AIで完全自動化された未来の戦争 2023.10.16
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ロボット工学と人工知能を活用し、次世代の紛争に備える米海軍機動部隊の現状に迫る。
ロボット船の艦隊が、水温の高いペルシャ湾のバーレーンとカタールの中間あたり、イラン沿岸から100マイル(約160km)ほどの沖合で、静かな波に揺られている。わたしは米国沿岸警備隊の高速艇のデッキで、目を細めて左舷側に目をやる。2022年12月上旬のある朝、水平線には豆粒のような石油タンカーや貨物船や小型漁船が、熱い日射しに揺らめいていた。ロボット船団の周囲を疾走する高速艇の上に立ちながら、パラソルがないか、せめて雲でも現れないかとわたしは願っていた。
哀れな人間と異なり、ロボットには日陰など不要だ。それどころか、ロボットは快適ささえ求めない。ロボット船のデザインを見れば、そのことがよくわかる。わたしの乗る一般的な巡視艇に似た姿のものもいくつか見えるが、大半はより小型で無駄がなく、水面すれすれの高さしかない。ソーラーパワーを動力とするカヤックのような船が一艘に、金属製の帆を張ったサーフボードのような船も見える。ほかにもGoogleストリートビューのあの車両を載せた浮桟橋のようなものもある。
いずれも、米海軍第5艦隊の第59任務部隊の指揮する演習のために集結している。焦点となっているのは、未来の戦争をかたちづくることになる、急激な進化の過程にあるふたつの技術──つまりロボット工学と人工知能(AI)だ。海軍のこれからの作戦に向けて、それらを迅速に取り入れることが第59任務部隊の使命であり、そのためには民間ですでに流通している最新技術の数々を組み合わせ、統合体としてまとめあげる必要がある。
この演習には、水上艦艇、潜水艇、空中ドローンなどを筆頭に、無人のプラットフォームが10種類以上も集められていた。第59任務部隊にとって目となり耳となる新兵器だ。カメラとレーダーを駆使して海上を監視し、水中聴音器で海中を探り、そうして収集されたデータをパターンマッチングするアルゴリズムを使えば、例えば石油タンカーと密輸船を識別できる。
高速艇のクルーがサーフボード風の一艘の動きに目を留める。急に帆を畳み、まるでスイッチブレード[編註:米陸軍の自爆突入型無人航空機として開発された小型ドローン。ウクライナ軍にも提供されている]のように波間を抜けていく。トライトン(Triton)と呼ばれるものだが、システムが危機を感知するとこのような動作をするようにプログラムされている。この姿を消す動作は日常でも役立ちそうだ。遡ること2カ月前、潜水能力のないセイルドローン(Saildrone)という自動操縦艇が2艘、イラン軍により押収された。取り戻すために海軍の介入が必要だった。
トライトンなら最長5日間の潜水が可能で、沿岸部の状況が落ち着くのを待ってから充電のために再浮上し、そして基地に通信を入れる。わたしの乗る高速艇がじきに引き返しそうなのが幸いだった。エンジンを轟かせながら、全長150フィート(約45.7m)の湾岸警備用の巡視船のドッキングベイを目指す。日除けの影にボトル入りの水が大量にあるのを知っていたので、わたしはアッパーデッキに上った。重機関銃と迫撃砲が海に向けられている。
バーレーンの首都マナマの基地への帰還の途につく巡視船のデッキ上は、涼しい風に吹かれている。船に乗っている間、わたしはクルーたちとの雑談を大いに楽しんだ。手榴弾を搭載したオモチャのクワッドコプター[編註:離陸・推進に4つの回転翼を用いる小型無人機の総称]から本格的なミリタリー仕様のものまで、ウクライナ紛争で重用されているドローンについての興味が尽きない。ロシア軍のセヴァストポリ海軍基地に対する最近の攻撃について尋ねたくてうずうずしている。この攻撃には爆発物を積んだウクライナ製のドローン船が多数使われていたはずで、増産のためのクラウドファンディングも行なわれたと聞いている。
だが、ソーシャルメディア企業のSnapが手配した予備兵がわたしに付き添っていて、そのような話は無理だと釘を刺される。第5艦隊は別の地域での活動を展開しており、第59任務部隊の隊員たちはウクライナの戦況について大した情報をもっていないと彼女は言う。仕方なく、AIによる画像生成の現状や、それがアーティストの仕事を奪うことになるかどうか、人工知能によって市民生活にどのような変曲点が訪れつつあるのかなどについて話した。実際のところ、わたしたちはまだ何も理解していない。オープンAIがChatGPTを公開したのはつい昨日のことなのだ。
基地に戻ると、わたしはそのままロボティクス・オペレーション・センター(ROC)へと向かった。そこには水上にある分散型センサーを監視する人々が詰めている。ROCに窓はなく、数列に配置されたテーブルとコンピュータのモニターが並んでいるだけだ。殺風景だが、壁に目を向ければ、ウィンストン・チャーチルやスティーブ・ジョブスといった人々の示唆に富む箴言が飾られている。
ここでわたしは、第59任務部隊の責任者であるマイケル・ブラッスール大尉と落ち合った。よく日に焼けた坊主頭で、水兵特有のあの細めた目で笑みを浮かべている(すでに海軍を退役していた)。テーブルの間を縫うように歩きながら、ブラッスールはROCがどのように運営されているかをにこやかに説明してくれた。「さまざまな無人システムから届くすべてのデータをここで統括していて、AIや機械学習を使って、実に刺激的な解析が行なわれているのです」と彼は言いながら、両手を揉んで、にやりと笑った。
モニターが明滅を繰り返している。第59任務部隊のAIによってこの地域の不審船が特定される。今日もすでに識別番号と一致しない何隻もの船舶にフラグが立てられ、艦隊に調査の指示が送られている。ドローン船のカメラ映像を確認したり、現場に接近させたりといった数々のタスクを1画面で実行できる開発段階の新型インターフェイスについて、ブラッスールから説明を受ける。
ブラッスールと同基地の関係者たちは口を揃え、ここでテストされている自律システムはあくまでも検出と探知を目的とするものであり、武力介入のためではないと語気を強める。「いま、第59任務部隊が力を注いでいるのは視認性の向上です。ここで行なわれているのはすべて有人船舶の支援活動なのです」とブラッスールは言う。だが演習に加わったロボット船のなかには、非武装と武装の差など紙一重に過ぎないことを示しているものもあった──ペイロードを入れ替え、ソフトウェアを微調整する程度の違いしかないのだ。
例えば、自律型高速シーガル(Seagull)は、牽引するソナーアレイで航跡の機雷や潜水艦を追うよう設計されている。シーガルを開発したイスラエルの防衛企業Elbit Systemsのシニアディレクター、アミール・アロンは、遠隔操作の機関銃や甲板から魚雷を発射する装備などを搭載することも可能だと語っている。「自律操縦にすることもできますが、お勧めはしません」と彼は笑う。「第三次世界大戦はごめんですから」
もちろん異論はない。だが、アロンの言葉はある重大な真実に気づかせてくれる。殺戮能力を備えた自律型システムは、すでに世界中に存在しているのだ。第三次世界大戦とまでは言わなくとも、大規模な紛争であれば、各陣営とも遅からずそのようなシステムを装備させるだけでなく、戦況によっては人間の監視を外して機械を解き放ち、機械本来のスピードで戦わせたいという誘惑に駆られるだろう。AI対AIの戦争ということになるが、それで死ぬのは人間だ。ここでひとつ当然の疑問が湧く。これらの機械は、そしてそれをつくる人々は、いったいどのような考えをもっているのだろうか?
航空機やドローンの自動操縦ソフトウェアから、軍艦をミサイル攻撃から守るための自動甲板砲といったものまで、自律型テクノロジーの片鱗はもう何十年にもわたって米軍とともにあった。しかしそれらは、特定の環境下や状況下で特定の機能を果たすように設計された限定的なシステムに過ぎない。自律的かもしれないが、まだ知能は備わっていなかった。深刻な事態に対するソリューションとして、より高性能な自律型テクノロジーの導入をペンタゴンが検討しはじめたのは2014年に入ってからだ。
当時の米国防副長官だったロバート・ワークは、ライバルの国々が米国と「同等の技術レベルに近づいている」ことに危機感を覚えていた。そのワーク副長官が頭を悩ませたのが、例えば中国ほど大量の兵士や航空機や艦船の配備は無理だとしても、潜在的な摩擦に勝利するための「軍事的優位性を取り戻す」手段だ。
国防総省として注力すべき課題について、ワークは科学者や技術者の意見を求めた。「AIによる自律性の強化、という結論に至った」とワークは言う。そうして、機械学習による新たな能力開発を含むイノベーションに主眼を置いた、テクノロジー部門を軸にした国防戦略の取り組みが開始された。
言うは易し行なうは難しとはまさにこのことだ。2,000万ドル(約30億円)の費用を投じた試験艦Sea Hunterや、自律動作型に改造した通常型艦船の一団からなるGhost Fleet Overlordなど、ビッグテックを巻き込んだ複数のプロジェクトを国防総省として立ち上げはしたものの、その取り組みは19年になって行き詰まる。軍事作戦にAIを活用するためのクラウドインフラの構築そのものが政治的火種となり、中止を強いられることになったのだ。AIによる航空画像の解析を目指すGoogleのプロジェクトは厳しい世論とスタッフ陣からの反発にさらされた。
その後、2020年に入り、米国艦隊の今後30年間のアウトラインとして海軍が作成した造船計画は、大型の無人水上艦および無人潜水艇の重要性を特に強調したものだったにもかかわらず──割り当てられた開発予算は大きいとは言えなかった。
ペンタゴンの奥まった場所に構えたオフィスで、元海軍パイロットのマイケル・スチュワートはこの問題に悩まされていた。米艦隊の新たな戦闘システムの開発を監督する立場になったスチュワートでさえ、海軍の取り組みはまるでNetflix時代の夢遊病めいたものではないかと疑いはじめていたのだ。
数年前、彼はハーバード・ビジネス・スクールで経営学者 #クレイトン・クリステンセン の講義を受けた。クリステンセンは、実績ある大企業が新規参入の小企業に足をすくわれる現象をよく知っている。彼は、そうした現象が起きる理由についてこんなことを述べた。大企業は既存のビジネスに集中するあまり、テクノロジーのトレンドを見逃す傾向があるからだ、と。対して、海軍の抱えている問題は、いかにして官僚主義に陥ることなくロボット工学とAIの導入を急ぐかというのがスチュワートの理解だった。 当時、同様の問題意識をもっていた人々はほかにもいた。例えば同年12月、政府の出資する防衛シンクタンクであるランド研究所の出した報告書には、次のような代替案が提示されている。わずかばかりの自律型システムの開発に巨額の資金を投じるよりも、安価なシステムを束で購入すべきではないか?
中国による台湾侵攻を想定した戦争シミュレーションの結果からランド研究所が導き出したのは、低コストの空中ドローンを大量配備することで米国の勝利の確率が大幅に跳ね上がるという結論だった。ランド研究所で「キトゥン(子猫)」と呼ばれている仮想のドローンを使って、台湾海峡に浮かぶすべての船舶を把握できれば、敵の艦隊をすみやかに破壊することが可能になるかもしれない(当時、米国のこの予測に注目した中国の軍事専門誌は、台湾海峡における「子猫(xiao mao=シャオマオ)」の潜在能力に関する議論を掲載している)。
スチュワートが同僚たちとともに「無人作戦フレームワーク(Unmanned Campaign Framework)」と題した40ページの文書を作成したのは21年初頭のことだ。海軍における自律型システムの活用について、既存の調達プランを白紙に戻し、代わりに安価なロボットプラットフォームを試用するという型破りかつ画期的な計画のアウトラインだった。AI、ロボット工学、軍事戦略の専門家たちからなる少数精鋭のチームを編成することで、数々のアイデアをすみやかに実行に移せるようにするというのがその主旨だ。「これは無人システムに限った計画ではありません」とスチュワートは言う。「いわば組織全体としての話です」
スチュワートの計画は、スエズ運河からアラビア半島に沿ってペルシャ湾の先まで、およそ250万平方マイル(約650万平方km)の海域を管轄する第5艦隊のブラッド・クーパー副提督の目に留まった。世界貿易になくてはならない航路であると同時に、違法な漁業や密輸が横行する海域でもある。湾岸戦争後、ペンタゴンの関心とリソースがアジア圏にも割かれるようになったことで、クーパーは限られたリソースでより多くの任務をこなさなければならない状況に陥ったとスチュワートは言う。イランによる商業船舶への攻撃は激化し、武装した高速艇に留まらずドローンや遠隔操作のボートまで使われるようになっていた。
クーパーはスチュワートをバーレーンに呼び寄せ、ブラッスールを加えた3人で第59任務部隊の立ち上げに着手した。彼らがまず着目したのが、気候データの収集や海上石油プラットフォームの監視などのために世界各地で活用されている自律システムの数々だ。ハードウェアをリースして改造すれば、海軍が造船に費やしている予算よりはるかに低い費用で事足りる、というのが彼らの下した結論だった。AIを組み込んだソフトウェアでそれらの機器を動かし、第59任務部隊の運用に乗せるのだ。「複雑を極めるこの海域でうまく運用できるなら、新型の無人システムをほかの米海軍艦隊にも拡大していけるはずです」とクーパーは言う。
第59任務部隊の立ち上げが進むなか、海域の情勢はますます複雑さを増していった。21年7月29日未明、タンザニアからアラブ首長国連邦を目指しオマーン沖を北上していた石油タンカー「マーサー・ストリート」の浮かぶ水平線上に2機の黒いV字型のドローンが現れたかと思うと、晴れ渡った空を突っ切ってタンカーに直撃し、自爆した。ドローンの破片を回収した船員により通報がなされた翌日、3機目のドローンが操縦室の屋根を目標に急降下自爆し、船員2名が犠牲になった。いずれもイラン製の「自爆ドローン」であるという結論を捜査当局は出している。
最大の脅威としてスチュワートの頭にあったのは中国の存在だ。「高価でない、もしくは安価な機器を、迅速に、できれば5年以内に整え、抑止のメッセージを打ち出すのが目標です」とスチュワートは述べている。
ただし、当然のことながら、中国もまた自律型兵器に多額の投資を行なっている。ジョージタウン大学が21年に作成した報告書によれば、人民解放軍は毎年16億ドル(約2,400億円)以上を自律型兵器の開発に充てているという。これは米国に匹敵する予算だ。中国海軍がとくに注力しているのが、第59任務部隊が導入しているものに類する自律型艦船だという指摘も、報告書に記されている。中国海軍はすでにSea Hunterのクローンの開発に成功していて、同時に大型のドローン空母も完成させているようだ。
自身の取り組み対する周囲の関心の高まりにスチュワートが気づいたのは、ロシアによるウクライナ侵攻が始まってからだ。「方々から『きみが言っていた自律型のあれについて、詳しく聞かせてくれないか?』などと電話が来るようになりました」と彼は打ち明ける。わたしがバーレーンで会った海軍や政府の関係者と同様、スチュワートの口からも、セヴァストポリでのドローン船による攻撃や、この春に行なわれた(不特定多数の「沿岸防衛用の無人艇」を含む)ウクライナに対する8億ドル(約1,000億円)相当の軍事支援、そしてウクライナで開発段階にあるとされる完全自律型の殺人ドローンなどに関する具体的なコメントを聞くことはできなかった。唯一聞けたのは、「タイムラインは確実に進んでいる」という言葉だけだ。
わたしはカリフォルニア州サンディエゴにいるが、ここには米太平洋艦隊の主要港があり、防衛関連のスタートアップ企業がまるでフジツボのように増殖を続けている。わたしのまさに目の前に建つ、ヤシの木に囲まれた背の高いガラス張りのビルの中に、Shield AIの本社がある。第59任務部隊がペルシャ湾で実験している空中ドローン、V-BATを製造している同社をぜひ訪ねてみるようにとスチュワートから勧められた。
逆さまにしたT字型に両翼と1基のプロペラがついた奇妙な外見とは裏腹に、V-BATの性能は注目に値するものだ。小型かつ軽量で、人がふたりいれば理論上はどこからでも飛ばすことができる。しかし、わたしがなぜ同社を訪れたのかといえば、V-BATに使われているソフトウェア、ハイヴマインド(Hivemind)と呼ばれるAIパイロットに興味があったからだ。
ドローンやプログラムをいじるエンジニアたちの姿を横目に純白のオフィスを抜けた先の、小さな会議室へと通された。大型スクリーンに、カリフォルニアの砂漠で模擬ミッションのシミュレーションに挑む3機のV-BATが映し出された。付近で発生した山火事の場所を特定するというミッションだ。地上から垂直に発射されたV-BATが、やや前方に機体を傾けながらあちこちに急降下を繰り返す。数分後、1機のドローンが火元を特定し、その情報を仲間たちに伝える。飛行速度などを微調整しながら、火災の全容を調べ上げるために現場に接近していく。
シミュレート用のV-BATは人間からの指示を直接受けているわけではない。また、ソフトウェアに人間がエンコードした融通の効かないコマンド(〇〇の状況ではこう、△△ならこう……)に従っているわけでもない。状況を自律的に感知したドローンが自らナビゲートし、ミッションを完了するための方法を考え、チームとして協力している。
Shield AIのエンジニアは、強化学習による訓練に加え、数えきれないほどの模擬ミッションを課すことで、実行不能のタスクを限りなくゼロに近づけるために、段階を踏んでハイヴマインドを鍛え上げた。「自分で考え、決断できるシステムです」と、同社の共同創業者である元海軍特殊部隊のブランドン・ツェンは言う。
この模擬ミッションで使われているバージョンのハイヴマインドには、シミュレートされた山火事を識別するための比較的単純なサブアルゴリズムが組み込まれている。当然、異なるサブアルゴリズムのセットを組み込めば、車両や船舶や戦闘員といったほかのターゲットの識別を補助することも可能だろう。
これはV-BAT専用につくられたシステムというわけではない。ハイヴマインドはF-16戦闘機も操縦できるよう設計されており、シミュレーター上では人間のパイロットの大半をすでに打ち負かしている(このAIが次世代の戦闘機における「副操縦士」の役割を果たすことを、同社は想定しているという)。建物や地下施設の内部探査を行ない、図面を作成する機能をもつ、バックパックに収まるほど小型のクアッドコプターであるNova 2にも、このハイヴマインドが使用されている。
第59任務部隊に限らず、AIやロボット工学を安価に取り入れようとするあらゆる軍事組織にとって、このようなテクノロジーが魅力的に映るのは自明だろう。
ブラッスールも言うように、これらのテクノロジーは戦地での「視界を広げる」と同時に、より少数の人員で戦力をまかなう(そして武力を行使する)ことを可能にするものでもある。捜索救助活動や偵察ミッションに何十人もの人間をドローンオペレーターとして配備しなくとも、V-BATやNova 2の一群を送り込めば事足りる。高額の費用を投じて訓練したパイロットの命を危険にさらしながら空中攻撃を行なうのではなく、意思統一の取れたエースパイロット級のAIが操る安価なドローンの軍団を戦地に差し向けられるようになるのだ。
機械学習アルゴリズムの利点を挙げればきりがないだろうが、こうしたテクノロジーは本質的に不可解かつ予測不可能なものでもある。Shield AIを訪問した際、わたしは同社のNova 2ドローンとわずかな時間ながら対峙した。オフィスの床から上昇したドローンがわたしの顔から1フィート(約30cm)ほどの位置でホバリングする。「あなたのことをチェックしているのです」とエンジニアが言う。すぐに、ドローンはモーター音を響かせて上昇し、部屋の片隅につくられた模造の窓枠から姿を消した。
不安感を掻き立てられる体験だった。空中偵察機により、わたしは瞬時に識別されたのだ。だが、どうやって? その答えは、ロボットの意思決定プロセスを分析するShield AIのエンジニアのみ知るところだが、同社はまだこのような情報を「非専門のユーザー」に対しては公表していない。
このようなテクノロジーが陥りがちな失敗については、わたしたちの日常──人種やジェンダーのバイアスを映し出す顔認証システムや、想定外の物体に突撃していく自律走行車など──を見れば明らかだろう。どれだけ注意深く設計されたものだとしても、AIを組み込んだ軍事システムが似たような過ちを犯さないとは限らない。敵対するトラックを認識するよう訓練されたAIが、民間車両をそれと見誤る可能性はあるのだ。襲いかかる脅威に反応するように設計されたミサイル防衛システムが誤射したところで、その理由を完全に「説明」することなど不可能かもしれない。
このようなリスクはすなわち、自律走行車が起こす事故によってもたらされる新種の倫理的問題を提起するものでもある。自律型軍事システムが致命的なミスを犯した場合、その責任の所在はいったい誰にあるのか? 作戦を指揮する司令官なのか、システムを管理する将校か、アルゴリズムとネットワークを構築したコンピューター・エンジニアなのか、もしくはシミュレーションデータを提供したブローカーにあるのか?
ひとつ、確実に言えるのは、テクノロジーがすさまじい速さで進歩しているということだ。ツェンと初めて会ったとき、「2023年に3機のV-BAT、24年に6機、25年には12機のV-BATで構成する運用チームを実現する」と彼は明言していた。8カ月後に再会したときにはもう、Shield AIは軍事基地から3機のV-BATを実際に飛ばし、山火事の模擬ミッションを行なうまでになっていたのだ。同社は現在、ハイヴマインドをさらに強化することで、ミサイル基地の探索や敵機との交戦など、さらに多くのミッションに対応できるようになると自負している。
サンディエゴを発つ直前、わたしは空母ミッドウェイの見学ツアーに参加した。ミッドウェイは第二次世界大戦後に就役した空母だが、いまではサンディエゴの湾内に博物館船として公開されている。数十年の長きに渡って最先端の軍事技術を搭載し、ベトナムからイラクまで数多の戦争において、偵察や爆撃のミッションを負った何百何千の戦闘機のための洋上滑走路として活躍した空母だ。
その空母の中央には金属製の胃袋へと続く格納庫デッキがある。一方のドアをくぐれば、そこはまるでウサギの巣のような廊下の先の部屋へと通じる通路であり、水兵たちの狭苦しい部屋から士官たちのために用意された快適な寝室、キッチン、病室、さらには床屋やランドリーへと続いている。かつては4,000人もの水兵と士官たちがこの船で共同生活を送っていたのだ。
ミッドウェイの上に立っていると、いま起きている自律性へのシフトがどれほど大きなものであるのかを実感できる。船員不在の戦艦が、人の乗る戦艦を上回るようになるまでには長い時間を要するだろうし、ドローン母艦が海の支配者となるまでには、さらに長い時間が必要かもしれない。
第59任務部隊のロボット艦隊はまだ動き始めたばかりだが、次なる世界への第一歩を踏み出したのは確かだろう。自律型ドローンのネットワークが世界中に配備されたら、人類同士の紛争がなくなり、世界はいくらか平和になるのかもしれない。あるいはドローンの一群により空が暗転するような日が訪れないとも限らない。いかなる未来が待ち受けているにせよ、ロボットは着実にその歩みを進めている。