Private Credit解約殺到で金融市場に懸念 2026年3月13日
https://gyazo.com/2d467c611a92e7e06d0129ae84f91053
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-03-13/TBREGIKJH6V500?srnd=jp-homepage
プライベートクレジットとは
銀行融資や社債発行と異なり、投資ファンドなどが投資家から集めた資金を企業などに供給する仕組み。主な借り手は中堅企業などで、銀行融資に比べ金利が高く、投資家が得る利回りも社債を上回るなどの特徴がある。市場規模は1兆8000億ドル(約286兆円)に上るとされる。
三井住友DSアセットマネジメントの市川雅浩チーフマーケットストラテジストによると、融資条件は個別交渉で決められる。富国生命保険の小野寺執行役員は、同社に持ち込まれるプライベートクレジット案件の投資期間は7年程度が多いと明かす。
定義はさまざま
資金の出し手は機関投資家が中心だが、個人投資家も含まれる。日本の生命保険会社や損害保険会社、資産運用会社は分散投資などの観点から株式や債券に代わるオルタナティブ(代替)資産投資の一環として投資を拡大している。企業向け融資にとどまらず、ファンドによるプライベートアセット(未公開資産)に対する投融資の総称として使われることもある。
その場合、不動産のほか、インフラ設備や航空機、企業の買収資金向け融資などがファンドの投資対象に含まれる。銀行がファンドに融資するケースも出てきている。
投資家によって定義はさまざまで、第一生命ホールディングスでは、こうした特定の資産を担保にした投融資などもプライベートクレジットの範囲に入れている。これらを含めた市場規模は全体で3兆5000億ドルに及ぶとの見方もある。
相次ぐ破綻で不安拡大
このように複雑で専門的なプライベートクレジットが今、世界の金融市場で懸念材料となっている。プライベートクレジットの借り手だった未上場の米自動車部品メーカー、ファースト・ブランズ・グループが昨年9月に破綻した。一方、貸し手では今年に入り、2月に住宅金融を手掛ける英マーケット・フィナンシャル・ソリューションズ(MFS)が破綻した。
こうした事態に不安を感じた個人投資家などによる解約請求が一部のファンドに殺到した。ファンド側が償還制限を設けたことで、不安に拍車をかけた面もある。ジェフリーズ・ファイナンシャル・グループのアナリストによると、2月の富裕層からのプライベートクレジットへの総流入額は12億7000万ドルと1年前の半分以下にとどまった。
米国では12日にも、モルガン・スタンレーが同社のプライベートクレジットファンドの一つについて償還上限を設けたことが明らかになった。
国内投資家は冷静
ただ、国内の大手生命保険会社は今のところ冷静だ。ブルームバーグが今月行った調査によると、最近の状況に一定の警戒感を示しつつ、投資先の適切なデューデリジェンス(資産査定)などリスク管理を徹底しながら、2026年度も投資を継続する方針を維持している。MFSの問題は「個別事案」として受け止め、今のところシステミックリスクに波及しないとみている。
第一生命HDはグループ全体で25年9月末時点で運用資産総額約58兆8000億円の1.1%に当たる6300億円をプライベートクレジットに投資。T&Dホールディングスは傘下の生保で25年12月末時点で2420億円投資している。
日本国債中心の運用を行っていたソニー生命保険は昨年12月、今年度中にオルタナティブ投資を開始し、500億円から段階的に規模を拡大していく方針を発表した。また個人投資家向けでは国内で野村証券や大和証券などが投資信託を販売している。
野村アセットマネジメントの石黒英之チーフ・ストラテジストも、現時点では金融市場全体を揺るがすほどの信用不安が広がっている状況ではないと11日付リポートで分析した。ただ、信用力の低い企業向けの資金供給に慎重な姿勢が広がりつつある可能性があるとも指摘した。
今後の注目点は
SMBC日興証券の原田賢太郎チーフクレジットアナリストらは6日付リポートで、プライベートクレジットファンドに投資する投資家のポジション調整などの動きが、他の市場の価格変動に影響を及ぼすリスクは否定できないなどと指摘した。
プライベートクレジット市場の先行きは、景気など外部環境にも左右される。東京海上アセットマネジメントの本荘和宏常務執行役員は、中東情勢のさらなる悪化で原油価格の高騰が続き、インフレ下の景気後退であるスタグフレーションの懸念が高まることを懸念し、米国の金利が下がらない場合は大きなリスク要因になると警戒する。クレジット市場の危機が株式市場に波及する可能性もあるとした。
プライベートクレジットで容易に市場を上回るリターンを得るのは「幻想」だと指摘する声もある。ジョンズ・ホプキンズ大学とカリフォルニア大学アーバイン校の研究者らは、プライベートクレジットのリターンは20年までの6年のうち4年でレバレッジドローンのリターンを上回ったものの、残り2年は下回ったとする調査結果をまとめた。
今後は現在起きている混乱が実際に機関投資家の運用成績にどのような形で表れ、投資意欲にどのような影響を与えるかなどに関心が集まる。原油価格の高騰をはじめとした経済環境の変化も、プライベートクレジット市場の先行きを占う鍵となりそうだ。
プライベートクレジット問題は深刻だが、08年金融危機ほどではない
https://www.bloomberg.com/jp/news/articles/2026-03-22/TC3FHHKK3NY800?srnd=jp-homepage
プライベートクレジット市場で深刻化する問題は、より広範な金融危機を引き起こすのか。2008年のサブプライム(信用力の低い借り手)ローン危機を経験した筆者は、「ノー」と断言することに極めて慎重にならざるを得ない。ただ、それが起こる可能性は高くないとみている。
まず、今回の問題で見られる大規模な評価損は、明らかな不正行為と関連している。確かに憂慮すべき現象ではあるが、広範に広がる可能性は低い。問題となっているファースト・ブランズ・グループやトライカラー・ホールディングスが同じ担保を複数の取引相手に差し入れていなければ、はるか前に破綻しただろうし、累積損失も大幅に小さかったはずだ。したがって、今後、そうした評価損が発生したとしても、多くは比較的軽微にとどまる可能性が高い。
次に、プライベート・クレジット・ファンドは、2008年当時の資金調達構造と比べ、パニックへの耐性が高い。当時の主要な脆弱(ぜいじゃく)性の一つは、流動性の低い長期投資を短期借り入れで賄っていた点にあった。そして損失懸念が現実に損失を招く構図となっていた。つまり、投資家が資金を引き揚げ、その結果として強制的な清算が進み、資産価格は本源的価値を大きく下回る水準まで押し下げられていた。これに対し、プライベート・ファンドは通常、四半期ごとの解約を、例えば資産の5%に制限できる契約上の権利を有する。これにより、有害な投げ売りの連鎖が抑制される。
さらに、経済環境はそれほど悪化していない。もし、イラン戦争によって原油価格がバレル当たり200ドルに達し、そこで高止まりすれば、金融危機の発端となった米住宅価格下落に匹敵する経済的ストレスが生じ得る。しかし、現時点ではまだその段階には至っていない。
もっとも、プライベートクレジットの状況が悪化する可能性は残る。投資家が引き出し制限を認識したことで、常に上限まで引き出そうとする誘因が強まり、ファンド側は追加の資産売却を余儀なくされる。その結果、リターンは低下し、それがさらなる解約を招く。さらに、ファンドは実現損失を抑えるために優良資産から売却し、問題のある資産を残す可能性が高い。これにより投資家は一段と早期撤退を目指すようになるだろう。最近の償還請求の急増を見る限り、この負の連鎖はすでに始まっている。
それだけではない。生命保険会社、とりわけプライベート・エクイティ企業に支配される企業はプライベートクレジットへの大口投資家であり、大きな損失に直面する可能性がある。ただし、保険会社が抱える負債は長期にわたるため、損失の顕在化は緩やかになると見込まれる。銀行もまたプライベートクレジット企業に多額の融資を行っているが、2008年当時よりも損失吸収力の高い自己資本を備えており、相対的に備えは厚いとみられる。
経済環境が今後悪化する可能性もある。エネルギー価格の高止まりは企業活動を圧迫し、米連邦準備制度理事会(FRB)にインフレ抑制のための利上げを迫る恐れがある。人工知能(AI)はソフトウエア業界全般を揺るがしかねない。さらに、米国政府の財政状況が一段と悪化すれば、長期金利の持続的な上昇を招くことになる。プライベートクレジットの融資先には多額の債務を抱える企業も多く、金利上昇はそれらの企業にとって重荷になる。
では、政策当局に何ができるのか。有効な対応策の一つは、融資の裏付けとなっている担保の管理を一段と厳格化し、ファースト・ブランズやトライカラーで見られたような二重担保の差し入れを防ぐことだろう。これはブロックチェーン技術が活用できる分野の一つであり、貸し手側は提供された担保が既に他に差し入れられていないかを確認できる。しかし、仮にそれが実現しても、過大評価された資産、あるいは場合によっては実質的に価値がほとんどない資産を裏付けとする持ち分を保有する投資家にとっては、大きな救いにはならないだろう。