょうか。
一般論として、法律ができたからといって直ちに効果が出るとは限りませんし、また、効果が出たかどうかの判定も難しいことがありますね。例えば、2020年以後、新型インフルエンザ等対策特別措置法が効果的に機能したか否か、という問題を考えてみてください。
その教科書の記述にも、同じことが当てはまると思います。実際にどうだったかは、簡単に説明・論証できることではないので、もしご関心があれば是非調べてみてください。この問題について参考となる書籍として、滝澤紗矢子『競争機会の確保をめぐる法構造』があります。
競争法違反行為のうち「搾取」についての説明のところで「消費者から巻き上げる」という旨の説明をされていましたが、事前資料の英文に出てきたような、納入業者や従業員に対する支配的立場の濫用も「搾取」に当たるのでしょうか。
はい。売る側が買う側から搾取する場合も、買う側が売る側から搾取する場合も、どちらも同じように問題になります。納入業者や従業員は、いずれも何かを搾取者に対して売っているので、そのような事例があれば、買う側が売る側から搾取する事例ということになります。