認知の参照枠
空間的な認識/行動において基準となる枠組み(座標系)のことを空間的参照枠(spatial reference frame, spatial frame of reference)、あるいは、単に参照枠(reference frame)とよぶ。参照枠は大きく2種類に分けて考えることができる。1つは自己中心参照枠(egocentric reference frame)、あるいは、観察者中心参照枠(viewer-centered reference frame)とよばれるもので、観察者の身体(あるいは身体の一部)を中心とする枠組みである。もう1つは環境/対象中心参照枠(allocentric reference frame)とよばれるもので、自己身体以外を基準とする枠組みである。
自己中心的参照枠と環境/対象中心参照枠のちがいを示す例として、自然言語で表される次の場面を想定しよう。
「太郎は右前方に、桜の木の左側に立って右手を振る花子を見つめた。」
この文では空間対象の方向/位置を示すため「右前方」、「桜の木の左側」、「右手」と3つの表現が用いられている。「右前方」は太郎を観察者として、その視点に立った表現であり、自己中心的参照枠に基づいている。同じく「桜の木の左側」も太郎から見て桜の木の左側に花子がいることを示しており、これも(太郎の)自己中心的参照枠に基づいている。一方「右手」は花子の右の手を示すものであり、花子という(観察者である太郎とは関係のない)空間的対象を中心にした参照枠(対象中心参照枠)に基づいた表現となっている。
この例のように自然言語から空間的なシーンを構成する問題は人工知能(とくに自然言語理解)における重要な課題の1つである(Herskovits 1986)。空間的表現は、物理的世界に対する記述としてだけでなく空間的隠喩(spatial metaphor)としても頻繁に用いられるため、自然言語理解システムを構築するためにも参照枠を考慮する必要がある(開と安西 1989)。
p.62
自己中心参照枠の下位分類
・網膜中心
・頭部中心
・胴体中心
・腕脚中心
関連
整列効果(alignment effect)
出典