ピーター・ターチンの終焉の時代 2023.8.6
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科学雑誌「ネイチャー」が、ターチンと他の学者たちに「10年後の未来を予測してくれ」と頼んだことがある。これは2010年のことで、西洋における政治的ムードがいまほど暗くなかった時代だ。当時ターチンは、「自分の理論モデルによれば、2020年代前半に、米国において政治的不安定さがピークを迎える」と述べた。以下は彼の発言の引用だ。
ターチン氏は自身のモデルを使用して、アメリカは 2020 年頃に政治秩序の崩壊につながる社会崩壊のスパイラルに陥っていると予測しました。 彼の予測はますます正確であることが、証明され、『End Times』はその理由を明らかにします。
世界史の教訓は明らかである、とターチン氏は主張する。支配エリートと多数派の間の均衡がエリートに有利に傾きすぎると、政治的不安定はほぼ避けられない。 所得格差が拡大し、繁栄が不釣り合いにエリートの手に流れ込むにつれ、庶民は苦しみ、エリートになろうとする社会全体の努力はますます熱狂的になっている。
彼はこのプロセスを富のポンプと呼んでいます。 それは呪われた者と救われた者の世界です。 そして、そのような地位の数は比較的固定されたままであるため、エリートの過剰生産は必然的に挫折したエリート志望者につながり、彼らは大衆の憤りを利用して確立された秩序に反抗します。
ターチンのモデルは、この状態に達すると社会が死のスパイラルに閉じ込められ、そこから抜け出すことが非常に困難になることを示しています。
アメリカでは、富のポンプが二世代にわたりフル稼働し続けている。 歴史動力学が示しているように、エリートの過剰生産と民衆の強制収容という現在のサイクルは、暴力的な政治的崩壊への道程にかなり進んでいます。 それは考えられる終了時間の 1 つにすぎず、選択は私たち次第ですが、時間は遅くなります。
「米国のような国家が景気の長期低迷や賃金の低下、貧富の格差拡大、高学歴若年層の過剰生産、社会不信、公債の爆発的増加といった問題に直面するとき、別個にも見えるこれら社会指標は、実のところダイナミックに結びついている」
木曽崇/Takashi Kiso @takashikiso 反論
仰る意味は判るんだけど、高学歴が権力を得る手段となるのだという社会的幻想をまず改めることが必要なんだと思う。
→ピーター・ターチン「社会が不安定化するのは、高学歴者が増え過ぎたから」 権力を取れないエリートが反乱を起こす
社会が混乱を極めた2020年夏、ターチンは予言者と崇められた。新著『終焉の時代』について、そして来るべき米国共和制の衰退について語り合うため、私はロンドン中心部のあるホテルでターチンと会談した。
複雑な人間社会というものは、どれもやがて激動の時期を迎えることになります。「終焉の時代」に突入するのです。この点においてのみ、我々は米国とソ連を比較することができます。両国には、エリートの過剰生産という深刻な問題を生じさせてしまった共通点があります。
ですが、ソ連後期においてエリートが過剰生産されたメカニズムは、米国とは異なります。ソ連では技術系の学位、とりわけ工学の学位の過剰授与が深刻でした。1980年代後半から1990年代前半にかけて行なわれたデモを調査し、実際に反政府運動に参加していた人たちを確認してみると、その大多数が工学の学位取得者だったのです。
──いまの米国において、それに対応するような学位はなんでしょうか?
一番危ないのは法学の学位でしょうね。
──なぜでしょう?
それは、米国において官職・公職に就く方法が次の2つだからです。ひとつは富を持っていること、もうひとつは適切な信用保証を持つことです。最も優れた信用保証が法学の学位なのですね。それゆえ、政治家になりたい人達はロースクールに行くわけです。
ロースクールはエリートと反エリートの両方を最も多く生み出す場所です。名前は忘れましたが、極右民兵組織「オースキーパーズ」のリーダー(スチュワート・ローズ)は、イェール大学ロースクールの卒業生ですね。
ふむ、ちょっと遡ってみましょうか。まず強調しておきたいのですが、現時点でもっとも実証的であると思っている私の理論は、実のところ合成されたものです。マルクスから取ったものもありますし、マックス・ウェーバーから取ったものもありますし、エミール・デュルケーム、トマス・マルサスさえ用いています。 これらすべての要素があるのです。
この理論は、場合によっては不愉快な回答をもたらします。回答の一部はリベラルにとって不愉快なものです。また、保守派にとってあまり愉快でないものもあります。
たとえば私の理論においては、労働者の賃金を守る制度が存在しないのに大量の移民を受け入れるのは、現実問題として悪いことと考えます。これは広範囲にわたる経済の弱体化を引き起こす要因のひとつです。政治的なスペクトラムで極左に位置する人々にとって、これは明らかに不愉快な話ですよね。
ですが一方で、「ウェルス・ポンプ(他の大多数を犠牲にし、少数の富裕層・富裕国にさらに富を集中させる経済状況のこと)」を抑制したければ、そこにはおそらく富裕層に対する高い課税が含まれてきますし、これは保守派にとって不愉快な話となります。
したがって、私はみなに嫌われるという幸せな状況にあるわけです。
──どこかで読んだことがあるのですが、ビル・ゲイツと平均的な米国民の富を比較すると、西暦400年に最も金持ちだったローマ貴族と平民の富の差にだいたい等しいそうです。もしかしたらちょっと間違えて覚えているかもしれません。ともかく私が言いたいのは、これはとても許しがたい数字だということです。
その方法は私も使います。ある年のトップの資産を平均年収と比較するのです。これもパターンを見出す方法の1つですね。
──そこで2020年前半の米国を見たとき、こうした指標が赤信号を示しているのがなぜなのか、教えていただけますか? エリートは過剰生産されています。あなたがおっしゃるところの「ウェルス・ポンプ」もあります。移民問題もあるし、政治の機能不全も問題です。
こうした問題を噛み砕いて、米国における今後10年が、社会の暴力的な激動の時代になるとあなたが予測する理由を、我々にもわかるように説明していただけないでしょうか?
わかりました、人口の弱体化からはじめましょうか。米国人の身長の伸びはもう止まっています。さらに寿命も短くなっています。一方のヨーロッパでは寿命は伸び続けています。これはショックでした。米国では新型コロナより前の時点で、すでに平均寿命が下がりはじめていたのです。
衰退のなかで、すべてがよくないほうに向かっています。またこうした指標、たとえば平均収入といったものは、どれも回復の兆しを見せません。
エリートの過剰生産に関しては、実のところ物事が変わりはじめているのかもしれません。次に挙げる例は必ずしもよいことではなく、状況がいかに悲惨であるかを指し示しているのですが、たとえば5〜7年前には、高校卒業から間を置かずに大学に入学する学生の率は67%だったのが、いまは62%です。これは本当によいことでしょうか?弁護士の総数は未だにとても多いままです。
クリオダイナミクスとは?
クリオダイナミクスは、歴史の進行や社会の変化を科学的な方法で分析しようとする学問分野であり、特に大規模な社会的・政治的な変動に焦点を当てています。クリオダイナミクスは、歴史と社会の変化を科学的に分析し、将来の変動を予測しようとする試みです。ピーター・ターチンによって提唱され、構造的・循環的な変動、エリート過剰、内外の圧力などの概念を用いて社会のダイナミクスを説明しています。
私が研究しているのは、私たちがどのようにして大規模で複雑な社会に住むようになったのか、そしてなぜそのような社会が周期的に終末期を迎えるのか、ということなのです。今日、ほぼ100%の人々が国家として組織された社会で暮らしているが、これらの社会はわずか5000年の歴史しかない。
進化の歴史の95%において、人類は小規模で単純な社会で暮らしていた。それが突然、驚くべき進化を遂げた。これが2つの大きな疑問のうちの1つです。つ目の疑問は、もちろん、なぜそのような社会が周期的に終末期を迎え、社会的機能不全や政治的崩壊が起こり、時にはかなり悲惨な結果を招くのか、ということだ。
『End Times 』は政治的共同体がまとまる原因、そしてバラバラになる原因を理解するための彼の研究の集大成であり、現在の米国内の混乱に応用されている。
世界史の教訓は明らかだとターキンは主張する。支配エリートと多数派の均衡が、エリートに有利に傾きすぎると、政治的不安定は避けられない。所得格差が拡大し、繁栄がエリートの手に偏って流れ込むと、庶民は苦しみ、エリートになろうとする社会全体の努力はますます熱狂的になると言う。
エリートの過剰生産とは、限られた数のエリートポジションを目指す個人が過剰に存在することを意味する。ここでいうエリートとは、社会的に大きな権力を持つ人口のごく一部のことである。アメリカでは上位1パーセントを指すこともあるが、それ以上に複雑である。また、帝国中国のマンダリン階級や、かつてのイギリスやフランスの軍人貴族を指すこともある。権力を持った人々です。
次の質問は、エリートの力学についてである。これが重要な問題だ。エリートの地位、つまり権力の座を得ようとする人々は常に多く存在する。私たちはこうした人々を「エリート志望者」と呼んでいる。ある程度の競争は正常で健全なものだ。しかし、エリート志望者の数が急増し、利用可能な権力の座の数を完全に圧倒してしまうこともある。
その一例が、2016年の大統領予備選における共和党の17人の候補者である。一人の人物がルールを破り始め、他の人物もそれに続き、やがて事態は誰も予想していなかったようなものに発展していった。しかし、それはこのような状況では普通の結果だ。中世社会でも、フランス革命やロシア革命、アメリカ南北戦争のような崩壊に先立つ時代でも、このような現象が見られる。
これらのケースではすべて、エリートの過剰生産という深刻な問題が社会規範の崩壊を招き、最終的にはアメリカ南北戦争で60万人が犠牲になったような流血につながったのであると警告する。