症状の除去と活用
われわれが陥りやすい誤りは、問題を引き起こしている欠陥の原因を見つけ出し、そしてそれを取り除いたり、抑制したりしようとする考えである。われわれはこの間違いを禁酒法で犯している。またわれわれは麻薬の悪用に関して再び同じ失敗を犯しつつある。不幸なことに、仮にわれわれが欲しないことを除去したとしても、それが必ずしも欲することを得ることにはならない。私が、嫌いな番組を見まいとしてテレビのチャンネルをまわしても、めったに満足のいく番組にめぐり合うことはない。健康は病気でないこと以上のものである。多くの医者は両者は同じものであるかのごとくふるまっている。欠陥を取り除こうとする努力は、絶対成功しないというわけではないが、それより考慮に値する問題解決アプローチが別にある。しかもそれは、しばしばより効果的でさえある。それは、害をおよぼす要因を恩恵をほどこす要因に変換するために、問題状況から何かを取り除くよりも、そこに何かを付け加えるアプローチである。
・自動車会社配下の保険会社において若者や初心者ドライバー事故率が高く利益が出ていなかった。そういった利用者を取り除くと自動車の販売数も落ちてしまう。保険会社は初心者マークを義務づけることで事故を減少させることに成功した。
・精密部品工場で働く女性たちは出来高と関係なく日給を支払われていた。彼女たちの生産性は低くなり、不良品も増えつつあった。生産性を以前の水準にまで回復し、不良品もなくなれば日給を大幅に増やす歩合制度と提案したが拒絶された。現在の品質のままだと日給が減り、また生活には困っていないため、より多くを稼ぐ必要はなかった。のんびりとしたペースでおしゃべりしながらちょっとした贅沢品を買えればよかったからである。ところがほとんどの女性が就学児童がおり、学校から帰宅したときに母親が家にいないことに罪悪感や負担を感じていた。工場は報酬を増やす代わりに、以前の高い品質と品数の出来高を達成したらいつでも仕事を終えて家に帰れるようにすることを提案した。女性たちは熱烈に歓迎し、品質と品数は最高品質になり、子供達をむかえるのに十分な時刻に帰宅できるようになった。
・スラム街ではギャングメンバーが商店を荒らし、地域から多くの商店が出て行った。スラム街では商品を買うにも困るようになっていた。自主開発グループは警備を増やすといった取り組みを行ったが失敗した。試行錯誤の末、ギャングのメンバーを商店の手伝いとして試験的に雇うことを一部の商店が同意した。商店を荒らすことはなくなり、他の商店もそれに倣い、地域は商品を手にできるようになった。
面倒をみれば面倒はなくなる
問題の原因の利用そのものが解決策かもしれない。
出典