真正な実践
authentic practice
研究するかのように学ぶ、仕事をする
真性な実践(authentic practice)というマインドセット
学習科学の基礎となる中心的なテーマの1つは、ある領域の専門家と類似した学習活動に取り組むことで生徒はより深い知識を学ぶ、ということである。この真性な実践(authentic practice)は、近年米国で出された多くの教育スタンダードの基本原理とされている。たとえば歴史科においては、出来事の年月日や順序を記憶することではなく、歴史的な探求をすることによって歴史を学ぶことが求められている。すなわち、一次資料を調べ、歴史学者のように歴史的な分析や議論の方法を用いるのである(National Center for History in the School, 1996)。
理科においても、米国の科学教育スタンダードでは生徒たちに科学的探求の真正な実践に取り組むことを求めており、生徒たちは科学的な説明を構築し、その説明を他者に伝えるとともに正当化するための議論を準備する(National Research Council, 1996, p.105)。
・生徒に真正な実践に取り組ませるための方法を理解するために、多くの学習科学のアプローチによる教育改革の取り組みは、専門家の実践を分析する研究に基づいて行われている。
・専門家の実践は探求の過程である。すなわち、彼らは駆動質問から始め、専門分野に固有の方法を用いて仮説を立て、対立仮説に従う。また反する証拠を収集し、検証・評価する。
・専門家はコラボレーションの最中にコミュニケーションする上で複雑な表象を用いる。科学者や数学者は具体的で視覚的なモデルを用いており、生徒もそれらのモデルを用いるべきである。
・科学の実践は、実験、試行錯誤、仮説検証、討論と議論に関わることである。
・科学の探究は、単独で行う探求ではなく、科学的コミュニティの中で頻繁に同じ専門分野の仲間と出会い、科学者たちは頻繁に他の科学者の主張を評価することについて話したり、自分の主張を論理的に支持しつつ、他者に示す最良の方法について考えたりしている。
関連 ヴィゴスキーとピアジュの関係
・この新しい見方では、科学的知識は状況に埋め込まれ、実践され、協調的に生みだされる。これに対し、伝統的な科学の授業では講義と手順を示された実験実習によって行われており、上述の科学の本質的要素が完全に省かれている。しかし、伝統的な授業では省かれる知識こそが一般社会のメンバーにとっては役立つのである。
真正な実践への経緯
・1980年代と1990年代に科学者は科学それ自体の研究をした。
・新参者は重要な実践全てに参加する方法を学ぶことで、成員へとなっていった。
・科学の最先端の成果は他の分野との境界領域でなされるようになってきている。
・太陽光、光合成、力と運動などを個別に独立したものであるように学ぶのでなく、専門領域を横断して用いられるモデルやメカニズム、実践を学ぶ必要がある。
状況的とは、知識は学習者の頭の中にある静的な心的構造ではないことを意味している。そうではなく、知るということは、人や、環境の中にある道具や人々、そして知識が応用される活動と関わる過程と捉えるのである。この状況的な視点は、伝達と獲得を学習とみなす考え方を超越しており、学習内容の獲得に加え、学習の最中に起こっていることは、長い時間をかけて協調する中で参加パターンが変化するこなのだという考え方である(Rogoff, 1990, 1998)。
深い学習vs伝統的な教室の実践
table:深い学習vs伝統的な教室の実践 学習科学1巻
知識の深い学習(認知科学の知見から) 伝統的な教室の実践(教授主義)
深い学習に必要なのは、学習者が新しいアイディアや概念を既有知識や先行経験と関係づけることである 学習者は、教材を自分たちがすでに知っているものとは無関係なものとして扱う。
深い学習に必要なのは、学習者が自らの知識を、相互に関係する概念システムと統合することである。 学習者は、教材を相互に切り離された知識の断片として扱う。
深い学習に必要なのは、学習者がパターンや基礎となる原則を探すことである。 学習者は、教科書で出会ったものと異なる新しいアイディアを理解することを困難に感じる。
深い学習に必要なのは、学習者が対話を通して知識が創造される過程を理解し、議論の中の論理を批判的に吟味することである。 学習者は事実と手続きを、全知全能の権威的存在から伝えられた静的知識として扱う。
深い学習に必要なのは、学習者自身の理解と学習過程を振り返ることである。 学習者は記憶するのみで、目的や自身の学習方略を振り返ることはない。
出典