武井壮
僕はスポーツの練習じゃなくて武井壮を動かす練習をしている」
武:タモリさんがたまに食い付くのが僕がスポーツの話をするときだったんで、たぶんね、それに引っかかってくれて、タモリさんからふってくれたんですね。「武井くんさ、香取くんが俺とかがこれからトレーニングがんばったらオリンピックいけるよー、とか言うのはなんか根拠あるの?」そんな話をしていただいたんで、「どんな人でもいけますよ」と。「アスリートというのはなんか夢の商売みたいに思われがちですけど、そんなことないですよ、ちゃんと手順を踏めば行けますよ」という話をさせていただいたんですね。
赤:スポーツが短期間で上達するコツ?あるんですか?
武:まぁあるっちゃありますね。スポーツやると特別な技術練習をたくさんしなきゃいけない、みたいなイメージあるじゃないですか。そのスポーツばっかりやってるみたい、何時間も。それはね、僕はちょっとギャンブルみたいな気がしていまして。なんか一個のスポーツを若い頃からずっとやってそれで勝負するっていうのはうまくいかなきゃお終いみたいなとこあるじゃないですか。そりゃオリンピック出られるような、今回のソチに出られたような選手みたいに若い頃からがんばって成果残してる選手もいますけど。その下にね、そこには辿りついてない選手が山ほどいるわけで。
大:ね。言葉悪いですけど名も無き皆さんがたくさんいるわけでね。
武:ねぇ。たくさんいるんでね。でもそれに青春時代から30歳くらいまでの四半生みたいなものをかけるわけじゃないですか、選手って。それはあまりにもだな、と思って。それより先に、スポーツの練習する前に、まず「自分の身体を動かす練習をちゃんとしたほうがいいよ」と。スポーツってね、頭の中で思ったことをその通りにやればだいたい成功するんですよ。
赤:んん?
武:わかります?
赤:イメージ?イメージ?
武:イメージとかそういうもんじゃなくて、例えば、頭のなかで「あそこにポイって投げて、ゴミ箱にゴミ入れたいな」と思ったらもうこれ、スポーツと一緒なんですよ、要は。でも思ったことが失敗したりするじゃないですか。すごい失敗するような状態でいっぱい練習してもさほど身につかない。だったら例えば、タモリさんともお話したのは「目をつぶって腕を真横に上げましょう」と。で、上げてみるとタモリさんはちょっと上に上がってたんですね、真横よりも。でも、ほとんどの人が、トップアスリートを僕、指導したりしてますけど、トップアスリートでも出来ないんですよ。
大:真横?
赤:ちょうど真横に、目をつぶってやると。
大:ちょうど真横じゃないですか、いま。僕やってますけど。
武:ちょっと上がってますね、やっぱり。かなり水平よりも高く上がっちゃってる。
大:赤江さん、元アスリートですよ。
赤:目をつぶって、、
武:目をつぶってね、真横。左手がちょっと上に上がってしまってる感じですね。
赤:ああ、そうなんですか。
武:ね、この状態ってスポーツ選手が基本的性能がこれだったら必ずズレてんですよ。
赤:あ、自分で思ってるのに対して。
武:はいはい。ズレてんだけど、反復練習すごいやったからそのズレを打ち消すくらいその技術の精度が高まってるだけで。トップアスリートってみんなそうですけど、他のスポーツやらしたら素人じゃないですか。でも、これっておかしくないすか、と。スポーツずっとやって頭のなかで思ったことをやろうとして練習してんのに、それがあんま育ってないってことじゃないですか。要は育ってんのは反復練習した技術だけってことじゃないですか。これってもったいないな、と。すごいアスリートにとっては僕、損失だと思ってんすよ。だけどもいまみたいな基本的な、ただ自分の身体を頭でそう思ったらそう動かせるって能力は応用性を生むんすよ。たとえば。10年その練習をしたならば、頭で思ったことをする練習してるわけだから、他のスポーツに行っても、10年間頑張ったフィジカルだったり経験値が活きて、突然ちょっと上手いところから始められたりするもんなんですよ。それが武井壮です、要は、言ったら。
大:武井さん、目つぶっても行けるんすか、腕。
武:僕、ほとんどまっすぐになると思います。ちょっとやってみます?
赤:目つぶって。
大・赤:うわ!ほんとだー
武:これ、ほとんどまっすぐだと思います。
大・赤:ほんとだー、すごい!
武:何故かっつったら小さい頃から毎日の様に、「手を水平だと思ったらこんくらいだ」という感覚をずっと持ってるんです。垂直も持ってますし、その間が45度ってのも持ってますし、45度からちょっと下げれば40度だっていうのも頭のなかでやったことがあるんです。
大:30年もうやっとると、これを。
武:はい。ずーっと僕はスポーツの練習をするんじゃなくて、「武井壮を動かす練習」をしているわけです。
赤:なるほど。まず自分の身体をマシーンとしたら、これをどう動かしたらどのくらいの角度になるのかを動かせないと次のスポーツ行けない、ってことですね。
大:まぁこれができたらすべてのスポーツできるかったらそういうわけじゃないんですけど、これがスポーツをする、練習する前の基礎ってことです。
これがあって練習するのとこれがなくて練習するのでは、例えば同じ技術をみにつけるのに5倍から10倍くらいスピード違うと思います。
だから、僕みたいのが、十種競技っていうね、技術種目がたくさんあって体力もたくさん必要な種目を大学3年から始めて2年ちょっとで全日本チャンピオンになるなんてことはスポーツの才能じゃないんです。簡単にその技術を習得できる能力を元からトレーニングしてたかどうかの問題です。
だから僕は陸上はやってないけど、子供の頃から武井壮を動かす練習を十何年やって、そっから十種競技をやったからチャンピオンになったってだけの話。
学生:陸上を止めたいときってありましたか?
武井壮:おれはなかったね。それは順調にいってたからっていうのもあるけど、でもやっぱり、スポーツでスランプとかさ、嫌になっちゃうとかやる気なくなっちゃうっていうのは、記録が伸びないのが一番よくないんじゃないかなと思うのね。
武井壮:陸上って不思議でさ、自己ベスト出すのが仕事なのに、練習で自己ベスト出す回数ってそんな多くないじゃん。例えば200M5本いきますって言っても、5本全部自己ベスト出すかっていったら出さないでしょ。
武井壮:でも、試合では全部自己ベスト出したいわけじゃん。なのに練習では自己ベスト出そうとしてる時間がすごい少ないのよ。俺はそれが嫌で毎日自己ベスト出すために毎日自分のデータ調べてたの。偶然調子が悪い日をゼロにしようと思って、部屋の中と外に気温計と湿度計を置いて、気温が何度で、湿度が何度で、体温を脇と肘と膝と足の指の間と、挟めるところ全部測って記録しとくわけ。
武井壮:その時に50メートル計ってたんだけど、自己ベストに対して何%の記録が出たかっていうのを出しとくわけ。それを6年間やってたの、ずっと。自分が着てる服の素材も全部書き込んで、どんな服着てたら体調が良いって感じるのとか、練習で疲れた体力を1秒でも早く回復できる方法を毎日調べてたし。
武井壮:でもそれを6年もやってると、どんなふうにしたら調子が良くなるかわかってくる。俺は陸上やってる日は調子悪い日が一日もなかった。毎日自己ベストが出せる状態だったから、やめたいって思ったことは一回もなかったな。そんな感じだね。ちょっと難しい話だったね。でもそんなふうに陸上やってたのよ、俺。
武井壮:調子が悪いなんてことは、アスリートとしてはまず言っちゃいけない言葉だと思ってる。100の力持ってるとしたら、いつでも100以上出せる能力を持っとくっていうのが、アスリートの最低限の仕事だから。
武井壮:それを毎回やって、あんな風にして世界が広がっていくんだっていうのを、たくさんの人に喜んで見てもらうっていうのが、アスリートが一番役に立つお仕事だと思ってるから。
武井壮:だからそれのために学生時代は1分でも1秒でも早く疲れから回復して、次の練習をまた自己ベストで迎えられるようにと思って毎日やってたかな。