『マネジメント-務め、責任、実践』
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マネジメントとは務めであり、専門分野でふり、人である。マネジメントの成果はみな、マネジャーによる成果である。失敗はみなマネジャーに原因がある。マネジメントの主体はチカラでも事実でもなく、人である。マネジメントが成果をあげるかどうかは、マネジャーのビジョン、献身、高潔さにかかっている。
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プランニング、段取り、全体のとりまとめ、成果測定などが、マネジャーの仕事と見なせるだろう。プロフェッショナル、つまり市場調査の担当者や原価計算の上級担当者などもまた、目標や期待内容に照らしながら、自分の仕事のプランニング、段取り、成果測定などを行わなくてはいけない。同僚たちとの連携も欠かせないだろう。自分の仕事と、所属部門の仕事とを、うまく調和させなくてはならない。何より、結果を出すためには、自分の仕事の成果を応用する立場にある他分野や他職能の人々とも、横方向の足並みを揃える必要がある。
同じく、「マネジャー」は下方向、つまり部下の仕事との整合も考えなくてはならない。従来のマネジャーの定義は、この点を重視しているのだ。部門が結果を出すうえでは、周囲の人々と足並みを揃えることが最も重要だが、これは横方向の関係にあたり、自分の管理権限が及ばない相手と共同歩調を取ることを意味する。
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プロフェッショナル、とりわけスペシャリストは、マネジャーを必要とする。プロフェッショナルにとっては、専門分野の知識と専門性と、組織全体の業績や結果との関係が大きな頭痛の種である。このため、コミュニケーションが難題として立ちはだかる。自分の成果がほかの人々によって利用されないかぎり、効果的な仕事などしようがない。ところが、成果は何かというと、アイデアであり、情報である。このためプロフェッショナルは、成果を活用する立場の人々に、自分が何を言おうとしているのか、何をしようとしているのか、理解してもらわなくてはならない。しかし、職務の性質上、どうしても専門用語を使いたくなってしまう。それどころかややもすると、専門の世界の言葉でしかうまく話せないのだ。それでマネジャーが、「まわりの納得を引き出せないかぎり、仕事の効果はあがらない。納得を引き出すためには、『顧客』、つまり組織内のほかの人たち(往々にして、同じ分野の同僚を含む)のニーズ、仮説、限界などを探ることが欠かせない」とスペシャリストに理解させなくてはいけない。組織の目標を、スペシャリストたちに通じる言葉に翻訳するのも、スペシャリストの仕事の成果を利用者に分かる言葉に置き換えるのも、マネジャーである。つまり、スペシャリストが自分の仕事の成果を同僚の仕事と結びつけるためには、マネジャーに頼ることになるのだ。
このように、スペシャリストがよい仕事をするにはマネジャーが必要ではあるが、マネジャーは上司ではない。むしろ「水先案内人」「スポークスマン」「マーケター」なのだ。マネジャーは、プロフェッショナル、とりわけ生粋のスペシャリストにとって、自分の知識、仕事、能力などを組織全体の結果に結び繋げるための、そしてまた、組織のニーズ、力量、機会などを探り出すための媒介役なのである。
それどころか、本物のプロフェッショナルはある意味、マネジャーよりも「優位」にいるだろうし、それがあるべき姿だろう。「指南役」「啓発者」として役目を果たさなくてはいけないのだ。マネジメント層を啓発し、より高いビジョンを抱かせ、新たな事業機会、新たな地平、新たなより高い基準を示すのがプロフェッショナルの務めなのである。