『組織の限界』
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「アローの不可能性定理」で知られ、社会的選択理論の確立に大きく貢献したケネス・J・アロー(1972年ノーベル経済学賞受賞)。本書は、その彼が組織について経済学的考察を行った先駆的な講演集である。アローは、まず個人を前提とした価格システムとしてのみ経済を捉える弊害を指摘し、「組織」という観点を導入する重要性を指摘する。だが、組織は価格システムを補完し、経済活動の向上に寄与する一方、ときに硬直化や不服従など別の問題も引き起こす。組織はいかに機能し、なぜ失敗するか。その弊害を乗り越えるにはどうすればよいか―20世紀後半を代表する経済学者による不朽の組織論講義。
目次
第1章 個人的合理性と社会的合理性
第2章 組織と情報
第3章 組織の行動計画
第4章 権威と責任(目標の対立
権威の価値
権威の達成
責任の価値
責任の達成
権威と責任の間の代替関係についての考察)
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第1章 個人的合理性と社会的合理性
p8
さらに個人間にまたがる組織が必要とされる第二の理由は、協力から発生するはずの利益を確保するところにある。本質的な考慮事項は次の二つである。 1.各個人は異なっており、そしてとくに異なった能力をもっている。2.社会的な課題を達成するに際して、個人個人が見せる能率は、専門化が進行するとともに、概して改善される。われわれは機能の専門化を達成するために、協力を必要としている。交易と分業のあらゆる要素がそこに含まれている。原始的な村に住む鍛冶屋は、蹄鉄を食べることを期待されているわけではない。彼は蹄鉄を作る専門化であり、農民が蹄鉄とひき替えに穀物を彼に供給するのであって、その結果(ここが重要な点であるが)両者ともより良い状態に到達することができるのである。
p8
社会に属するすべての個人が、自分自身の個人的な価値体系に基づいて、ある状態、あるシステム、あるいは配分をほかのものよりも良いと感じているならば、その状態、システム、配分は、社会的により良いのである。
p11
価格システムは単に、いま述べたような意味で効率的な配分を達成できるというだけでなくて、経済に参加する人々に対して比較的わずかな知識しか要求しない。彼等は単に自分自身の欲求について知っていさえすればよい。個人は彼の行動の社会的な帰結に心をわずらわす必要は無い。このシステムに従うかぎり、ある個人が他人に影響を与えるようなことをする場合には、彼はその価格を支払う。彼が他のだれかが使えたはずの資源を取ってしまう場合には、そのために自分が支払わなければならない価格を通じて、彼はその自室を意識させられる。しかし彼は、個人としての他人へのそれ以上の配慮を求められるわけではない。それらの他人は、彼の支払わなければならない価格を通じて補償を受けることになる。
価格システムの短所
価格メカニズム
p14
価格システムは、いわばそれ自身の論理のなかですら深刻な困難を抱えている。
p15
・価格を付けられないものがある
水
大気の汚染
大気汚染をした者が被害を受けた者に補償するとして、大気という流体を監視することは困難
道路の利用
通行料を取ることはできるが、通行料を集めるコストが利益を上回る
信頼
人の信頼は社会システムの効率を高める。他人の言葉を信じられるのであれば、さまざまな面倒を取り除くことができる。
p18
政府が外部性を内部化することにおいて果たす役割は、原則においては明白であるが、そのことは、それが実際に容易であることを意味するわけではない。
p23
価格システムにおいては、一つの極端なことが許されている。われわれは価格を通じて、文字通りの意味でも、そして比喩的な意味でも、負債を支払うのであって、他人に対する責任について、それ以上気を使う必要は無いということになっている。しかし、価格が完全に働かないということを前提にするならば(われわれが道路上にいる場合、われわれが道路に対して支払わなければならないかもしれないいかなる対価とも別に、他人の生命の危険を脅かしていることについてはある種の責任がある)、われわれは、ある程度まで社会的な責任を考慮しなければならないはずである。しかしそのとき社会的責任はもはや簡単な、輪郭の明瞭な境界線を持ったものではなくなってしまう。
第2章 組織と情報
組織の目的とは、多くの(事実上はすべての)決定が、実際に成果をあげるためには多数の個人の参加を必要とするという事実を十分に生かそうとするところにある。とくに既に注意しておいたように、組織とは価格システムがうまく働かない状況のもとで、集団的行動の利点を実現する手段なのである。
p30
不確定的財貨
不確実性の意味は、われわれが、正しいと完全に信じることのできる完結した世界叙述を持っていないということに他ならない。そのかわりに、われわれは世界を、ある範囲に属する状態のなかの、あれかこれかという形で考えるのである。世界についてのこれらの可能な状態の一つ一つをとれば、おのおのがすべての当面の目的にとっては完結した形で叙述されている。われわれの言う不確実性とは、これらの状態のうちのどれが現実のものとなるかを知らないというところにある。
契約書などで交換と不確実性の条件を定める
p33
価格システムによる危険負担の配分には限界があるということについては、もう一つ重大な理由がある。本当の危険と、単に最適な行動をとりえなかったこととの間の、区別をつけることがむずかしいということである。保険を研究している人達は、このような難点を「道徳的陥穽(モラルハザード)」と呼んでいる。たとえばある家が火事になったとしよう。出火するということは、外的な条件もさることながら、それと一種の個人的選択とが結びつく点に原因があるのかもしれない。不注意ということもあるし、極端な場合には放火ということもある。
陥穽 かんせい 落とし穴のこと
逆選択
生命保険のような場合、保険をかける側は、保険会社よりも、自分自身についての危険をよりよく知っているかもしれない。保険会社としては平均的な保険計算に基づいて、料率を決定することから出発するであろう。しかしそのとき、危険の大きい人たちは平均以上に保険をたくさん買うだろうが、危険の小さいグループが保険を買う量は少ないだろう。かくて保険料金でウェートづけして、保険会社側の経営内容は、保険計算上の状態よりも不利になってしまうだろう。したがって、保険料率は引き上げられなければならないが、しかしそうなると、危険の小さいグループはいよいよ保険をかけなくなってしまうだろう。そのような場合には明らかに、危険について十分保険で守られていないような人が、たくさん出てきてしまうという事態が起こる。
p35
職業倫理
職業倫理は、この点で価格システムの失敗によってつくり出されるギャップを、なんらかの形で埋める制度として理解することができるだろう。
第3章 組織の行動計画
第4章 権威と責任(目標の対立
権威の価値
権威の達成
責任の価値
責任の達成
権威と責任の間の代替関係についての考察)