中範囲の理論(theory of middle range)
中範囲理論(ちゅうはんいのりろん、Middle-range theory)とは、ロバート・K・マートンによって提唱された、理論と実証研究とを統合することを目的とする社会学理論へのアプローチである。現在、特にアメリカにおいて、社会学の理論構築において、事実上の支配的アプローチとなっている[。
中範囲理論は(社会システムのような広範な抽象的な存在ではなく)経験的な現象から始まり、データによって検証可能な一般的な記述を作成するためにそれを抽象化する。 このアプローチは機能主義や多くの紛争理論のような以前の社会理論の「壮大な」理論化とは対照的なものであった。レイモン・ブードンは「中範囲」理論は他のほとんどの科学が単に「理論」と呼んでいるのと同じ概念であると主張している。
社会科学者としては、社会現象に類似したパターンが認められ、限定的であるが時代横断的な比較と一般化は可能であるという前提をある程度は受け入れつつも、時代と空間に左右されない理論などありえないという視点も維持すべきある。よって、特定の時代と空間に限定された範囲の中でのみ通用する理論を構築することを目指すという発想が生まれてくる。このような理論を、マートンの言葉を借りれば「中範囲の理論(theory of middle-range)」と呼び、ギャディスの言葉を借りれば「限定的一般化(limited generalization)」と呼ぶのだと保城は説明する。つまり、冒頭に一般的なものとして定義した「理論」を社会科学において追及することはいささか理想的すぎるのであり、社会科学において目指すべきものは「中範囲の理論」なのではないかという視点を保城は投げかけるのである。
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護の中範囲理論は抽象度の高い理論(大理論,モデル,概念枠組み)と,より範囲を限定している具体的な理論(実践理論・小範囲理論)の中間に位置するものである.中範囲理論は大理論と比較するとより明確で,使用されている概念も少ない.そして,現実世界のより限定された範囲を扱っている.つまり,概念は比較的具体的で操作可能なように定義されている.命題も比較的具体的で経験的に検証されている(empirically tested).看護学は知識開発の最終段階として中範囲理論を重視しており,看護実践をサポートするために中範囲理論の開発を必要としている
中範囲理論が注目される理由
理論が抽象的すぎるため実践や研究に活用できないという批判から,中範囲理論の開発が支持された.中範囲理論の機能(役割)は,現象の記述,説明,予測することである.大理論とは異なり,明確で検証可能でなければならない.それにより実践に適用でき,研究の枠組みとしても使える.なお,中範囲理論は看護介入を導く可能性があり,看護ケアを促進するために場の状況を変える可能性がある(Morris, 1996).中範囲理論の主要な役割は,看護科学や看護実践の実質的な構成要素を規定したり(明確にしたり),精練したりすることである(Higgins & Moore, 2000).
中範囲理論の源泉
中範囲理論は1960年代に社会学者ロバート・マートン(Robert K. Merton)によって提唱されたものである.マートンは社会を行為のシステムととらえるタルコット・パーソンズ(Talcott Parsons)の社会システム理論などのように,社会を全体としてとらえようとする大理論を批判し,経験的な社会調査と社会理論とを融合し,個別の事例を説明できる中範囲理論の必要性を主張した(Merton, 1968).看護には1974年に紹介されたが,当時は,中範囲理論は大理論より操作可能であり,研究でも取り組まれているので新しい学問にとって有用であると評価された.
中範囲理論が看護で支持される要因
中範囲理論が看護で支持される要因として,以下のことがあげられる①抽象度が低く,操作可能なので大理論より研究にとって有用である.②限られた範囲の明確な概念を扱うので,大理論より予測することが可能となる.③比較的わかりやすいので,特定された健康問題に対する介入を発展させるプロセスが簡単になり,実践に適用できる可能性が高い
中範囲理論の特徴
中範囲理論の特徴として,以下のことがあげられる(表2─1).
①主たる着想は比較的単純で,直接的かつ一般的である.
②限定された数の変数または概念を扱う.つまり,ある特定の実質的なことに焦点を当て,現実の限られた側面を検討する.なお,実証研究が行われたり,より範囲の広い理論に統合されたりすることもある.
③中範囲理論は,第一義的には,患者の問題や結果と看護介入が患者にどのような成果をもたらすかに関心を向けている.
④中範囲理論は,看護に特有でかつ実践の一分野,ある年齢層の患者,看護活動または看護介入,そして,期待される成果について扱う(Liehr & Smith, 1999).
◦包括的ではなくかつ狭小的でもないこと
◦ある状況や専門分野について,ある程度の一般化がなされていること
◦限られた数の概念を扱っていること
◦命題が明確に述べられていること◦実証可能な仮説を生み出せること
中範囲理論の生成の方法
中範囲理論を生成する方法としては,以下のものがあげられる.
①研究と実践をとおして帰納的に生成する.
②研究と実践から演繹的にまたは大理論の適用により生成する.
③看護理論と看護以外の中範囲理論を統合する.
④看護に関連する他の学問分野から導き出す.
⑤臨床の実践ガイドラインと研究によって導き出された基準から演繹的に生成する.
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中範囲理論の特徴と分類