『ブラッド・ミュージック』
p16 3
本拠地をはなれたところにも本拠地はあるのさ。
p56 4
ヴァージルはベットに横になっていた。となりには白いスーツにくるまれた柔らかなかたちが、静かに寝息をたてている。
p62 1
ヴァージルはもう何週間もこのてのオフィスを見てきた。土を思わせるパステル・カラーの壁面。きちんと積まれた書類の山や郵便物整理かごののったグレーのスチール机。心理を読む質問を慇懃な口調でたずねる男女。今回は女で、それもグラマーで服装も素晴らしく、表情にも親しみと面倒みのよさがうかがえた。その前の机の上には、彼の履歴書と心理分析テストの結果がのっていた。このてのテストのうけかたはとっくに覚えていた。スケッチを書けといわれたら、目や鋭い楔形のものは書かないようにし、食べ物やかわいい女性を書くこと。自分の目標はつねにはっきりと実際的なものとしながらも、少し欲ばりぎみにして述べること。想像力を示すこと、ただし突拍子もない夢想はだめ。彼女は書類を見てうなずき、目をあげて彼を見た。
p71 5
彼女はうなずいて、お茶か、ワインか、ビールはどうかときいた。「ビールがいいな」
母は台所を指した。「冷蔵庫に鍵はかかっていませんよ」
p86 4 <>は点
かっとなって、そこのコンピュータを壊してしまったの?」
「まさか」彼はにやりとした。「こ<わし>はしないさ。ちょっぴり<私>物化はしたかもしれないけど、やつらが気がつくものか」
p88 1
彼女は握りしめたこぶしを顎の下にひきよせてあとずさった。まるで、自分をゆっくり殴っているように見えた。
p95 2
「それに、しゃれた服を着てるね。誰の見たてだい? その趣味と同じくらい色っぽい女性だといいんだがな」
p98 3
「ぼくは産婦人科医だぜ、ヴァージル、かっこいい研究者なんかじゃないんだ。ザ・不純科って、さんざんからかわれているやつだ。
p109 3
電池がきれかけて、表示が暗くなっていた。怒ってふると、表示がくっきりと浮かびあがった。午前六時三〇分。ゲイルは起きて、学校の準備に追われているところだ。
p119 4
彼はいすの肘かけを握りしめた。「母は・・・・・・」手の緊張がはっきりわかった。「魔女さ。魔女と幽霊が両親ときた。取りかえ子だ。ここでは小さなものが大きな変化をもたらす」
p168 3
最後にポーレットに会ったのは三月だった。別れは友好的だった。何もかもが友好的だった。彼らはおたがいのまわりを月と惑星のようにまわるだけで、けっしてほんとうにふれることはなかった。
p177 3
ヴァージルは才能はあったが(浴槽の中の赤く水ぶくれのできた死体がまぶたに浮かぶ。過去形、過去形)
p203 5
「わたしがとても美人だから。悪魔が花嫁に望んでいるのよ」
p280 3
生物景
生きている風景
p313 3
ハワードがジーンズわたした。「急いで」彼らは寝室をでてドアをしめた。彼女はベッドの縁から足を投げだし、ズボンにつっこんでたちあがり、ズボンをひっぱりあげてジッパーとボタンをかけた。膝は痛くなかった。はれはひき、万事うまくいっているように思えた。口の中に妙な味がする。あたりを見まわして懐中電灯とラジオを探した。両方ともベッドのわきの床の上にあった。それをひろって、彼女はドアをあけ、廊下にでた。「ケニー?」
p352 2
「苗木ちゃん——」
「その名前で呼ばないでったら、ちくしょう! わたしは妹なのよ、変態! わたしをただ置き去りにしていっちゃうつもりなのね——」
p373 2
ゴーガティ。すごいぞ。ゴーガティ! はるかに密すぎ、はるかに理論化を見すぎ、はるかにありすぎる。北米で知っている。最小のものまで、北米で現れている。わたしたちに教え、準備させている。みんないっしょだ。死ぬほど怖いすばらしく怖い最上の恐怖、ポール、肘で感じるのではなく思考の不思議、こんなものはない。いま制約を超える自由が怖く、すでにすばらしく自由に思える。大きな自由わたしたちは順応するため変化しなければならない。認識不能。
p378 4
彼女はふり返った。食料管のあったところにはいま、でたらめに缶詰をつめこんだ何十という箱が口をあけて置かれていた。いちばん近い箱の上に、缶切りがあった。
「何もかも考えているのね」とスージー・マッケンシーはいった。数分後、雨がふりはじめた。
p417 4
もう五百年以上にわたって地動説の正当性を知っているはずの科学者が、いまだに太陽が"沈む"という表現を平気で用いているのに腹をたて、りっぱなおとなが太陽との関係をきちんと考えられないのは"日没"という言葉の詩的響きにも原因があるとし、「いまだに、回転して太陽の見えないところにそれてゆくことを表現する詩的な言葉を発明したものはいない」と嘆いている。