米CMEが冷却不具合で10時間近く取引停止 2025年11月28日
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米シカゴ・マーカンタイル取引所(CME)では28日、データセンターの技術的な問題により取引が長時間停止していたが、その後、大半の取引業務が再開した。取引停止の影響はアジアや欧州の複数の金融市場に及んだ。
先物やオプション、商品を扱い、CMEグループ全体の取引量の90%を占めるCMEグローベックス先物・オプション市場は、ニューヨーク時間午前8時30分に開始した。ただ、多くの市場では商いが薄く、少なくとも4人のトレーダーが米国債先物とSOFRオプションの取引に遅れが生じている。
CMEが全市場の再開を発表する直前の通知によれば、取引プラットフォームのCMEダイレクトは引き続き利用できない状態だった。
約10時間に及んだ取引停止により、S&P500種株価指数やその他の資産を追跡する契約を取引できなくなった市場参加者の間で不満が広がった。TP・ICAPヨーロッパの株式セールス責任者トマス・エレーヌ氏は「暗闇の中を飛行しているようなものだ」と述べ、「われわれのように現物株を取引する場合、米国の先物は市場が開く前の方向感を示す指標となる」と続けた。
CMEは2019年にも技術的なエラーで数時間ほど取引が停止したが、今回はそれ以上に取引停止が長引き、CMEグループとそのグローベックスの電子取引プラットフォームの影響力の大きさを浮き彫りにした。
施設運営会社サイラスワンによると、シカゴ地域のデータセンターで冷却システムが故障し、これが取引停止の原因だったと発表した。同社はKKRとブラックロック傘下のグローバル・インフラストラクチャー・パートナーズの支援を受けている。
CMEが運営する取引所には、シカゴ商品取引所(CBOT)、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)、ニューヨーク商品取引所(COMEX)が含まれる。
影響を受けた市場は大きな打撃を受けた。ロンドン取引時間には米国債先物の取引が停止し、金相場は不規則な値動きを示したほか、米国の原油やガソリン、パーム油を含む複数の先物が影響を受けた。
マレックス・グループでクリアリング部門を統括するトマス・テクシエ氏は、今回の混乱について「先物市場がいかに集中しているかを示している。主要商品の取引が可能な代替市場は多くない」と述べた。
CME障害の震源データセンター、業界大手が運用-所有者はPE投資会社
シカゴ中心部から西へ約45分のところに、控えめな外観のガラス張りのデータセンターがある。世界最大の先物取引所運営会社であるCMEグループのデジタル業務の中核拠点だ。
CMEは約20年にわたりイリノイ州オーロラにあるこの複合施設を拠点としてきた。総床面積約4万1800平方メートルの施設は、高頻度取引業者やウォール街大手企業の間で広く知られ、競争優位を得るために周辺の場所取りが長年繰り広げられた。
トレーティング会社がデータセンターの近くに拠点を置きたがるのは、レイテンシー(遅延)を抑えるためだ。データの移動距離を最小化することで、取引の処理時間を数マイクロ秒でも短縮できるからだ。
このデータセンターが28日、世界の株式・外国為替・債券・商品市場で取引する関係者の間で一躍悪名をとどろかせた。複合施設内の冷却システムに不具合が生じ、CMEの先物・オプション取引プラットフォームのほぼ全機能が停止し、世界中の市場が混乱に陥った。
データセンターを運営するサイラスワンは、冷却システムの問題に対応するためチームが昼夜を問わず作業していると説明したが、それ以上の質問には回答しなかった。
世界の市場インフラにとって不可欠なこの施設の歴史は2009年にさかのぼる。CMEが先物・オプション取引プラットフォームGlobexの事実上の中枢として稼働させたのが始まりだ。
16年、CMEは自社でインフラを保有する方針を転換し、ダラスを本拠とするサイラスワンに同施設を売却した。CMEは取引の継続に不可欠なコンピューター群を引き続き同地に置くため、15年間のスペース賃借で合意し、実質的に日常運用を外部委託する形となった。
サイラスワンはリスクの大きさを理解していた。同社の当時のCEOゲーリー・ウォイタセック氏は、アナリスト向け説明でこのデータセンターを高速取引と先物取引の「震源地」と表現した。2018年に接続性向上のため建設を進めていた新タワーの事業意義を説明する際には「スピードが最重要だ」と強調した。
こうしてサイラスワンは、米国、英国、ドイツ、シンガポールに約50カ所展開するデータセンターポートフォリオにオーロラを組み込んだ。これらのデータセンターは、テクノロジー、金融サービス、エネルギー、医療、研究、コンサルティングなど幅広い業種を顧客としている。
EYパルセノンの戦略・トランザクション部門マネジャー、トビアス・ボップ氏によれば、サイラスワンは新たなデータセンターを数多く建設しており、現在の市場でかなり重要なポジションを占めている。
ファースト・ポイント・グループでデータセンター分野の人材採用を担当する上級プリンシパルコンサルタント、ローレン・エクルズ氏はサイラスワンについて「大手プレーヤーで、非常に良い評判を持っている」と述べた。
その良い評判が21年、プライベートエクイティー投資会社の目に留まった。AIブームがデータセンター需要を押し上げ始める中、KKRとグローバル・インフラストラクチャー・パートナーズはサイラスワンを約114億ドル(約1兆8000億円)で買収することで合意した。
買収は、AIモデル開発会社や大手テクノロジー企業からの計算需要急増の波に、PE投資会社が乗ろうとする動きの象徴と見なされた。
KKRはサイラスワンに関する質問をすべてデータセンター運営会社に回した。GIPを今年買収したブラックロックの広報担当者はコメントを控えた。
27日に冷却装置が故障した後、サイラスワンがCMEのオーロラでの業務を別のデータセンターへ移管しようとしたかどうかは明らかでない。
事情に詳しい関係者によれば、CMEの障害復旧計画ではニューヨーク近郊のデータセンターに業務を移すことが定められていたものの、CMEはマッチングエンジンをオーロラで再起動する判断を下した。
CMEが当時得ていた情報では冷却問題が当初の想定より早く解消される見通しだったためだという。サイラスワンのウェブサイトによれば、このデータセンターには故障時に備えて追加の冷却装置が設置されている。
EYパルセノンのパートナー、トマ・ソレルアック氏はシステム設計上の問題の可能性を指摘。「通常、この種のデータセンターでは、電力や冷却に関するこうした問題を避けるため、多くの冗長性が確保されている」と述べた。
世界市場が混乱、米CMEで先物10時間停止-データセンター冷却で障害
最初の異変が訪れたのは米東部時間27日午後9時41分(日本時間28日午前11時41分)だった。ウォール街の大半が感謝祭で休業となり、トレーダーにとっては休日をなお楽しんでいる時間帯だった。
世界最大の先物取引所運営会社である米CMEグループは顧客に送った1行の電子メールで「技術的な問題により」先物およびオプション取引の「市場が停止した」と通知した。
原因は、シカゴから約80キロ離れたイリノイ州オーロラ郊外にあるデータセンター複合施設の冷却システムだった。同施設は、日々数兆ドル規模のデリバティブ取引を支える主要拠点だ。事情に詳しい関係者によると、外は極寒にもかかわらず、施設内の温度は摂氏38度を超えていたという。
当時、CMEが把握していた情報では、プライベート・エクイティー(PE、未公開株)投資会社が所有するサイラスワンによって運営されている同データセンターの障害は短時間で収まる見通しだった。そのため、ニューヨーク市近郊のバックアップ施設への切り替えは見送られた。
しかし、この判断の重大さはすぐに明らかになった。CMEが顧客に対し、問題は「短期」に解消されると電子メールで伝える中、障害は長引き、世界の金融システムの広い範囲を数時間にわたり停止させた。
東京からロンドン、そして最終的にはニューヨークに至るまで、金や原油、米金利の方向性を巡る取引に至るまで、あらゆる市場での取引が一斉に停止された。
28日に入り取引がほぼ復旧した後も、混乱は米国時間の取引時間中にわたって続き、取引プラットフォームのCMEダイレクトはほぼ終日オフラインとなった。
今回の障害は、少数の大手取引所に依存する形で高度に統合が進む世界の市場が抱える脆弱性を浮き彫りにした。また、CMEの危機対応計画やサイラスワンのデータセンターに依存する体制についても疑問を投げかけている。
ロンドンの金融サービス会社マレックス・グループの清算部門トップ、トーマス・テキシエ氏は、今回の停止は「先物市場がいかに集中しているかを示した。主要商品の取引に代替となる取引所はほとんど存在しない」と指摘した。
今回の約10時間に及ぶ障害は、2019年にCMEで発生した取引停止時間を超えた。またCMEが世界市場の重要インフラとなっている現状を改めて示した。CMEグループのデータによると、10月のデリバティブ取引量は1日平均2600万枚を超えていた。
CMEは28日の取引終了時点で、CMEダイレクトを含む全ての取引を復旧させた。CMEの担当者は、当日の顧客向け通知以上のコメントを控えた。
サイラスワンは発表資料で、今回の問題はコンピューター冷却に使用するシステムに影響した機器の故障が原因であり、「可能な限り迅速かつ安全に通常業務を復旧させるため、24時間態勢で作業している」と説明した。複数の冷却システムを限定的な容量で再起動し、運用を補うための仮設冷却設備も導入したという。
サイラスワンの冷却システムで何が起きたのか正確なところは不明だ。ただし同社のウェブサイトによると、データセンターには冗長システムがあり、気温がおよそ摂氏マイナス1度以下になると無料の冷却機能が利用できるという。
約4万1800平方メートルに及ぶイリノイ州オーロラ郊外のデータセンターは世界中のトレーダーにとって重要な施設であり、その影響は広範囲に及んだ。ロンドン時間では米国債の先物取引が停止され、金は不安定な動きを見せ、マレーシア証券取引所の米原油やパーム油の取引にも影響が及んだ。
取引システムが復旧した後も、問題が完全に解消されたことが確認されるまで、一部のマーケットメーカー(値付け業者)が取引参加を控える動きが続いたと、事情に詳しい関係者は明らかにした。