テクノロジー失業
将来、労働市場が貿易の影響から保護されるようになり、労働置換型テクノロジーの影響がさらに顕著になれば、ポピュリズムの標的が今後数年で変わるかもしれない。中国はすでに製造大国としての地位を確立しており、海外に委託できる仕事はすでに米欧から流出している。流出した仕事が大量に戻ってくることはないだろう。それは有権者もいずれ理解するはずだ。鉄鋼に関税をかければアメリカに仕事が戻ってくると考えている人たちは、ヨーロッパの製鉄所に行ってみるといい。オーストリアでは一四人の従業員で年間五〇万トンの鋼線を生産できる。同国の製鉄所を訪れた人は「ほとんど人影がなかった。せいぜいのところ三人の技術者が薄型パネルで生産を監視していた」と語っている(75)。
アメリカ人の大半は、貿易の対象にならないサービス業で働いているため、貿易の直接的な影響を受けにくくなっているという側面もある。ノーベル経済学賞を受賞したマイケル・スペンスと、サンディ・フラツシュワヨによると、一九九〇~二〇〇八年の全米の雇用増加分のうち、なんと九八%は貿易の対象にならないサービス業だった可能性がある(76)。だが、これから見ていくように、AIと自動運転技術の台頭は、貿易の対象にならない仕事のかなりの部分がいまや自動化される可能性を示唆する。オバマ大統領の退任時の言葉を引いておこう。「次の経済の波乱は海外からくるのではない。容赦ない自動化のペースで多くの素晴らしい中流階級の仕事が時代遅れになることからくる(77)」。