G-SHOCK
商品企画 増田裕一
デザイン 二階堂隆
設計 伊部菊雄
1983年に発売、1995年に日本でブーム
伊部 さすがにゴムが周りに付いていたら、腕時計として商品にならない。そこでゴムを全部片付けて、違う方向性で開発することにしました。落としたときに(ダイレクトに時計の中心部に衝撃が伝わるのではなく)、5段階で衝撃を吸収する仕組みにして、部品の強度を上げる方向で作ることにしたんです。そうしたら今度は「電子部品が1つだけ壊れる」という現象に悩まされるようになりました。
伊部 1つだけ。液晶とか、コイルとか、水晶とか……全部じゃなくて、1つだけパーツが壊れるんです。壊れないようにパーツを強くすると、今度はその次のパーツが壊れる。壊れたパーツを強くすると、今度はその次が……という感じで。堂々めぐりで、1つだけ部品が壊れ続ける。
今は「多分こういう理由だったんだろうな」って分かります。例えば10の強度のものを作るときに、部品の強度を10に決めるとしますよね。基準は10に揃えても、実際に仕上がってくる部品の強度はぴったり同じにはならないんです。例えばAのパーツの強度は10、Bは11、Cは12、Dは10.5……という感じで、たとえ基準を10に揃えても、実際の部品の強度にはばらつきが出てきます。そうすると、部品同士で強度を比べていちばん弱いものが壊れるんですね。11、12と部品の強度をどんどん上げていっても、その中で一番弱いものが壊れる、これは変わらないんです。
休日でしたから、お昼を食べに外に行きました。帰り、出社拒否みたいな気持ちになって、会社に真っ直ぐ戻りたくなくて公園のベンチにぼんやり座っていたら、目の前で子どもがボール遊びを……まりつきをしていました。「ああ、子どもは悩みがなくていいなあ……」って思いながら、ジーッと見ていたんです。もう、今なら「変な人がいます」って警察に通報されるんじゃないかっていうくらい、ジーッとその子どもを凝視していたんです(笑)。
そのとき、突然、あるイメージが頭に浮かびました。ボールの中に時計が浮いている絵が頭の中にうかんだんです。もしもボールの中に時計が浮いているとすれば、100メートルの高さから落としたって、中に衝撃が伝わらないから壊れない。そうか、浮いている状態を作り出せばいいんだ! と気がついて、これが決定的な解決策になったのです。
――腕時計の中で、パーツが浮いているような状態を擬似的に作り出す……ということですか?
伊部 そうです。5段階で衝撃を吸収したあと、最後のモジュール部分に衝撃が伝わらないように、宙づりというか、大事な部分が浮いたような状態を作り出すんです。衝撃が伝わるとき、例えば手のひらでドンとぶつかると大きな衝撃が面で伝わりますが、指で押したら線接触になって衝撃はだいぶ緩和されて小さくなる。ぶつかる部分を点で支えていればさらに伝わる衝撃は小さくなります。宙づり状態にする。5段階で衝撃を吸収した後、点接触でモジュールが浮いているような状態(モジュール浮遊構造)ができあがりました。これがひらめいたのが決定的でしたね。
G-SHOCKとかだと船頭さんというか企画に関わりたい人もたくさんいますけど、ローエンドは自分のストーリーだけでやりやすいんですよね。
30年経った今だから話せる、初代G-SHOCK開発秘話――エンジニア・伊部菊雄さん