呼吸
腸呼吸
人間は腸でも呼吸ができる――。東京医科歯科大学の武部貴則教授は、可能性は極めて高いと明かす。酸素を含む液体を呼吸不全のブタに浣腸(かんちょう)してみた。すると腸から血管に酸素が移り、体内に行き渡ったという。21年5月、名古屋大学や京都大学と共同で「腸呼吸」が哺乳類で見つかったと公表すると、人間にも同じ能力があるのかと騒然となった。
再生医療研究の先駆者として人体の秘めた能力を探っていた。腸呼吸は以前から研究していたが、奇抜だと周囲は受け止めた。ところが深刻な肺炎に直面した新型コロナの出現で評価は一変する。将来の脅威に備え、肺を直接介さない「呼吸」は、人工呼吸器をつける前に体を持ち直す救命法に一躍、名乗りを上げた。
「人間は、退化していなかったのかもしれない…」。武部教授は漏らす。腸での呼吸に目をつけたのは、人間とは明らかに違うある生き物がきっかけだった。
しながわ水族館(東京都品川区)に身近な自然を紹介する展示がある。時折、水面に向かう魚がいた。ドジョウだ。「普段、ドジョウはえらで呼吸するが、水温上昇などで水中の酸素濃度が低くなると空気を吸って腸で呼吸する」と飼育員の久保沙紀子さんは話す。水槽の水は澄み、腸で呼吸しているか定かではなかったが、特異な呼吸法は生き抜く知恵だという。
腸で呼吸、人間に新たな能力を 肺依存がコロナで露呈
カメは肺呼吸だけでなく「尻呼吸」もできるというウワサは本当なのか?