日本1人当たりGDPでわかる衰退国家の惨状 2024.11.18
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財務省公式SNSへ批判が殺到していると話題になったが、コメントの中には日本経済を憂う声も見られた。1人当たりGDPで見ると、日本はOECD(経済協力開発機構)加盟国の平均より低く、日本はもう先進国とは言えない状況だ。日本経済が急成長した時期と真逆の事態が進行し、いまでは1970年ごろと同じ経済状況になってしまった。特に問題なのは、これに対する危機意識を持っている人がまだ少ないことだ。
上図は、日本、米国、韓国の1人当たりGDPの長期的な推移を、OECD加盟国平均を1とする指標で示したものだ。OECD加盟国平均を基準に取ったのは、それが先進国の平均的な値を示していると考えたからだ。
日本の値は2021年以降、1を下回っている。つまり日本は、もはや先進国とは言えない状態になった。
私は、数年前に同じ図を描いたことがある。その時にショックを受けた。このままでは近い将来に、日本の値がOECDの平均値を下まわってしまうのではないかと考えたからだ。いま再び描いて、その危惧が現実化していることを知って、改めてショックを受けた。
なおここで用いているデータは、市場為替レートによるドル換算値である。そのため、このようになった大きな原因が、ここ数年の異常とも言える円安の進行にあることは間違いない。
ただしここで見ているのは、ドル表示の値そのものではなく、OECD諸国との比率である。OECD諸国もドル高の影響を受けているので、ここ数年における日本の地位低下は、円安だけによるものではない。
第二次世界大戦後、圧倒的な経済力を誇っていた米国経済の相対的な地位は、1990年代までは低下を続けた。これは冒頭の図で、米国の線が1960、70、80年代を通じて傾向的に低下していることによって示されている(1985年に一時的に高くなっているのは、同年のプラザ合意によって実現したドル高の影響と考えられる)。
他方、日本は1950年代後半からの高度経済成長によって、1970年代に先進国の仲間入りを果たした。これは図で、日本の線が1973年に1を越えたことによって示されている。1980年代には、日本が1人当たりGDPで米国を抜いた。
1990年代の中頃においては、日本の1人当たりGDPは、OECD平均のほぼ2倍であった。ところがこの頃をピークとして、日本の線は下降に転じた。つまり、日本経済の世界的な地位は、下落を続けた。
日本の1人当たりGDPは1990年代以降、ほとんど増えていない。その半面で、多くの国は成長を続けている。特に、米国、韓国は急成長を続けている。
このため、日本と米国との差が開いている。そして、韓国が1人当たりGDPで日本に急迫している(IMFのデータではすでに日本より高い値になっている)。
ところで、図に示されている日本のグラフは、1995年ごろを軸にして、ほぼ左右対称になっている。つまりいまの日本は、1970年代に先進国入りし、その後さらに豊かになっていたときの歴史を逆にたどっていることになる。
現在とちょうど対称の位置にあったのが、1960年代末から1970年代初めにかけての時期だ。いまの日本の1人当たりGDPは、OECD平均とほぼ同じ。これは、1970年ごろと同じ状況である。米国の1人当たりGDPは日本の約2.4倍。この比率も1971年とほぼ同じだ。
1995年を軸とする左右対称の姿が続いていくとすると、日本の線は、OECDの平均値を下回っていくことになり、2030年ごろには、OECD平均の半分程度の水準になってしまうだろう。つまり、日本は到底「先進国」とは言えない状態になってしまう。
これに対して、韓国の指数は、このグラフのほぼ全期間を通じて上昇を続けている。
韓国の1人当たりGDPは、1960年代にはOECD平均の10%未満にすぎなかったが、1994年に50%を超えた。1998年にはアジア通貨危機で38%に落ち込み、2008、2009年にはリーマンショックの影響で再び落ち込んだ。しかし、こうしたショックの影響は短期的なものにとどまり、いま韓国はOECD平均に迫っている。
なおこの図には示していないが、台湾もほぼ同様の傾向だ。この状況が続けば、日本と韓国・台湾の位置が逆転し、差が開いていくだろう。
今回の米大統領選で、トランプ氏は「米国を再び偉大な国に」と訴えた。しかしここで示した図を見る限り、米国はすでに偉大な国になっている。1人当たりGDPで見る限り、米国はOECD平均の2倍ほど豊かな国だ。しかも、その値が傾向的に上昇している。
米国の復活は、すでに1990年代から始まっている傾向的な現象だ。
第二次大戦後、圧倒的な経済力を持っていた米国はヨーロッパ諸国よりはるかに豊かな国であったが、その後停滞に転じた。これは図の左側半分で米国を示す線が長期的に低下していることによって示されている。
しかしこのような傾向は1990年代から反転し、米国の線は上昇に転じている。そしていまに至るまでこの傾向が続いている。
こうした変化をもたらしたものは、IT革命だ。つまり、米国が情報通信の分野で、新しい技術の開発と新しいビジネスモデルの確立に成功したからだ。それまでの大型コンピューターによる情報処理からPCとインターネットを通じる分散型の情報処理システムへの移行に成功し、GAFAと呼ばれる企業群をはじめとして、多くの新しい企業が登場した。
これに対して、日本では危機意識がない。本当は、日本の低下傾向を食い止めなければならないのだが、そのような声は上がらない。それどころか、図に示したような状況が進行していることに気付いていない人がほとんどだ。
多くの人は、物価が上昇しないことが日本経済衰退の現れだと捉えている。そして、ここ数年物価が上昇し始めたので、デフレからの脱却が可能になりつつあるとしている。つまり、その意味で日本経済が新たな段階に入ったというのだ。
しかし物価が上昇しても、人々の暮らしは貧しくなるばかりだ。しかもここ数年の物価の上昇は、日本経済の内在的な変化によって生じたことではなく、コロナ後に米国で生じたインフレが日本に持ち込まれたことによって起こっているにすぎない。
だから本当に問題にすべきは、1人当たりGDPに示される豊かさがどう変化しているかだ。図に示したように、世界の各国が目覚ましい成長を遂げているにもかかわらず、日本が成長しないというのが現状なのだ。
先般の総選挙においても、「日本を偉大に」と訴えた候補者は、私の知る限り、いなかった。少なくとも、それが総選挙の大きな争点にならなかったことは間違いない。
これまでの傾向を逆転させるためには、日本がいまどのような状態にあるのかを正しく知ることが必要だ。