南海トラフ地震は起きるのか 2024.9.18
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8月8日に宮崎県日向灘沖を震源とするマグニチュード7.1の地震が発生したことを受けて、南海トラフ地震臨時情報「巨大地震注意」が発表され、1週間呼びかけが続いた。南海トラフ地震は今後30年に70〜80%の確率で起きるとされるが、はたして本当か。地質学者の角田史雄氏と、元内閣官房内閣情報分析官の藤和彦氏は、「南海トラフ地震」の根拠とされる「プレートの移動」が地震を引き起こすというメカニズムに疑問を投げかける。角田氏が提唱する熱エネルギーの伝達が地震の原因だとする「熱移送説」とは?そして、本当に危ない地域はどこか?全6回にわたって連載する。
地球の陸地の面積の0.5%を占めるに過ぎない日本では毎年、世界で起きる1割以上の地震が発生すると言われています。「地震大国日本」と呼ばれるゆえんです。
2024年元日、このことを改めて痛感する大地震が発生しました。1月1日午後4時10分ごろ、石川県能登半島の地下16kmを震源とする「令和6年能登半島地震(マグニチュード7.6)」です。この大地震で日本全体が正月気分どころではなくなってしまったのは記憶に新しいところです。
死者数は318人(2024年7月23日時点)、被災地では現在も厳しい状況が続いています。
4月17日には豊後水道を震源とするマグニチュード6.6の地震が発生しました。
この地震の発生場所が南海トラフ巨大地震(南海トラフ地震)の想定震源域内だったことから、「超巨大地震の前兆ではないか」との声が上がりました。
これに対し、政府の地震調査委員会は「この地震は南海トラフ地震が起きることが想定されているプレート(岩板)の境界で起きたものではない。海側のプレート内部で断層がずれたことが原因だった」とした上で「この地震により南海トラフ地震の発生可能性が高まったとは言えない」と結論づけ、事態の沈静化に躍起になりました。
南海トラフ地震とは、日本で近い将来起きる可能性が極めて高いとされる超巨大地震のことです。
地震調査委員会の見解にもあったように、プレートの運動が地震を引き起こす原因だとされています。
地球の表面を覆うプレートの運動によって地球上の様々な現象を解き明かそうとする学説を「プレートテクトニクス」(以下、プレート説)と言います。「テクトニクス」とは「構造運動」という意味です。
プレート説によれば、地震はプレートによる衝突と、プレートの沈み込みによって起きるとされています。
「地球の表面には十数枚のプレートが存在し、地球内部の熱があふれ出す海嶺から生まれた重い海洋プレートが、年間数センチメートル単位で移動し、軽い大陸プレートを引きずり込みながら沈降し、海溝をつくった。沈み込む際に生じるひずみエネルギーが解放されることで地震が起こる」というものです。
文部省(現・文部科学省)が1970年の高校の学習指導要領を改訂(実施は1973年)して以来、地学の教科書では「プレートによって地震が起きる」と説明されています。学生時代にプレート説を習った記憶のある読者も多いことでしょう。
プレート説は原理が単純であり、視覚化しやすいという特徴があります。そのため、大きな地震が起こるたびに、新聞やテレビなどにプレート説を説明する図がたびたび登場します。
このような「刷り込み現象」が続いた結果、プレート説は地球科学の分野の原理の中でダントツの勢いで普及しました。ほとんどの日本人にとって今やプレート説は疑いようのない「真理」になっていると言っても過言ではありません。
「プレート真理教にはキリスト教の思想的背景がある」との指摘があります。新トマス主義と呼ばれるキリスト教思想です。
ルネッサンス時代直前のイタリアの修道士トマス・アクイナスが神の存在を系統立てて説いた教義を19世紀に甦らせたのが新トマス主義です。
19世紀の産業革命以降の物質中心主義がはびこる世相に対して、トマスの教えをもとに唯一の神の存在を主張したのですが、プレート説の確立に参画した多くの研究者がこの宗教思想を支持していたことがわかっています。
彼らは地球の表面にプレートがあると見立て、プレートによってすべての地質現象を説明しようとする構図は新トマス主義と同じだと思います。
ここでプレート説にとって「不都合な真実」を1つ提示しておきたいと思います。
プレート説によれば、「大きな地震はプレートの境界面近くでしか起きない」とされていますが、2008年5月に起きた中国の四川大地震(マグニチュード8.0)の発生原因はプレート説では説明できないのです。
と言うのは、この四川大地震の震源は、プレートが衝突したり沈み込んだりするとされている場所から2000km以上も離れているからです。
角田史雄氏は、2007年の埼玉大学の講義で「中国の雲南省から四川省あたりで近い将来、大きな地震が起きる」との予測を学生の前で披露しました。
それは、プレート説に代わって地震の発生を説明する「熱移送説」に基づく地震予測の第1号でした。
ちなみに今、角田氏が気になっている日本の地震として、伊豆地方の北の端、具体的には富士五湖から沼津市にかけての地域を挙げています。この地域は約30年に1回の頻度で大きな地震が起きているので要注意というわけです。
熱移送説に近い学説は1960年代半ばに既にありました。それは東京大学地震研究所の松澤武雄氏の「熱機関説」です。
松澤氏は1965年に長野県松代町で起きた群発地震の調査を主導し、その結果から「地震の原因は地下のマグマの活動に間違いない」と確信しました。ちなみにこの調査には、当時の著名な地球科学研究者の多くが参加していました。
プレートと違って、マグマが地下に存在することは科学的に証明されています。
地震予知に関する確かな一歩が踏み出されたのですが、その直後の1969年にプレート説が日本に導入されたことが災いし、残念なことにこの研究は地震研究のメインストリームにはなりませんでした。
「プレート説が真理だ」と信じ込んだ学者たちが、米国の威光を笠に着て、松澤氏の熱機関説を駆逐してしまったのです。
1970年代当時の地質学者は日本の国土の実情に照らして「プレート説は正しくない」と判断していました。そのため、プレート説の導入に消極的だったのですが、プレート説を信奉する学者たちの眼には「日本の地質学者はレベルが低い」と映りました。その結果、地質学者は地震学における発言権を奪われてしまったのです。
学問の現場で自由な気風がなくなりつつある中、地震学者からプレート説に代わる新たな学説を生み出そうとする動きはほとんどありません。
プレートは何枚?なぜ沈み込む?そもそも大陸はプレート説どおりには動いていない
プレート説が生まれる以前、気候学者のアルフレッド・ウェゲナーが1922年に大陸移動説を唱えたのは有名な話です。
しかし、「大陸は上下運動しかしない」と考えていた当時の地球物理学者は「大陸を水平方向に移動させる原動力を説明できない」としてウェゲナーの仮説を否定しました。
ところがそれから30年以上経ったのち、「海洋底が拡大している」ことが大陸が水平に動いていることの証拠だとされ、大陸移動説はプレート説とともに劇的な復活を遂げました。海洋底拡大説は、海洋底の年齢の測定によって実証されたことになっています。
プレート説が正しければ、プレートは常に大陸の方向に向かって動いていなければなりません。海嶺から生まれた新しい海洋プレートは、マントルの対流などの力を受けて移動し、大陸プレートと衝突する海溝に沈み込むはずなのですから
しかし、ハワイと鹿島、アラスカでの観測結果は、プレート説のとおりにはならなかったのです。大陸はプレート説どおりに動いていないのです。
プレート説にとっての最大の弱点は、「プレートはなぜ動くのか」という、ウェゲナーも悩んだ根本的な問いに対する解答がまだ得られていないことです。
プレートを動かす力は、その下にある「マントルの対流」だと言われてきました。
ところが、日本にプレート説を紹介した上田誠也氏がマントルが対流することでプレートが動くことを証明しようと詳細な計算を行ったところ、逆に「マントル対流の摩擦にはプレートを動かすだけの力はない」ことがわかってしまったのです。
これまで指摘した数々の難問を前に、最近、地震学者から開き直りとも受けとれる発言が出てきています。 「プレート説は理論かと言えば少し微妙で、証明するとかそういうものではなくて、こういう考え方に則ると、いろいろなことが説明できるのだ」と言い始めている。
南海トラフ地震は起きるのか③ 発生確率「30年以内に70〜80%」は怪しい、巨額対策予算はもはや利権化
南海トラフ地震は、東海地震・東南海地震・南海地震、以上3つの地震から成り立っています。
30年以内に発生する確率は、東海地震(マグニチュード8.0)が88%、東南海地震(同8.1)が70%、南海地震(同8.4)が60%といずれも高い数値です。しかもこれらの数字は毎年更新され、少しずつ上昇しています。
これら3つの地震はもともと個別に評価されていたのですが、東日本大震災の発生を受けて「想定外をなくせ」という合言葉の下、南海トラフ地震として1つに統合されたのです。
公的機関が公表している情報でも、「東海、東南海、南海地震が連動して発生すれば、当然マグニチュード9クラスの超巨大地震が発生する」とされているので、今や「南海トラフ地震=マグニチュード9.0」というのが常識のようになっています。
南海トラフ地震のような超巨大地震はそう簡単には起きないだろうということです。まったくの偶然が重なって発生する、最悪の場合の見積もりと考えたほうがよいと思います。
前述の地震学者は「想定外の超巨大地震(東日本大震災)が発生したことで、地震学者の多くは『マグニチュード9シンドローム』にかかってしまった」と説明しています。つまり、今後「想定外」と言わなくていいように、根拠が乏しい超巨大地震の発生を想定し、とにかく「危ない」を連発しておけば、太平洋側のどこかで地震が発生したとき「想定していました」と弁解ができ、「責任逃れができる」と考えるようになったというのです。そのターゲットになったのが南海トラフ地震だったというわけです。
反対した地震学者の主張は以下のとおりです。
「南海トラフ地震だけ予測の数値を出す方法が違う。あれを科学と言ってはいけない。地震学者たちは『信頼できない』と考えている。他の地域と同じ方法にすれば20%程度に落ちる。同じ方法にするべきだという声が地震学者の中では多い」
「個人的にはミスリーディングだと思っている。80%という数字を出せば、次に来る大地震は南海トラフ地震だと考え、防災対策もそこに焦点が絞られる。実際の危険度が数値通りならいいが、そうではない。まったくの誤解なんです。数値は危機感をあおるだけ。問題だと思う」
地震学者はデータ不足についても指摘しました。
「室津港1か所の隆起量だけで、静岡から九州沖にも及ぶ南海トラフ地震の発生時期を予測していいのか」
「このモデルのデータは宝永地震と安政地震と昭和南海地震の3つだけ。圧倒的にデータが不足している」
小沢氏の独自調査により、元々のデータ自体の信頼性が低いこともわかっています。
しかし、地震学者の正論に待ったをかけたのは、行政担当者や防災の専門家でした。彼らは「今さら数値を下げるのはけしからん」と猛反発しました。
「現在のモデルでやれば2040年頃だが、他と同様のモデルにすると地震発生は今世紀後半になってしまう。巨大地震への危機感が薄れてしまう」というのが表向きの理由ですが、本音は「発生確率が低下すると南海トラフ地震関連の予算が減ってしまう」ことへの懸念だったと思います。
南海トラフ地震による災害規模は220兆円と言われており、東日本大震災の被害総額(約20兆円)の10倍以上だとされています。「南海トラフ地震の危機が迫っている」と言うと予算を取りやすい環境にありました。
南海トラフ地震対策は2013年度から2023年度までに約57兆円が使われ、さらに2025年度までに事業規模15兆円の対策が講じられる国土強靱化計画の重要な旗印の1つで、地震調査研究関係予算は年間約100億円が使われています。
これまでの前提が崩れてしまえば、「飯の食い上げ」だというわけです。
心ある地震学者からは「科学と防災をちゃんと分けないと、科学者はいずれ『オオカミ少年』と呼ばれてしまう。政府が間違った道を進もうとしているときは、突っ込みを入れる人が必要だ」との声が聞こえてきます。
残念ながら、南海トラフ地震対策は利権の道具にされているようです。
地震は「プレートの移動」ではなく「熱エネルギーの伝達」で起きる!熱移送説とは
角田 史雄:地質学者、埼玉大学名誉教授
私が構築した熱移送説の概略をかいつまんで説明してみましょう。
熱移送説の中で主役を務めるのは、「プレートの移動」ではなく、「熱エネルギーの伝達」です。その大本の熱エネルギーは、地球の地核(特に外核)からスーパープリューム(高温の熱の通り道)を通って地球の表層に運ばれ、表層を移動する先々で火山や地震の活動を起こすというものです。
火山の場合、熱エネルギーが伝わると熱のたまり場が高温化し、そこにある岩石が溶けてマグマ(約1000度に溶けた地下の岩石のこと。この高温溶融物が地表へ噴出したのが溶岩)と火山ガスが生まれます。そして高まったガス圧を主因として噴火が起きます。
地震の場合は、地下の岩層が熱で膨張して割れることにより発生します。溶接でくっつけた鉄を力ではがすのは大変ですが、熱すると簡単にはがれることを皆さんはご存じだと思います。熱エネルギーの量が多いほど、大きな破壊(地震)が発生します。
スーパープリュームは、地球の中心(外核)から、南太平洋(ニュージーランドからソロモン諸島にかけての海域)と、東アフリカの2か所へ出てきます。
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これは、地球の中心から表層に向かう流れの本流です。これ以外の無数の小さな支流は、隙間を見つけて地球の中を上へ上へと向かっているようです。日本の地震や火山の噴火に関係するのは、南太平洋から太平洋の周りを流れる本流のほうです。
南太平洋から出てきた熱エネルギーは、西側に移動し、インドネシアに到達すると3つのルートに分かれて北上します。
1番目のルートは、インドネシアを経由してフィリピンから西日本に到達する流れで、フィリピンのP、ジャパンのJをとって「PJルート」と呼んでいます。
PJルートは、大きな噴火や地震が頻発しているフィリピンや台湾、沖縄から九州にかけた霧島火山帯へと続いています。2016年4月の熊本地震を起こしたのは、この熱の流れです。
2番目のルートは、南太平洋からの道筋はPJルートと同じですが、フィリピンで枝分かれし、マリアナ諸島→伊豆諸島→東日本という流れです。マリアナのMとジャパンのJをとって「MJルート」と呼んでいます。
伊豆諸島に沿って北上した熱は、南関東→東関東と、日本海溝→東北太平洋岸に枝分かれします。伊豆諸島北部で火山が噴火すると、1~2年後に首都圏南西部で地震が起きます。南関東→東関東の熱の流れは、多摩川や埼玉・東京都県境などの決まったゾーンを西から東へ順に「飛び跳ね」ながら地震を起こすと考えています。
3番目のルートは、インドネシアのスマトラ島→中国というルートです。スマトラのSと中国のCをとって「SCルート」と呼んでいます。この熱の流れが、2008年5月の中国の四川大地震を起こしました。
火山の噴火と地震の発生場所はずっと同じです。約10億年前の地球の大変動により、環太平洋地域は深く裂けて熱水が上がってきて、岩石をすっかり変えてしまいました。その後もマグマが噴き出し続けて火山をつくり、地震を頻繁に発生させる場所になったのです。それが今も続いていて、環太平洋火山・地震帯と呼ばれる、火山と地震がペアで起きる場所になったのです。
熱エネルギーが通りやすく、たまりやすい場所でもあるので、高温化する場所や岩盤の割れやすい所が、10億年間もほとんど変わらなかったのです。このため熱エネルギーが移送されることによって生じる火山の噴火地点や地震の起こる場所はいつも同じです。
熱エネルギーは1年に約100kmの速さで移動します。このため、インドネシアやフィリピンで地震や火山の噴火が起きた場合、その何年後に日本で地震や火山の噴火が起きるかが、ある程度予測できると考えています。火山の噴火から地震発生の予兆を捉えることも可能です。
東アフリカにも南太平洋以外のスーパープリュームの湧昇場所があります。東アフリカからの熱移送ルートは、地中海→イタリア→トルコを経由して、ヒマラヤ山脈に行き着きます。
2つのスーパープリュームからの熱移送は、どちらもヒマラヤに辿り着き、地下700kmあたりで合流して地面を押し上げることで、世界最高峰の山々の形成を後押ししたと考えています。以上が熱移送説の概略です。
富士山は当面噴火しない!首都圏で巨大地震のリスクが高いところは?地図で解説
日本に運ばれてくる熱エネルギー(高温域)は、決まったルート、決まった周期で、日本列島の地下を温めながら移動していきます。その規則性を調べていけば、最終的には地震予知に応用できると私は考えています。
ここで日本各地の「地震の癖」について見ていきたいと思います。
2012年1月に東京大学地震研究所は、「マグニチュード7クラスの首都直下型地震が起きる確率は、今後30年以内に70%である」との試算結果を公表しています。
この予測はプレート説に依拠した周期説です。プレートは等速で移動するとされているので、境界面に蓄積されるひずみエネルギーが一定の速度で増加するため、巨大地震には周期性があると言われています。日本に運ばれてくる熱エネルギー(高温域)は、決まったルート、決まった周期で、日本列島の地下を温めながら移動していきます。その規則性を調べていけば、最終的には地震予知に応用できると私は考えています。
ここで日本各地の「地震の癖」について見ていきたいと思います。
2012年1月に東京大学地震研究所は、「マグニチュード7クラスの首都直下型地震が起きる確率は、今後30年以内に70%である」との試算結果を公表しています。
この予測はプレート説に依拠した周期説です。プレートは等速で移動するとされているので、境界面に蓄積されるひずみエネルギーが一定の速度で増加するため、巨大地震には周期性があると言われています。
このため、「大地震は周期的に起きる」と信じている地震学者が多いようですが、どこかの海域で地震は繰り返し発生しており、「前の地震から何年経っているので警戒が必要だ」という考えは間違っていると思います。
実際、周期説は21世紀初めの米国で否定的な結論が出ています。
米コロンビア大学の研究グループは1970年代、周期説に基づき場所や規模、危険度などの詳細情報を盛り込んだ地震予測を発表していました。
この予測に記された世界125か所の地震について、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校のカガン氏らは約20年かけてその結果を検証したところ、「大きな地震が集中して起きるとされた場所とそうでない場所において実際に起きた地震の数に差が見られず、周期説による予測は統計学的に有意でない」と結論づけた論文を2003年に発表しました。
先ほどの地震調査委員会の長期評価は、首都圏内で起きた過去の大地震の間隔から割り出したものですが、安政江戸地震(1855年)は駿河トラフで発生しているのに対し、関東大震災(1923年)は相模トラフで起きています。
安政江戸地震と関東大震災、この2つの地震はまったく違った場所で起きた地震であることから、周期性を議論すること自体がナンセンスでしょう。
この試算は、東日本大震災後のプレート活動の変化などから独自にはじき出したもののようですが、はっきり言って信憑性が低いと言わざるを得ません。
首都圏の地震で注目すべきは、伊豆諸島(ほぼ直線で約1700km続く火山諸島)の動きです。首都圏の地震はMJルートでやってくる熱エネルギーで引き起こされるからです。しばしば火山が噴火するので、地下が熱く、ところどころに約1000度の溶けたマグマがあるようです。
伊豆諸島の活火山群の土台は、東西幅が250kmほどある伊豆海嶺と呼ばれる海底から盛り上がった山脈です。
火山帯の地下の様子を説明しましょう。
陸の八ヶ岳、富士山、伊豆半島から、南の海底の火山までの地下は、上が花崗岩層、次にやや熱い岩層が続き、下が弾力性のある玄武岩に似た岩石層が重なっていて、陸と海の地下の仕組みが同じであることが地震探査の調査でわかっています。「陸のプレートと海のプレートは、生まれも育ちも違う」というプレート説の前提が誤っていることの証左です。
伊豆諸島の活火山群の活動周期は、1900年以後のデータから、約40年であることがわかっています。それより弱い活動は、十数年の周期で起こっています。
東日本大震災以降、富士山の噴火が懸念されていますが、私は当面心配ないと考えています。
富士山の噴火はマグマのうねりで発生すると言われる低周波地震や噴気と呼ばれる火山ガスの噴出がきっかけになるようですが、現在までこのような兆候がないからです。関東地域の危険地域はどこでしょうか。
地震がよく発生しているのは、狭山地方から東京湾北部に延びるルートです。最短で十数年おきにマグニチュード6~7クラスの地震が起きています。
江戸時代には、慶安地震や安政江戸地震など、マグニチュード7クラスの大地震が発生しました。安政江戸地震では死者約4000人、倒壊家屋約1万戸の被害が出たそうです。
狭山地方から東京湾北部に延びるルートは地震発生が多い地域であることから、埼玉県と東京都を略して「埼都地震帯」と呼んでいます。首都圏で起きる地震は、多くの人々が生活する都心の真下で起きることから、被害が甚大になる可能性が高いと言わざるを得ません。
特に被害が大きいと考えられるのは、東京都北岸・千葉県中央部・千葉県東方沖を結ぶルートです。
1987年に発生した千葉県東方沖地震(マグニチュード6.7)では、死者は2人と少なかったものの、損壊家屋6万3000戸超、崖崩れ385か所、道路の損壊1565か所の被害が出ました。
戦前では、1931年に西埼玉地震(マグニチュード6.9)が発生しました。揺れが強かった地域では、至るところに地面の亀裂が生じ、液状化による地下水や土砂の噴出、井戸水の濁りなどが起きました。被害は埼玉県内で16人が死亡、負傷者146人、家屋被害は全壊206戸、半壊286戸とする資料もあるようです。
伊豆半島近辺も、1923年に関東大震災を引き起こした富士火山帯の東縁に位置するので、要注意な地域です。1978年に伊豆半島近海地震(マグニチュード7.0)が起きています。
戦前では、1930年に起きた北伊豆地震(マグニチュード7.3)が甚大な被害をもたらしました。震度7の激しい揺れが、掘削中のトンネルを塞いでしまうほどの大地震でした。
1923年の関東大震災から7年経っても、マグマの勢いは強く、伊豆半島北部では地面が盛り上がり続けていたのです。
伊豆から相模地域にかけての地震は「震源が浅い」という特徴があります。地下でマグマの勢いが強くなるたびに浅い裂け目ができるからです。
改めて関東地方の危険地域をまとめてみましょう。
静岡と神奈川の県境(伊豆・相模地域)、神奈川県中部、多摩川沿い、埼都地震帯(南埼玉・東東京・千葉中央)、利根川沿いなどにマグニチュード5クラスの大きな地震が集中しています。
約30~50年の周期で熱が移送され、富士火山帯の地下を温め、地面を隆起させることで関東地方の地塊が動くと地震が発生します。十数年周期の小規模な地震も同じメカニズムで発生します。
西日本・九州・北陸・東北…本当に危ないのはどこ?熱移送説が明かす「地震の癖」
今回は西日本について見てみましょう。
西日本には、3つの熱移送ルートがあると考えています。3つのルートとは、①日本海沿岸地域、②瀬戸内海地域、③南海トラフ(太平洋沿岸地域)です。
1995年の阪神淡路大震災の発生メカニズムは、和歌山市と神戸・淡路島の間には、石板状に区切られた地震発生層のブロックがあります。
このブロックはブヨブヨな無地震層の上に載っているので、和歌山市でブロックが熱エネルギーで押し上げられ、反対側にある神戸・淡路島のブロックが急激に下がり、神戸側の岩盤が引きちぎられるように裂けたのです。こうして阪神淡路大震災が起きました。
阪神淡路大震災の前年に起きた1994年5月の滋賀県中部地震から裂け始め、その裂け目は明石海峡方面に延び、最後に最大の破壊が起きてしまいました。
中国・近畿地方で、今後地震が発生しやすい地域をまとめてみましょう。
この地域でも30~50年の周期でマグニチュード6~7クラスの地震が起きています。阪神淡路大震災は1995年です。中国・近畿地方で次のマグニチュード7クラスの地震が起きる目安は、2025年から2040年あたりだと予想できます。
ブヨブヨな無地震層の上に載っている大山(だいせん)火山帯の周りは、非常に地震が起きやすい場所です。
大山火山帯はほとんどが死火山(100万年以上活動が見られない火山)ですから、噴火する可能性は極めて低いのですが、地下は熱くなっているのです。中国地方の地下の浅いところに高温帯が存在しているからでしょう。
西日本では「地塊」の境界線に沿って地震が起きていることが特徴です。少し地塊について説明しましょう。
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私は長年、関東甲信越地域を中心に山や丘陵をくまなく歩いてきました。そのフィールドワークで、地震を発生させる岩石層は、断層で切られ、多くのブロックになっていることがわかりました。
地震の発生地点を線で結ぶと、岩層片の切れ目の面になります。
この岩層片が「地塊」と呼ばれ、日本列島にはこのようなブロックがいくつも存在し、お互いに接しています。
1970年、地質学者の藤田至則氏は「1600万年前に少なくとも4回の変動があって、これらの地塊がつくられた」と指摘しました。
地塊の提唱者である藤田氏が講義の際に使用していた「地塊の全国分布図」の上に、1825年以降に発生したマグニチュード6~7クラスの地震をプロットしてみると、特に西日本で、被害の大きな地震は見事に各地塊の縁や境界部に位置していることがわかりました。
熱が移送されるとその上に載っている地塊は揺れ動きます。その下の岩石層は、割れる前に曲がってしまうような、ブヨブヨした不安定なものです。この上に載るブロックは、常に動いて、境界がズレて地震を発生させます。このため地塊の端で地震が起きやすくなるのです。
普段は目立たない地下の地塊の境界が、マグマの活動などで再び動き、大きな地震を引き起こすのです。
最初の押し上げが強ければ、地塊同士が押し合いへし合いしているので、隣の地塊にも揺れが波及することもあります。
マグマの活動で膨れ上がった大地にできた亀の甲羅のような割れ目は300万年前にできてから現在に至るまで変わっておらず、今も開いたままです。
これらのブロックの境界の位置は変わらないので、境界の場所を知っていれば、地震の発生場所がわかるのです。
地質学者である私は、地質や地塊は地域ごとに大きく異なるのが当たり前だと思っています。しかし、地塊を地震に関連させる地質学者は少なく、地震学者でそうした発想をする人は皆無に等しいと思います。
九州にはPJルートの熱が到達します。このため、霧島火山帯の動きに注目することが大事です。
霧島火山帯は、九州中南部の霧島を北端として南西に延びており、霧島山、桜島、鬼界カルデラ、口永良部(くちえらぶ)、諏訪瀬などの火山が連なっています。阿蘇山をはじめ島原・阿蘇・九重などの火山が連なるのは大山火山帯です。
2016年の熊本地震は松代地震と同様、典型的な火山性地震でした。熊本地震の発生地域は火山に取り囲まれた温泉地帯という点でも、ほかの九州の地震と同様です。
九州中央部では1500万年前にマグマが大地をカマボコ状に押し上げました。その後、地面を支えていたマグマが抜けると地面は沈み、そこにできた大地の凹みが「別府―島原地溝」です。この地溝に南から熱が移送されました。
2014年と2015年に鹿児島県の口永良部火山が噴火し、桜島や雲仙岳、阿蘇山の噴火が続き、最後に熊本で大地震を引き起こしたのです。
PJルート上にある台湾で大地震が頻発していることから、今後、九州地方で大地震が起きる可能性があると思います。
日本には7つの火山帯がありますが、そのうち2つが存在する九州では地震の備えが常に必要だと思います。
次に北陸・中越地方について説明します。
熱の移送は、PJルートである日本海沿岸のルートを通って若狭湾を回り込むように東へ延びています。
1995年の阪神淡路大震災の後、1998年8月から1999年1月まで、長野県と岐阜県をまたぐ焼岳で火山性群発地震が起きました。
明治時代の地震学者・大森房吉は、長野県から新潟県に流れる信濃川沿いで大地震が多いことに注目し、そこを「信濃川地震帯」と命名しています。
私は2014年9月27日の御嶽山噴火後に「信濃川地震帯でマグニチュード6~7クラスの地震が今後数か月以内に発生する」と予測したところ、2014年11月22日に信濃川地震帯内の長野県北部の白馬村でマグニチュード6.7の地震が発生しました。
浅間山の噴火にも注目すべきです。
2004年9月の中規模な噴火の1か月後の10月23日に新潟県中越地震(マグニチュード6.8)が起きています。
中越地震ではマグニチュード6クラスの地震が4回も続けて起こりました。膨大な熱エネルギーを持っている火山性地震の特徴です。2007年3月には能登半島沖でマグニチュード6.9の地震も起きています。
東京大学名誉教授の宇佐美龍夫氏によれば、北陸・新潟地域では十数年ごとに被害を伴う浅発地震が発生していることを指摘しています。
北陸・中越地方を通り過ぎた熱エネルギーは東北地方に到達します。
2008年6月に岩手県内陸南部地震(マグニチュード7.2)が発生しました。震源は鳥海・那須火山帯(奥羽山脈)のほぼ真ん中にある栗駒山でした。
岩手県内陸南部地震の後も、東北地方の太平洋沿岸地域でマグニチュード6~7クラスの地震が次々と起こっていました。
2008年7月に福島県沖でマグニチュード6.9の地震、岩手県沿岸北部でマグニチュード6.8の地震、同年9月には十勝沖でマグニチュード7.1の地震が起きました。
私は2009年頃から「東北地方の太平洋沖に膨大な熱エネルギーがたまっているのではないか」と危惧していましたが、その悪い予感は、2011年3月の東日本大震災の発生という形で現実のものになりました。
東北地方では1896年にも明治三陸地震(マグニチュード8.2~8.5)と陸羽地震(マグニチュード7.2)が起きています。
東北地方では太平洋沿岸と内陸で連動して大地震が起きる傾向があります。
私は「その周期は約30~50年間隔だ」と考えています。
以上が、私が考える日本各地の「地震の癖」です。
私は日本に到達する熱エネルギーが各地に移送される際に地震や火山噴火が起きると考えていますが、先述した通り、このような発想を共有する地震学者は皆無に等しいのが現状です。
地震発生という非常に複雑な非線形現象(数学的な解析が困難なため予測がしづらい現象)を予知することは困難ですが、「熱エネルギーの移送で地震が起きる」という視点で見ていけば、数か月後の地震発生を予測できる可能性は高いと考えています。