創造性
「創造的な人間の部類に<確実に>入るには、一般IQや特定分野の能力が高いよりも(神童のレベルであっても)、ある種の性格特性をもつほうがはるかに重要なことがわかった。創造的な人間とは、がむしゃらで集中力が高く、支配力が強く、リスクを厭わぬ一匹狼なのである」。
性格特性が本当に創造性に直接かかわる要因となるのかどうかについては、まだ研究で明らかになっていないが、なんらかの特性が創造的なプロセスと密接にかかわっていることはほぼ間違いない。ではそれはどんな特性なのか? 心理学者のジョン・デイシーとキャスリーン・レノンが重視しているのは、あいまいさの許容——ルールがはっきりしない、ガイドラインがない、あるいは通常の支援体制(両親、学校、地域社会など)が崩壊しているといった状況でも、考えたり、行動したり、気にせずにいられたりする能力——である。確かに、ルールのないところで活動する能力がなければ、ピカソがキュビスムを生み出すとはできなかっただろうし、ガロアが群論を思いつくこともなかっただろう。あいまいさの許容は、創造性の必要条件なのである。
心理学者のチクセントミハイは、これとやや関係する、みずから「複雑性」と呼ぶ性質に注目している。「複雑性」とは、普通は両極端に見えるような気質を併せもてることを指す。たとえば、たいていの人は、「反逆的」と「非常に規律正しい」とのあいだのどこかに当てはまる。ところが非常に創造性の高い人は、ちょっとしたきっかけで、その両極端をいったりきたりする。チクセントミハイは、芸術や文化・理科の学問から実業界や政界に至る幅広い分野で、創造性の高い多数の人を取材した。そしてこの取材ほもとに、複雑性の一○項目——見たところ正反対だが、創造的な人間は両方もつことのおおい一○組の特性——をリストにまとめている。
1 静かにじっとしているかと思うと、突然衝動的な行動を取る。
2 頭は切れるが、ひどく世間知らず。
3 責任感が非常に強い態度と無責任な態度とのあいだで大きく振れる。
4 しっかりした現実感覚と豊かな想像力を併せもつ。
5 内向的な時期と外向的な時期が交互に訪れる。
6 謙虚でありながら、傲慢なところもある。
7 精神面で両性具有——典型的な男女の役割モデルにはっきり合致しない。
8 専門分野の知識や歴史に対して反抗し因習を打ち破る一方、尊重もする。
9 自分の仕事に対し、情熱的でありながら客観的でもある。
10喜びと高揚感に混じって、苦しみやつらさも感じる。
新奇で独自かつ生産的な発想を考え出すこと、またはその能力。創造性についてはさまざまな研究が行われているが、いまだにその本態について明快な結論は得られていない。しかし、いくつかの注目すべき特徴はみられる。高次の創造性――たとえば数学上の発明・発見の過程は典型であり、比較的型にはまった位相を追って進行する。イギリスの心理学者ワラスGraham Wallas(1858―1932)はこれを、(1)準備、(2)孵化(ふか)、(3)啓示、(4)検証の4段階に分けた。第一の準備は、創造者が解決すべき問題についての論点や資料を探索して懸命に努力する時期であるが、多くは熱心な追究にもかかわらず行き詰まりを感じ、一時努力は放棄され、なんらかの気晴らしや別の活動に携わる。これが孵化期であるが、その一見無為の最中に突然あたかも他者が頭のなかに吹き込んだような感じで解決が訪れる。これが、第三の啓示(インスピレーション)の時期である。答えは即座に正しさが確信され、その論理的証明が第四の検証期の仕事となる。
したがって、第一に、創造性は突然真空から出現するものではなく、やはり長年月を要する基礎的学習という努力に加えて、当面の問題へ没入する集中のうえに築かれる。それは単なる思い付きではなく、まして無知や白紙状態と両立するものではない。第二に、発明・発見をもたらす用具として定型的な言語・数学的記号は使われることがなく、視覚・映像的記号が主役を演じる。
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創造性さえあれば、目覚ましい成長と繁栄を手に入れられる――。こうさかんに喧伝されているが、事実はまったく異なる。このような主張は、とりわけライン・マネジャーにすれば、害悪にすらなりかねない。「組織に適応することをひたすら心がけるよりも、自由に創造性を発揮したほうがはるかに価値がある」と創造性を礼賛する人々は、この考え方によって逆に、企業からみずみずしい創意工夫の精神を奪っていくだろう。なぜなら、このような人々はえてして、着想を得ることとアイデアを実行に移すことを取り違え、アイデアを夢想しただけで、現実にイノベーションを成し遂げた気分に浸っているからだ。実務に携わるマネジャーが日々どれだけの難題に直面しているかを知らず、事業がいかに複雑な組織に支えられているかにも無頓着である。