地球に迫る大量絶滅を生き延びる処方箋 2023/12/20
https://gyazo.com/7f3eb087bec68e5b84b122e361764544 ジェレミー・リフキン
自然を収奪し、強欲に利益を追求し続けてきた人類文明は、パンデミックや気候変動によって危機に瀕している。
『エントロピーの法則』『限界費用ゼロ社会』などの著書で知られる経済社会理論家のジェレミー・リフキン氏が、人類が生き延びるための処方箋を提示する。
新著『レジリエンスの時代』2023/9/26出版の副題はReimaging Existence on a Rewilding Earth、すなわち「再野生化する地球で人類が生き抜くためには大転換が必要だ」というメッセージです。
この200年、西洋文明を中心に、工業化による「進歩の時代」が続いてきた。しかし、化石燃料を土台にした進歩の時代はもはや持続することができず、「地球の再野生化」により、6度目の大量絶滅の危機が近づいている。
地球の再野生化とは、気候変動などが原因で自然が猛威を振るい、人類の制御が及ばなくなることを意味する。すでに熱波や干ばつ、洪水、森林火災が多発し、地球は生物が住めない場所になりつつある。
ある専門家によれば、このままでは今の赤ん坊が一生涯を終えるまでに地球上の生物の約半分が絶滅してしまうという。
人類が生き延びるには、今までのやり方を根本から変えなければならない。強欲な資本主義、代議制民主主義に基づく統治機構、自然を利用対象と捉える科学技術……、それらはいずれも「進歩の時代」のプレイブック(戦略集)だ。
そのプレイブックに基づいて解決策を練ろうとしても、たちまち壁にぶち当たってしまう。ここで必要なのは新たなビジョンであり、そこから生まれてくるのが「レジリエンスの時代」。すなわち、再野生化する地球で生き抜くための新たなプレイブックだ。
──現代文明のどこに問題があるのでしょうか。
19世紀に英国では電信技術の発達により、瞬時に通信ができるようになった。エネルギーでは石炭を燃焼させ、移動手段では鉄道が生まれた。上下水道も整備された。第1次産業革命とともに国民国家が形成されて、都市開発も進んだ。代議制民主主義も広がった。
20世紀にはアメリカが中心となり、第2次産業革命が起きた。石油が石炭に取って代わった。自動車が普及し、巨大な水力発電ダムが建設された。統治機構としては国連、経済協力開発機構、国際通貨基金、世界銀行が設立された。
これら第1次および第2次産業革命が、図らずも絶滅への道を用意した。進歩の時代を特徴づけたのは、効率性を追求した結果としての環境破壊などの「負の外部性」であり、農業でいえば特定品種の単一栽培による悪影響だ。
しかし、危機は変化のためのチャンスであり、私たちは新たな社会や経済、政治システムを構築すべき時に来ている。
──政治システムにおいてはどのような見直しが必要でしょうか。
気候変動の猛威は、国家間の境界線を無意味なものにしている。そこで取って代わるのが、「バイオリージョン(生命地域)」という考え方だ。国家の主権や地域の自治権はもちろん存在し続けるが、共通の生態系を「コモン」として重視する統治の必要性が強まっている。
アメリカやカナダでは、北西太平洋岸地域、五大湖地域など、広域のエリアごとに、国境を越えて州などが集まり、各地域の生態系を産業や雇用などと一体で管理していく取り組みが始まっている。
とくに重視されているのが、生態系の保全や水資源の管理だ。中国でも2021年に8つのバイオリージョンが発表された。
統治の方法としては、工業化の時代にスタンダードとなった代議制民主主義を見直し、「分散型ピア政治」に道を譲る必要がある。
これは市民一人ひとりが統治の過程そのものの一部となるというものだ。地方自治体は市民に協力を求め、市民は「ピア議会」(ピア主導の能動的な市民議会)に参加して、自治体とともに働く。
──経済や科学技術のあり方は。
進行しつつある第3次産業革命に期待している。第1次および第2次産業革命が、化石燃料を土台とし、多額の資本を必要とする中央集権型であったのに対して、第3次産業革命は分散型で流動的なプラットフォームによって成り立つ。
インターネットによってたくさんの人たちがお金をかけずにお互いにつながれるようになった。住宅の屋根には太陽光パネルが置かれ、市民が自分で使うためのエネルギーを生み出している。
GAFAが席巻した、第3次産業革命の第1世代は中央集権的な面が強いが、40年先にこうした企業が生き残れるかは未知数だ。
というのも、大量のデータであふれる社会においては、ありとあらゆる機器にセンサーが設置され、IoTという神経系を通じてデータをやり取りするようになるからだ。一部の企業がデータを独占することはできない。いちいち遠隔のデータセンターを介してやり取りしていたら立ちゆかないからだ。
大企業は新たに勃興する無数のハイテク中小企業と連携しなければ生き残りは難しい。
──ウクライナや中東など世界中に戦争が広がっています。アメリカでは2024年の大統領選で、ドナルド・トランプ氏が再び返り咲く可能性もあります。
地政学的な発想は時代遅れだ。
なぜならば、気候変動によって住み慣れた土地から離れざるをえない人たちが、たくさんの数に上るからだ。そこで重要なのが、先ほど述べたバイオリージョンの考え方であり、人間の持つ生命愛や他者への共感力だ。私は若い世代の人たちの行動力に期待している。
──日本の役割は。
新たな時代への先導役として、日本には期待している。日本には第3次産業革命に必要な技術的な要素の多くが備わっている。日本は水に囲まれた島国であり、水との付き合い方でも多くの知恵がある。人類が生き延びるために、日本には主導権を握ってほしい。
人類が自然に適応する時代に
――新著では2008年を化石燃料に基づく「進歩の時代」の終わりの始まりと指摘していますね。なぜですか。
私たちの周りのあらゆるモノやサービスは化石燃料に結びついている。原油価格は08年7月に1バレル当たり147ドル(約2万円)で史上最高値を記録し、グローバル経済は機能停止に陥った。同じ年に米住宅バブルの崩壊に端を発した金融危機はその余震だったのだ。当時のショックから世界経済はまだ回復できていない。ロシアのウクライナ侵攻後にも原油価格が上がり、同じことが繰り返された。
地球の異なる未来をどのように切り開くかについて、新しい考え方を持つことが必要だ。地球を人間に適応させるのをやめ、人類が自然に適応し、共生する。それがレジリエンスの時代だ。
限界費用ゼロ社会―“モノのインターネット”と共有型経済の台頭 2015/10/27出版
いま、経済パラダイムの大転換が進行しつつある。その原動力になっているのがIoTだ。IoTはコミュニケーション、エネルギー、輸送の“インテリジェント・インフラ”を形成し、効率性や生産性を極限まで高める。それによりモノやサービスを1つ追加で生み出すコスト(限界費用)は限りなくゼロに近づき、将来モノやサービスは無料になり、企業の利益は消失して、資本主義は衰退を免れないという。代わりに台頭してくるのが、共有型経済だ。人々が協働でモノやサービスを生産し、共有し、管理する新しい社会が21世紀に実現する。世界的な文明評論家が、3Dプリンターや大規模オンライン講座MOOCなどの事例をもとにこの大変革のメカニズムを説き、確かな未来展望を描く。21世紀の経済と社会の潮流がわかる、大注目の書!
グローバル・グリーン・ニューディール 2020/2/25出版
2028年までに化石燃料文明は崩壊、大胆な経済プランが地球上の生命を救う
再生可能エネルギー技術の急速な発展と、危機的状況にある気候変動問題。現在は化石燃料エネルギー関連資産が過大評価される「カーボンバブル」の時代だが、その崩壊はもはや確定的な事実である。いまこそ、1930年代アメリカの「ニューディール」に匹敵する経済政策の大転換「グリーン・ニューディール」、すなわち経済インフラの脱炭素化、グリーン経済部門における雇用創出等が必要なのだ。
投資家や金融機関はすでに化石燃料関連事業への投資から撤退しつつあり、社会的責任投資への取り組みを始めている。気候変動の緩和・適応策への取り組みを重視する企業にとっては大きなチャンスが訪れている――。
過去20年にわたりEUおよび中国でゼロ炭素社会への移行に向けて助言を行ってきた著者が、新たな経済社会へのロードマップを示す!