半導体株、NVIDIAの次はメモリーか? 2024年7月2日
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米エヌビディアを起点にしたAI関連株の物色が半導体メモリー株に及んでいる。生成AI向けのGPUに組み込む高性能メモリーの需要が急拡大しているためだ。5日にはメモリー大手、韓国サムスン電子が4〜6月期決算の速報値を公表する。半導体株相場の行方を占いそうだ。
メモリー株では、韓国SKハイニックスと米マイクロン・テクノロジーの上昇が目立つ。SKの株価は2023年末比で66%、マイクロンは54%高い。2社の単純平均で、フィラデルフィア半導体株指数(SOX)の約2倍の上昇率だ。
同じエヌビディア関連銘柄でもオランダのASMLホールディング(37%高)や米ラムリサーチ(35%高)といった製造装置株を上回る。
手掛かりはエヌビディアの新製品向け先端メモリー「HBM(広帯域メモリー)」の需要だ。HBMは一時的に情報を保持するDRAMを積み重ねており、高速・大容量の処理が可能だ。エヌビディアが3月に出荷を始めたGPU「H200」は現在主力の「H100」の改良型で、容量が8割大きいHBMを採用している。
台湾調査会社のトレンドフォースによると、SKはエヌビディアのH100に使うHBMで9割以上のシェアを持つ。マイクロンは2月、消費電力を約3割減らした新しいHBMの量産をエヌビディアなど向けに始めた。
HBMはGPUの処理能力を左右する。H200はH100と基本スペックが同じにもかかわらず、回答を導く速度が4〜9割上がったという(米オープンAIと米メタの生成AIの場合)。年内に本格投入する次世代GPU「ブラックウェル」は、組み込むメモリーの容量が最大でH200の2.7倍になる。
米モーニングスターの伊藤和典ディレクターは「HBMの供給はエヌビディアのGPU生産を左右する。メモリーメーカーは生成AI銘柄の大本命」と指摘する。
生成AI向け半導体でエヌビディアと競合する米アドバンスト・マイクロ・デバイス(AMD)や、自社でも生成AI半導体を設計する米アマゾン・ドット・コムも搭載するメモリーの容量を増やす見通しだ。
みずほ証券シニアアナリストのマーカス・シン氏は、エヌビディアやAMD、米インテル、アマゾンなど6社合計のHBM需要が24年に前年比3.9倍の114億ギガ(ギガは10億)ビット、25年は同9割増の216億ギガビットまで膨らむと試算する。
モーニングスターの伊藤氏は「最新のHBMは容量あたりの価格も高まる」と、価格面でも収益に貢献するとの見方を示す。
生成AI需要の恩恵はデータを長期保存するNAND型フラッシュメモリーにも及ぶ。生成AI向けの需要増が確実視されるデータセンターの拡大に連動して出荷が増えるとの思惑で、米ウエスタンデジタル(WD)は年初から46%上昇している。
HBMの普及は、間接的にパソコン(PC)やスマホ、家電などに使う汎用メモリーの価格上昇にもつながりそうだ。
大手メモリーメーカーがHBMの生産に注力し、汎用DRAMの供給が絞られるとの見方が出ている。トレンドフォースは「生産能力には限りがある。HBMの生産が優先されると、DRAMの供給が不足する可能性がある」と指摘する。
今後は生成AI対応のスマホやPCの登場も見込まれる。買い替えが起きればDRAMの需要も伸びる。岩井コスモ証券の斎藤和嘉シニアアナリストは「HBMの販売拡大に加え、汎用DRAMも利益を確保できるようになる。大手メモリーメーカーにとっていいことずくめ」と話す。
実際にDRAM価格は上がり始めた。汎用品の指標であるDDR4型8ギガビット品の大口取引価格は5月に1個2.10ドル前後と3カ月ぶりに上昇した。エレクトロニクス商社の幹部は「DRAMの大口価格は目先も上昇が続きそうだ」とみる。
SKとマイクロンはメモリー市況低迷で前期はともに最終赤字だった。それでも株価が堅調なのは、足元のHBMの需要拡大と汎用メモリーの価格上昇による業績好転が織り込まれているためだと言える。
QUICK・ファクトセットによると、マイクロンの25年8月期の純利益は今期比13倍と7年ぶり高水準を見込む。12カ月先ベースの予想PER(株価収益率)は16倍と、エヌビディアの40倍を大幅に下回る。SKの予想PERは8倍とさらに低い。
ピクテ・ジャパンの田中純平ストラテジストは「HBMによる業績拡大を見込むなら株価はなお割安」と指摘する。
サムスン電子はエヌビディア向けHBMの出遅れで株価は23年末から4%上昇にとどまる。それでも、汎用DRAMの価格上昇による利益率の改善で、市場予想は24年4〜6月期の純利益が前年同期比4.7倍の7兆2900億ウォン(約8500億円)と大幅改善が期待されている。
HBMについても、野村証券は6月24日に「競合との差が一段と縮まる」として、目標株価を12万ウォンと従来の10万ウォンから引き上げた。
もっとも、メモリー株は急ピッチの上昇で市場の期待も膨れ上がっている。6月26日に24年3〜5月期の決算を発表したマイクロンは最終損益が3億3200万ドルの黒字と前年同期(18億9600万ドルの赤字)から黒字転換したが、市場予想(3億3900万ドル)はわずかに下回り、翌日の株価は7%安に沈んだ。
大和証券の柴田光浩シニアストラテジストは「ある程度の業績改善は織り込まれており、さらに上値を追うにはHBMが着実に収益貢献することが必要になる」と指摘する。