資金調達
資金調達
エドから聞いたことのなかに、レンダーマンの基本的機能を支えるピクサー特許の話があった。レンダーマンが画期的なのは、モーションブラーという機能があるからだ。そのおかげで、コンピューターで生成したイメージを実写と同じような感じに動かせる。対して、この機能を使わずコンピューターでイメージを生成すると、くっきりしすぎて違和感が出てしまう。この問題が解決できたから、実写映画の一部にCGを使うことが可能になり、コンピューターによる特殊効果の時代が訪れたのだ。 レンダリングで必ず必要になる機能であり、ピクサーの特許を使わずにこの機能を実装するのは難しい。この特許を侵害している有名どころは2社──マイクロソフトとシリコングラフィックスだ。どちらも、CG業界にワークステーションを大量に提供している大手サプライヤーである。
ついにみつけた、と思った。収益の芽だ。ピクサーの特許がどうしても必要なものなら、かなりのライセンス料を取れる可能性がある。成功すれば、少なくともしばらくはスティーブの負担を減らせる。ただ、簡単にはいかない。マイクロソフトに電話をかけ、「ウチの特許を侵害されてますよね。その対価として、ン百万ドルいただきます」と言えるような話じゃない。まずは、訴える準備をしなければならない。つまり、特許侵害をきっちり告発する準備を弁護士に頼んでしてもらわなければならない。開戦準備だ。国境に多くの兵士を並べなければ無視されるのが落ちだ。
最終的に勝てるとしても、法廷闘争を続けるのはピクサーにとって得策ではない、と。ピクサーにとって特許のライセンスは事業戦略ではない。1~2回、キャッシュ獲得のために行う財務戦略にすぎないのだ。時間稼ぎにはなるが、これで長期的な成功が約束されるわけでは
この戦略は成功だった。ライセンスの契約交渉はマイクロソフトが3カ月、シリコングラフィックスが1年ほどでまとまった。妥結額はマイクロソフトが650万ドル、シリコングラフィックスはもう少し多い額だ。また、シリコングラフィックスからは、映画制作に必要なコンピューターの購入に利用できる一定額の信用も手に入れた。こうして、のどから手が出るほど欲しかったキャッシュが手に入り、スティーブもご機嫌になった。資金不足を自分のポケットマネーで補填しなくていい。初めてのことだ。もちろんしばらくのあいだはという条件付きだが、長期戦略を考える猶予は得られたと言える。