ニック・ランド 「暗黒の啓蒙書」 2020.05.22
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未来への希望がゼロとなった状態を見通す、どこまでもダークでホラーな思想。特にイギリス発のダークな作品はジャンルに関わらず、ずっーと以前から好きだ。
ペイパル創業者にして、Youtubeをはじめ、LinkedIn、Airbnb、 Space X、 Tesla Motorsといった錚々たる企業への投資を行う投資家であり、トランプ支援者であるピーター・ティールのリバタリアン的思想、暗黒啓蒙という思想の源泉となる思想を展開した #カーティス・ヤーヴィン 、そしてタイトルにもなっている加速主義的思想の父ともされる #ニック・ランド という、未来に暗い特異点をみる現代思想動向について紹介する。 起業家のピーター・ティールは「僕たちは空飛ぶクルマがほしかったのに、手に入ったのは140文字だった」と言った。過去に埋没する「実現されなかった未来」は亡霊のように現在に取り憑き私たちを悩ましている。
ティールは言う、17世紀後半以降、つまり啓蒙の時代以降、西洋はヒューマニズムという普遍的かつ偽善的な価値観のもと人間の根源的なあり方を覆い隠してきた。その根源的なあり方とは、人間に潜在する暴力性と悪徳である。
ティールからすれば、オサマ・ビンラディンとは、モダニズムが抑圧してきたものの文字通り暴力的な回帰なのだ。そして、この西洋の「外部」からの暴力の洪水=テロリズムが、我々を健忘症的な眠りから叩き起こすだろう、何かの過ちから、「啓蒙」と名付けられたこの深い眠りから。自由、平等、博愛。
近代が目指した3つのキーワードが覆隠そうとした人間のダークな側面がいま噴出しており、この本には繰り返し、ニーチェの名が登場するのだが、ニーチェのルサンチマンはまさしく現在デモや誹謗中傷という形であちこちで表出している、寛容性を欠いた者同士の衝突の根源にあるものだろう。
近代の啓蒙への批判として #暗黒啓蒙 というコンセプトを打ち立てるのが、この本の主人公ともいえるイギリス出身の思想家ニック・ランドだ。(暗黒啓蒙Dark Enlightenment:反民主主義的かつ反動的な運動で平等主義を拒絶、進歩を否定) 他者を自分の内部に同化させ、他者を抜け殻のようにしてしまう近代における「他者の取り扱い方」は、なにも植民地主義に限らない。地球環境も同じように扱ったからこそ、現在のような環境危機が訪れている。
自分の意識越しにしか、他者を見ることができない、まさに「物自体」としての他者には接触できない。他者は主観側の相互作用によって表象として認知するしかない。カントによる「抑制された総合」とは、他者の他者性を圧殺するための世界観に他ならない。 #啓蒙主義 その校閲が入りまくりの捻じ曲げられた総合的な外部の表象にしか目を向けられない近代のあり方が、その視界の外部へと追いやった者どもからいっせいに反撃を受けているのが現在だろう。
ランドは、ティール同様に、 #カント 以降の近代の啓蒙的なあり方を疑問視し、こうした状況から抜け出す=exitする方法として、加速主義を唱える。市場化を加速し、テクノロジーによる変革を加速する。その先にシンギュラリティの様な特異点を創出し、近代の考え方では捉えることがようなものを生み出し、そこに逃げ込む。 2008年に起きた世界金融危機以来、右派も左派も資本主義に対する新たな戦略を必要としていた。その一つが加速主義というわけだが、他方でリバタリアンの側からもアクションを起こす者たちが現れてきた。
そのなかの一人がピーター・ティールである。ティールは2009年、先の金融恐慌に触れながら、破綻した金融機関や企業に対する公的資金の投入による補填といった、国家と市場の腐敗した泥沼的関係を批判した。
「啓蒙」とそれに付随する普遍的でリベラルな価値観(民主主義、人権、ヒューマニズム、等々)がグローバルに輸出されていくことで、西洋は覇権を握ったかに見えた。だが一方で、そうした啓蒙のグローバル化は西洋の固有性を失わせ、さらに個人の自由を大幅に制限するそれらの啓蒙主義的な価値観は西洋をいたずらに弱体化させることに寄与してきた。
そうした事態は昨今の中国や東アジアの著しい台頭、そして9・11以降後を絶たないイスラム諸国からの西洋に対する攻撃という形で一層決定的となった。
よって、弱体化した上に9・11というトラウマを抱えた西洋は、いまこそ啓蒙主義的な価値観を脱することで、この破滅的な衰退から逃れなければならない。以上がティールの主張の大まかな骨子である。
こうしたリバタリアンの側からなされるリベラルな価値観の否定は、やがて異常な共振性を伴いながらティールの周囲に特異な思想を醸成させていくこととなる。 #新反動主義 と呼ばれることになる思想がそれである。 新反動主義を代表する論者の一人、 カーティス・ヤーヴィンはシリコンヴァレーを拠点に活動する起業家兼ソフトウェア・エンジニアで、現代において普遍的な価値と見なされている啓蒙的な諸価値(ヒューマニズム、人権、民主主義、博愛主義、平等、等々)は、その実まったく普遍的ではなく、それどころか西洋のローカルな宗教、すなわちピューリタニズムに起源を求めることができる、つまりキリスト教プロテスタンティズムが世俗的に変形されたものに過ぎず、それは自らの起源を巧妙に覆い隠したまま今も世界中をウイルス=ミームのように覆い尽くしている、という。
いまや一つの新たな異形の思想のネットワークが胚胎しようとしていた。そして、やがて一部の #オルタナ右翼 にも思想的な霊感を与えることになる新反動主義というこの新たな思想潮流にいちはやく目をつけたのが、前出のニック・ランドその人だったのである。 腐敗が宿命付けられた民主制の〈外部〉を目指すこと、そして同時に民主政に代わるオルタナティヴな体制を具体的に構想すること、これこそが新反動主義の要諦なのだという。
ニック・ランドはサイバネティック文化研究ユニットCCRUの共同設立者だった。
一部の新反動主義の未来派は、国家を打ち負かすために技術の使用に焦点を当てている。例えば、少数の者が国家の絆から自由になるために超知能的ヒューマン・コンピュータハイブリッドに進化する、というトランスヒューマニスト的加速主義が提案されている。 #サイボーグ