GafAMが原子力エネルギーに投資 2024.11.19
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グーグル、マイクロソフト、アマゾンが原子力エネルギーに投資
AIの開発競争が激化するなか、データセンターにおける電力需要が急増している。そこでマイクロソフト、グーグル、アマゾンが目をつけたのが原子力エネルギーだ。米テクノロジー大手は原発プロジェクトへの投資でもしのぎを削っている。
テクノロジー企業の間で、AIなどの稼働に必要な「ゼロエミッション電力」の供給源として、原子力発電への関心が高まっている。
最近、マイクロソフトやグーグル、アマゾンが相次いで原子力発電事業者と契約を結んだ。企業向けにコンピューティングサービスを提供するデータセンターでの電力需要急増に対応するためだ。
電力需要の高まりの背景には、そうしたテクノロジー企業のAIに対する大規模な投資がある。AIは、ソーシャルメディアやビデオストリーミング、ウェブ検索などの従来技術と比べて、電力消費量がはるかに多いのだ。
マイクロソフトは9月、閉鎖中のスリーマイル島原子力発電所を再稼働させて電力供給を受ける契約を、電力大手コンステレーション・エナジーと結んだ。10月には、アマゾンとグーグルが次世代の原子力発電「小型モジュール炉(SMR)」の開発に投資することが明らかになった。
SMRはまだ商業化には至っていないが、エネルギーの専門家らによれば、米国で1950年代以降建設された大型原子炉よりも建設コストが安く、建設自体も容易だという。
かつては風力や太陽光などの再生可能エネルギーに巨額を投資していたテクノロジー大手が、原子力に関心を向けるようになったのは、温室効果ガスを排出せずに、安定的に確保できる電力を求めているからだ。風力や太陽光は気候変動を促すことはないが、電力の常時供給にはバッテリーなどの蓄電システムの導入が必要になる。
マイクロソフト、アマゾン、グーグルは2030年までに全事業で排出される温室効果ガスの排出量をゼロにすることを目指している。だが、この目標を打ち出したのは、AIブームの到来以前だった。
「テクノロジー企業はビジネスを持続可能な方法で成長させたいと考えていて、現時点でのその最適解が原子力なのです」と、格付け会社S&Pグローバル・レーティングのマネージングディレクターを務めるアニーシュ・プラブは言う。
グーグルは10月14日に、SMRの開発を手がけるスタートアップ企業カイロスパワーと電力の購入契約を締結したと発表した。最初のSMRは2030年までに稼働開始予定だいう。
16日にはアマゾンが、別のスタートアップ企業XエナジーのSMR開発に投資することを発表した。
プラブによれば、SMRの建設コストは1基あたり約10億ドルで、ゆくゆくはデータセンターの隣に設置可能になるという。
原子力エネルギー推進には超党派の支持
原子力エネルギーを後押ししているのはテクノロジー企業だけではない。ジョー・バイデン大統領は先ごろ、新たな原子力エネルギープロジェクトの推進を加速させる法案に署名した。超党派の支持を得て議会を通過していた法案だ。
バイデン政権は、米国の電力供給の約20%を占める原子力を、同国の温室効果ガス排出量の削減目標達成に不可欠とみている。かつては多くの民主党議員が、原発の新規建設に安全や環境、経済面の懸念から反対していたことを考えると、状況は大きく変化した。
「米国の原子力産業の復興は、カーボンフリーエネルギーの供給を増やすほか、AIから製造業や医療まで成長分野での電力需要を満たすカギになる」と、エネルギー省のジェニファー・グランホルム長官は述べている。
テクノロジー業界による原子力発電への投資は、苦しい状況に置かれている同産業の再活性化を助けるだろう。
現在、米国で稼働中の原子炉は世界最多の94基だが、ここ数十年での新規建設は2基にすぎない。どちらもジョージア州のボーグル原子力発電所に建設されたが、建設コストは予算を200億ドル近く超過し、稼働開始も数年遅れた。
この2基は、20基あまりの原子炉の新設を目指した「原子力ルネサンス」という大きな流れのなかで建設された。しかしその予算超過や稼働の遅れに加え、サウスカロライナ州での原発建設プロジェクトでも失敗があり、野心的な計画は立ち消えになった。
原発の長年の課題は解決されていない
そうしたなか、テクノロジー業界のトップらは、今回は状況が違うと意気込んでおり、個人財産まで投じて熱心に取り組む人もいるほどだ。
たとえば、マイクロソフトの共同創業者ビル・ゲイツはスタートアップ企業のテラパワーに10億ドル以上を投資している。同社はウォーレン・バフェットが所有する電力会社パシフィコープと提携して、SMRを開発中だ。
SMRのメリットは、原子炉の各部品が大量生産できるほど小さく、製造コストが抑えられることだ。それぞれの原子力発電所では、初めに設置した1基または数基の原子炉を徐々に増やしていく方法を取る。
そうやって「原子炉をたくさん建設することによって、最終的には安上がりになるのです」と、大手テクノロジー企業も加盟する業界団体クリーンエネルギーバイヤー協会(CEBA)のリッチ・パウエル会長は言う。
だが原子力エネルギーに批判的な向きは、その主張に疑問を投げかける。電力会社やテクノロジー企業は聞こえのいい宣伝文句を並べているが、原子力発電の長年の問題は解決されていないという指摘だ。その問題とは、新規原子炉のコストの高さや、建設の遅れ、使用済み核燃料の最終処分場の不足などである。
原子力発電に反対する非営利団体フェアウィンズ・エナジー・エデュケーションのアニー・ガンダーセンは、次のように指摘する。
「1960年以降、米国では250基の原子炉の建設が計画されてきました。その半数以上が稼働前に中止されています。稼働にこぎつけた原子炉でも、予定より遅れずに予算内で建設できたものは1基もありません」
それでも、多くのテクノロジー企業や電力会社の幹部は、風力や太陽光、水力発電のような再生可能エネルギーには、急増するエネルギー需要に応えられるほどの安定性がないため、原子力が不可欠だとしている。
データセンターの規模は「メガワット」表示
電力消費は数年前からすでに、個人や企業による電気自動車やヒートポンプ、エアコンの利用が拡大したことで増加していた。そして最近は、テクノロジー業界のデータセンターがその増加を加速させている。
いまのところデータセンターが世界全体のエネルギー消費量に占める割合は小さいが、その割合は着実に増えている。さらにデータセンターは特定の地域(米国ではバージニア州北部など)に集中する傾向があり、そうした地域では地元の電力供給を逼迫させかねない。
データセンターでは電力をサーバーの稼働や冷却に使用する。電力はデータセンターにとって非常に重要なので、業界内ではデータセンターの規模を床面積ではなく、受電容量(メガワット)で表している。
データセンター運営企業データバンクのラウル・マーティネックCEOによると、一般的なデータセンターではサーバーラック1つの消費電力は約5〜10キロワットだが、高度なAIチップを搭載したラックでは100キロワットを上回ることがある。そのためデータセンター全体だと、消費電力が「1桁違ってくる」という。
巨大テクノロジー企業の支出額は驚異的なレベルまで増大しているが、その大部分はAIの需要と可能性に応えるためだ。アルファベット(グーグルの親会社)、マイクロソフト、アマゾンなどの5大テクノロジー企業の設備投資額は、直近の四半期だけで合計590億ドルにのぼり、前年比で63%増になった。
アマゾンは今年、ペンシルベニア州で建設中のデータセンター集積地を6億5000万ドルで買い取った。このデータセンターは同州の原子力発電所から電力の直接供給を受ける予定だ。
マイクロソフトはスリーマイル島原発の契約に加え、2028年までに世界初の核融合発電所の建設を目指すヘリオン・エナジーと電力購入契約を締結している。
AIブームに沸くグーグルやマイクロソフトが「再エネ開発」を加速
ほんの数年前、巨大テック企業は二酸化炭素(CO2)排出量を削減すると約束した。だが、その後に人工知能(AI)ブームが世の中を席巻した。
大量のエネルギーが必要なAIデータセンターの建設ラッシュを受け、テック業界は気候変動を巡る約束をほごにする一方、電力企業と協力して新たなクリーンエネルギー源の開発を加速させている。
米ネバダ州では、グーグルが公益企業と手を組み、地熱エネルギーによる電力を購入する取り組みを進める。ノースカロライナ、サウスカロライナ両州では、グーグルやアマゾン・ドット・コム、マイクロソフトが電力大手デューク・エナジーと協力し、小型原子炉などの技術開発を促進する契約を結んでいる。
もう一つの初期段階の技術で、IT業界の支援が得られそうなものとして、クリーン電力を数時間ではなく数日間蓄えられる電池がある。
こうした合意から、環境に配慮したエネルギーを必死に探し求めるIT業界が、全く異質の業界と結びついていることがうかがえる。IT企業はソフトウエアと仮想世界に依存しながら急成長することに主眼を置く。一方、低成長の公益企業は、古びた送電網の物理的限界に対処しつつ料金を低く抑え、明かりをともし続けることを目指す。
IT企業は今も風力発電や太陽光発電にとって最大の購入者だが、24時間稼働するデータセンターのニーズを満たすにはまだ十分ではない。チャットGPTのような生成AIプラットフォームで検索する場合、標準的なグーグル検索に比べて10倍以上のエネルギーを要する。モルガン・スタンレーの推計によると、世界で急増するデータセンターがもたらす2030年までの排出量は、米国経済全体の年間排出量の約40%に相当する可能性がある。
旺盛な需要はすでに化石燃料発電所の寿命を延ばしているほか、米国の気候変動対策の進捗(しんちょく)を遅らせ、楽観論を後退させている。メタ・プラットフォームズは最近、2023年の排出量が19年の水準を約70%上回ったと発表。マイクロソフトの排出量は23年6月までの3年間に40%増加し、グーグルの排出量は23年12月までの4年間に50%近く増えた。排出量を押し上げた大きな要因は、データセンター向けの半導体や原材料、電力、そして事業全体の伸びだ。
各企業が排出削減を約束してからわずか数年後にこうした増加が起き、気候変動目標に近づくことがいかに難しいかを浮き彫りにしている。
考えられる解決策の一つがネバダ州で具体化している。新たな料金体系案に基づき、著名投資家ウォーレン・バフェット氏率いるバークシャー・ハサウェイの所有する公益企業NVエナジーが、地熱発電スタートアップ企業のファーボ・エナジーから電力を購入するというものだ。ファーボ・エナジーは地下深くから高温高圧の蒸気・熱水を取り出す坑井を掘削し、その熱を利用して発電を行う。
さらにグーグルが、この電力にかかるコストと、NVエナジーの本来の電力源(よりコストが低い)との差額をカバーする定額料金を支払う。グーグルはそうすることで近隣のデータセンターの電力源として環境に配慮したエネルギーを利用できる上、電力コストの不確実性をいくらか解消できる。
グーグルのデータセンターエネルギー部門グローバル責任者アマンダ・ピーターソン・コリオ氏は「われわれはこの仕組みを全米に広げたいと考えている」と述べた。
同様の料金体系はノースカロライナ、サウスカロライナ両州でも提案されている。複数のIT企業と鉄鋼大手ニューコアが、上乗せされた電力料金を支払い、それによってデューク・エナジーの長期的なコストを低減し、小型原子炉などの技術開発や長期間持続する電力貯蔵の取り組みを加速させるというものだ。ただ、納付される電力料金だけでこのようなプロジェクトの費用を賄う案に規制当局の承認を取りつけるのは難しい。
メタは最近、主に米西部とハワイ州で行われている地熱発電事業を米国の東側で開発するスタートアップ企業との提携を発表した。
新たな電力源は公益企業の計画に組み込まれ始めているが、実際に大規模な発電が始まるのは何年も先のことだろう。
IT企業は膨大なクリーン電力需要を満たすため、次第に 原子力発電に狙いを定めている 。電力大手コンステレーション・エナジーが約16億ドル(約2300億円)を投じ、米国史上最悪の原発事故が起きたペンシルベニア州のスリーマイル島原発を再稼働させたのに続き、マイクロソフトが20年間にわたって電力を購入することで合意した。またアマゾンは今年、6億5000万ドルを投じて原子力発電によるデータセンターを建設した。
オラクルは3基の小型モジュール炉(SMR)で電力を供給するデータセンターを計画中だ。ラリー・エリソン最高経営責任者(CEO)は最近の決算説明会でそう明かした。「いかに待ったなしの状況になっているかということだ」