AIは反エリートを作り社会を不安定化 2023年11月20日
https://gyazo.com/f5d79c57688785c1becd347eb110b4d2https://gyazo.com/a2162a20c9f26af370ce07e6f5904bd3
AIによって法律業務の44%は自動化されるだろうと予測されている。この予測が実現するなら、急進的で革命的な集団を産む完璧な繁殖場が作られ、雇用の見込みのない知的で野心的なスキルを得た若者の大群を孵卵させるだろう。
ChatGPTをはじめとする生成AIの目覚ましい成功は、機械の台頭が労働者にどのような影響をもたらし、最終的に我々の社会をどう変えるのかについて沸騰していた議論にさらに火をくべた。破滅派は、ロボットが人間に取って代わり、人類文明を滅ぼすだろうと予測している。楽観派は、成長に伴う苦しみは避けられないが、乗り越えれば、新たなる知的機械によって我々社会はもっと良くなるだろうと主張している。なんだかだいっても、人類は、過去の技術革命を特に悲惨な結果とせずに、うまく消化してきている。
しかし、歴史から学ぶのは、簡単ではない。AIによる革命は、我々社会に新たな予期せぬストレスをもたらすだろう。現在、技術のシフトのもたらす勝者と敗者について議論されているが、これは重要な側面を欠いている。技術シフト後に社会・政治的な混乱がどれだけ生じるかも重要だ。
この原理の極端な例として、ある特殊な労働者階級の辿った運命をを挙げられる。馬だ。ノーベル経済学賞を受賞したワシリー・レオンチェフが40年前に指摘したように、アメリカにおける馬の個体数は、1900年から1960年にかけて、2,100万頭から、わずか300万頭にまで激減した。 これは、輸送や農業で自動車やトラクターが使われるようになった事、つまり内燃機関を原因としていた。
馬は肉体的に強力な動物だが、社会的な力はゼロだ。馬の生死は完全に人間の管理下にある。結果、内燃機関による技術シフトは、実質的に馬の大量虐殺をもたらした。しかし、社会水準では、労働を担っていた馬の死亡はほとんど波紋を引き起こさなかった。馬は〔屠殺されるために〕にかわ工場に運ばれても、反乱を起こさない。
人間はどうだろうか? 工業化時代の「労働力」、つまり大学を出ていない男性について考察してみよう。彼らは、馬よりましだったが、労働力人口に占める25~54歳のアメリカ人男性の割合は、1960年代後半のピークから10%近く減少している。
非大卒男性の実質賃金は1970年代後半から低迷している。さらに最近になって非大卒の男性の平均余命は短くなっている。
むろん、技術変化は、この不安を掻き立てる社会推移の一要素にすぎない。ここで指摘したい重要側面が、社会権力において鍵を担っている存在についてだ。経済学者らによる最近の研究では、労働権力の低下が、労働力需給による相互作用以上に、賃金を押し下げる重要要因となっていることを強い実証で示している 。生産性は上昇しても、所得の中央値は横ばいという、乖離状態が生じているのだ。 この乖離の原因の大部分を占めているのは、団体交渉権の毀損、労働基準の弱体化、雇用主から課される新規の契約条件などだ。経済学者の間では1970年以降、非エリート労働者の賃金を抑制において、最も重要な役割を担ったのは、不平等な権力勾配であるとのコンセンサスが高まっている。
アメリカにおける労働者の社会権力の低下において重要な側面は、民主党の進化だ。ニューディール政策期には労働者階級の政党だった民主党は、2000年には10%を代表する政党となった。ライバル政党である共和党は主に1%の富裕層に奉仕する政党となった。90%のアメリカ人は蚊帳の外に置かれたのだ。エイモリー・ゲティン、クララ・マルティネス・トレダーノ、トマ・ピケティは何百もの選挙を調べ、アメリカ以外の西側民主主義国家の政党も、高学歴と富裕層だけを対象とする傾向を強めていることを発見した。
労働者は、凋落を甘んじて受けいれたわけではない。大衆の不満が高まっている兆候はあちこちに見られる。しかし、歴史が教えてくれるのは、革命を引き起こすのは「民衆」ではない事実だ。大衆の窮余化とその結果から生じる不満が統治体制に向かうには、離反エリート、つまり「カウンター・エリート」による組織化を必要としている。カウンター・エリートによる指導や組織化が行われないと、非エリート労働者は、代替としてドナルド・トランプの様なポピュリストで反制度的な政治家に投票し続けることになる。
歴史についてはここまでとして将来はどうなるのだろう? 知的機械による台頭は、過去の技術変化をはるかに超えた大きな形で社会の安定を損なうだろう。なぜなら、AIは現在、高度な学位を持つエリート労働者に脅威を与えているからだ。もっとも、高学歴の人は、〔新しい技術変化を使って〕効果的に組織化して、既存の権力構造に挑戦にするためのスキルや社会的繋がりを活用する傾向にある。1848年の「諸国民の春」から、2011年の「アラブの春」にいたるまで、高い学位を持つ若者の過剰生産が、革命を推進する主張な力となってきた。
AIによる革命は、大卒以上の学歴を必要とする職業に影響を与えるだろう。最もアメリカ社会の安定に脅威をもたらすのは、法律の学位を取得した新卒者だ。実際、世界の革命指導者には、弁護士の割合が非常に多い。ロベスピエール、レーニン、カストロ、そしてリンカーンやガンジーなどだ。アメリカでは、超富裕層でなければ、政治家になるための最も確実なルートは法律の学位を取得することだ。しかし、アメリカではすでに弁護士は過剰生産されている。弁護士の数は、1970年には人口1000人あたり1.5人だったが、2010年には4人にまで増えた。
多すぎる弁護士で少なすぎる仕事を奪い合ったが、これによって弁護士の所得は一律に下落したわけでない。競争によって、弁護士内に強者と敗者の2つの階級が産まれた。ロースクール卒業者の初任給の分布は、下のグラフのように2つのピークを示している。右側のピークは19万ドル前後にあり、これは卒業者のうちの約1/4が受け取る初任給だ。左側のピークは6万ドル前後で、これは卒業者のうちの約半数が受け取る初任給だ。中間の所得者はほとんど存在していない。 この「二峰性」分布は、1990年の通常の「一峰性」分布から、2010年にかけてわずか10年間で進化したものだ。以下は2010年のグラフである。
https://gyazo.com/8387125c2907ebf800f5af2bc4817e9e
この推移が意味しているのは、右側膨らみにいる人たちがエリートへのパイプラインに入ることになり、左側の膨らみにいる人達は(ロースクールを卒業するためにかかった160万ドル以上の借金に押しつぶされ)エリートを志したにもかからわず、挫折した事実である。
今現在、法学の学位を新規に取得したほとんどの人の見通しが、悲惨であるように見えるなら、現在進行しているAIの発達は、それをさらに悪化させるだろう。ゴールドマン・サックスの最近の報告によるなら、AIによって法律業務の44%は自動化されるだろうと予測されている。弁護士は事務・業務運営補助に次いで大きな被害を被る職業になるだろう。市場原理によってこの予測が実現するなら、急進的で革命的な集団を産む完璧な繁殖場が作られ、雇用の見込みのない知的で野心的なスキルを得た若者の大群を孵卵させるだろう。彼・彼女らは破滅的な学生ローン以外、失うものを何も持たない存在だ。過去において、多くの社会がこうした苦境に陥っている。この苦境による通常の結末は、革命か内戦、あるいはその双方だ。
破滅派の最悪の懸念が実現しない限り、長期的には、我々は、知的な機械に対抗するのではなく、競合するなんらかの方法を学ぶだろう。しかし、短・中期的(10年)に、生成AIは我々社会に巨大な不安定性ショックもたらすだろう。なぜなら、ChatGPTや、それに似たようなAIは、大量のカウンター・エリートを生み出す事を予測できるからだ。原理的には、こうした事態に備えるなんらかの管理策を想定できるかもしれない。問題は現在の二極化・膠着した政治システムが、エリートの過剰生産と大衆の窮乏化によってもたらされている緊張関係を緩和するのに必要な政策措置を実施できるかどうかだ。そして、私は実施できるかどうかについて確信を持てない。私は、自身が間違えていることを願っているが、もしそうでなければ、荒波に放り出される覚悟をしてほしい。