インテル終わってる? 2024/12/18
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ゲルシンガー氏がインテル復活の重責を担わされた インテルの売上額や営業利益、研究開発費などの推移
師走に入り衝撃的なニュースが飛び込んできた。半導体大手インテルのパット・ゲルシンガーCEOが12月1日に退任した。
インテル生え抜きのエンジニアとして2009年まで活躍したゲルシンガー氏は、2021年2月にCEOとして同社に戻った。新戦略「IDM 2.0」を掲げて積極的な設備投資を行い、インテルを再び成長軌道に乗せようとしたが業績不振は続き、取締役会から引導を渡されたと見られる。
確かにインテルの業績は厳しい状況が続いている。図1は四半期ごとの売上高、営業利益、研究開発費、固定資産額の推移を示している。ゲルシンガー氏が就任して以降、積極的な設備投資に反し売上高は減少。安定していた利益も低下し、2024年7~9月期には大規模なリストラなどに伴う引当を行い過去最大の赤字となった。この間、工場投資とともに固定資産額は増え、開発も減らすことはせずにアクセルを踏み続けたことになる。
これまでのインテルの強みはIDM(垂直統合型デバイスメーカー)として半導体の製品自体の開発と製造技術開発がうまく連動していたことだ。具体的にはチック・タック戦略と呼ばれるものだ。インテルは「nm世代」で表される回路線幅の微細化のようなプロセス開発(チック)と、その世代を維持したまま製品設計を更新するアーキテクチャの開発(タック)を交互に行ってきた。
これによってインテルは製品開発を製造技術の開発ペースに合わせて行うことができ、タイムリーに市場に新製品を投入。この開発ロードマップモデルは2015年の14nmノード世代まではうまく機能していた。
ところがインテルは10nmノード世代のプロセス開発につまずき、それが製品開発のスケジュールにも影響を与えることになった。成長しているデータセンター市場はインテルから新製品がなかなか出てこないことに痺れを切らし、2020年頃からAMDやエヌビディアの製品を採用する企業が増えてきた。
図2はデータセンター部門のインテル、エヌビディア、AMD(部門再定義により2021年より記載)の売上推移である。2023年からのエヌビディアの驚異的な売上もすさまじいほか、2024年7~9月期にインテルはAMDにまで売上を抜かされるところまで追い詰められてしまった。
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図2:データセンター部門の売上額比較 表1:先端プロセスノード開発進捗
今のインテルの凋落をAI半導体への乗り遅れと指摘する声もある。確かにエヌビディアの急成長は生成AIの普及によるものだ。ただ、インテルが乗り遅れている根本的な原因は、10nmノード世代のプロセス開発の遅延影響を今でも引きずっていることにあると筆者は考える。
この10nmノード世代のプロセス開発はインテルだけでなく各社が苦戦している。半導体受託製造(ファウンドリー)世界3位の台湾・UMCはIBMと共同開発を図ったが量産化にはいたっていない。同4位のアメリカ・グローバルファウンドリーズもIBMの技術で開発を目指したがタイミングを逃したため、10nmノードをスキップして7nmノードに注力するも開発を完了できず計画を無期限延期した。
同世代のプロセス開発では台湾のTSMCと韓国のサムスン電子の2社だけが他社に比べて早く開発できたのである。
2021年にゲルシンガー氏がCEOに就任したのは、まさに最新のプロセス開発でインテルがTSMCやサムスン電子に劣後しているのが明確に影響し出した時期である。
彼の方針は最先端のプロセス開発・製造を諦めず再びトップに返り咲くというものだった。5つのプロセスノードを4年間で開発する「5N4Y戦略」を推し進め、IDMをIDM 2.0と再定義し、受託製造にあたる「インテル・ファウンドリー・サービス(IFS)」を開始した。
ファウンドリー事業を目指したのはインテルの自社製品の需要だけでは最先端の半導体工場で利益を確保するだけの生産量を満たすことができないためで、データセンターや車載半導体等の需要を取り込むためでもあった。このIDM 2.0を実現するために重要なファクターがファウンドリーメーカーのイスラエル・タワーセミコンダクターの買収だった。
これまでインテルは自社製造に特化してきた。タワーセミコンダクターの買収は慣れないファウンドリービジネスで欠かすことができない案件だった。しかし、この買収は中国の規制当局の承認が得られずご破算。2024年1月に発表されたUMCとの12nmノード共同開発はこの穴を埋めるためのものだった。
ゲルシンガー氏が“普通”のCEOであったなら、このようなチャレンジングな舵取りをしなかっただろう。しかしながら、彼は古巣である自分たちの技術開発力を信じ、インテルを世界トップに復活させようとした。
また、ちょうどそのタイミングで米中デカップリング問題が大きくなり、アメリカ国内で最先端半導体プロセス技術を保持すべしとの圧力も強まったことも彼がインテル復活への賭けに向かうアクセルを強く踏むことにつながったのだろう(自国内に最先端プロセスを持ちたいとの同様の話は日本でもあるが)。
これらの結果、インテルは利益面で大量の「血」を流しながらプロセス開発はある程度軌道に乗り始めた。しかし、肝心の製品開発が現代の流れに乗っていなかった。具体的にはエヌビディアが強みをもつ生成AI向けのGPUに対抗するような製品群が準備できていなかった。製造技術の開発に特化できるファウンドリーと違い、IDMはプロセス開発と製品自体の開発の両輪が連携していなければならないのである。
現在はデビッド・ジェンスナー氏とミッシェル・ホルトス氏が暫定共同CEOとしてインテルの経営を担うことになる。ただ、次にCEOが誰になったとしてもアメリカの半導体技術を牽引する立場として難しい舵取りが迫られる。
インテルが今やるべきことはエヌビディアに対抗する自社製品がすぐに準備できない以上、ファウンドリー(IFS)事業の出血をいかに減らすかである。つまりアリゾナに拡張中のFab52、Fab62を埋める自社製品以外の顧客を確保することだ。またIFS事業を完全独立化し出資比率を下げることも選択肢にあるかもしれない。
一度遅れたら復帰することが難しい最先端プロセス開発のチキンレースに、インテルは曲がりなりにも戻ってきた。リストラで多くの優秀なエンジニアが去ったかもしれないが、EMIBやFoveros、ガラスコア基板技術、CPO技術(Co-Packaged Optics)など多くの先端パッケージング技術(図3参照)ではトップを走っている。
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図3:インテルの先端パッケージング技術
インテルは前工程のプロセス開発もIntel 18Aのメドが付き、次のIntel 14Aではオランダの半導体製造装置大手・ASML社のHigh-NA EUV露光装置を世界で初めて導入する。TSMCに追いつくことが見えてきているのだ。
技術的にはゲルシンガー氏が進めてきた施策が実を結びつつある。ただ、AI向けを含めた製品開発やファウンドリー・エコシステムの確立など行うべきことはまだまだ多い。次のインテル経営者に期待したい。