Anywhere族とSomewhere族の対立 2021年05月16日
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私は安倍政権の経済政策に絶望して途中から政権を支持することをやめてしまったのだが、私のような態度を取った人たちはそんなにいなかった模様である。というのも長期にわたる安倍政権下においてモリカケのようなスキャンダルが起ころうとも支持率は必ず30%から40%はあったからだった。この安倍政権を支えている「岩盤支持層」というのが、どのような人たちなのか新聞やネットなどを読んでいてもよくわからなかった。
デビッド・グッドハートはイギリスのEUから離脱した「ブレグジット」が起こった背景を”The Road To Somewhere”という本に書いています。一方、マイケル・リンドというアメリカの評論家は、”The New Class War”という本でなぜトランプ氏が大統領に当選することができたのかを説明しています。
この2冊の本が面白かった理由はグッドハートが書いていたこととリンドが書いていたことが全く同じことだったからです。
イギリスやアメリカにおいて大学を卒業するのはおよそ全体の30%を占めると著者たちは指摘しています。
この自分の住んでいた土地を離れて都市の大学を卒業した人たちが大企業、マスメディア、非営利企業などの世論を形成する団体に就職しています。この大学を卒業した人たちの経済的な思想は1980年代のレーガン大統領やサッチャー首相が唱えたネオリベラル路線であり、それが発展して現在はグローバリゼーションを推進していく立場になっています。
グッドハートはこのような人たちをAnywhere族(どこでも族)と呼んでいます。
一方、グッドハートがSomewhere(どこかに)族と呼ぶ人々は次のような特徴を持っています。
「現在、イギリスで5人のうちの3人は14歳に住んでいた場所から20マイル(32キロ)以内に住んでいる」
リンドも同じことを指摘しています。
「平均的なアメリカ人は母親から18マイル(29キロ)以内の距離に住んでいると知ったら驚くだろう」
英米の半数以上の国民は地元で生まれ、地元で就職し、地元で結婚して、地元で生涯を終えるのです。
ところが、グローバリゼーションの進展がSomewhere族に甚大な影響を与えます。
まず製造業が中国などの賃金の安い国に出ていってしまったために、製造業で働いていた人達は職を失い賃金の安いサービス業に勤めなくてはならなくなりました。
その上、移民の受け入れが進んだために、英米のSomewhere族は彼らとの賃金競争をも余儀なくされてしまった。
このような状態に遂に我慢の限界が来て、英国のEUからの離脱やトランプ大統領の当選に繋がったという。
グッドハートとリンドの本を引用したのは、彼らが指摘した大学を卒業した30%の人々がグローバル化を先導しその他50%の国民の生活を悪化させているという状況は英米だけでなく先進国共通な現象と思うからです。
フランスの大統領であるエマニュエル・マクロンは大学を卒業したのちに投資銀行に勤めたというグッドハートが指摘したanywhere族の典型的な経歴を持つ人です。
その彼が燃料に税金をかけようとしたときに、フランスの一般大衆たちが黄色いベストを着て反対活動を繰り広げました。
エマニュエル・トッドは『大分断』という本の中でこの運動についてフランス社会の生活水準が下落を続けているという現状が起こしたものであり、国民の70%が支持したことを書いています。
フランスにおいてもやはりsomewhereとanywhereの対立は明確に存在するのです。
では日本の場合はどうでしょうか。
関学の富田教授の指摘、大阪都構想に賛成しているのは大学を出て大企業に勤めて高層マンションに住む大阪のanywhere族であり、大阪都構想に反対したのが長屋に住む大阪のsomewhere族で、これまで2回の住民投票が行われたのですが、両方ともsomewhere族が勝利しています。
やはり日本にも大学を出てグローバリゼーションに賛成するanywhere族とそれに疑問を持つsomewhere族の対立は存在したのです。
維新の会の大阪都構想を2度潰したsomewhere族ですが、これは住民投票という特殊な制度において自分たちの意見を表明することができたに過ぎません。
ところが、国政は基本的に政党政治なのでどこかの政党が契約社員や非正規雇用などの日本のsomewhere族の意見を汲み取らなければいけないのですが、その政党は現在では国民民主党、れいわ新撰組または共産党ぐらいしかありません。
これらの政党はどう考えても政権を取るところまではいかないため結局somewhere族の期待する政策が採られることはなく人数的には少ない30%の大学出身者たちが現在の緊縮財政路線に固執するためにどうにもならない状態が続いていくことになるのです。