Funding the CommonsとWeb再考
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この文章は、2024年に7月24日・25日に開催を予定しているFunding the Commons Tokyo (FtC Tokyo)の文脈について共有するためのシリーズの一つの予定である。今回は、Funding the Commonsが果たしている役割とクリプトにおけるWeb再考の動きや取り組みについて、公共財の観点から濱田が考える文脈を共有する。
Funding the Commons (以下、FtC)は、米国カリフォルニアに拠点を持つイベント組織であり、Web3組織の代表格の一つである分散型ストレージを提供するProtocol Labsと連携してイベント開催を行っている。
FtCは、Web2、Web3にまたがる技術的発展により開けてきた公共財やコモンズへの資金循環の新たな可能性に関する議論を行うため世界各国でイベントを開催しており、FtC Tokyoはその記念すべき10回目となっている。
Funding the Commonsの狙い
FtCは、他のWeb3関連のイベントと異なりデジタル時代における新たな社会のあり方について重要な提言をしている。元Protocol LabsのEvan Miyazono (現、Atlas Computing CEO)は、人類のためになるコモンズ財、公共財、ネットワーク財などを増やす取り組みを推奨し、再考を促す発表をキックオフトークで行っている 1。 ネットワーク財の再考を促すEvan Miyazonoによるキックオフトーク 1 特に、より多くの人が使用すれば使用するほど、その利用者の価値が増す反競合的 (Anti-rivalous)な特徴を持つネットワーク財を紹介し、このようなデジタル財構築に向けた呼びかけを行なった。これは、1990年代後半から2000年代に議論になったインターネット文化より生まれた言説や取り組みの再考を促す意図を持っていた。'Code is Law'でもお馴染みのローレンス・レッシグが立ち上げたCreative Commonsが日本で2004年に米国以外で初めてのライセンスをリリース2し、当時WIRED編集長だったクリス・アンダーソンによる「フリー」(原題: Free: The Future of a Radical Price)が注目されるなど、参加者が増えるほど利用者の利益が増えるネットワーク効果を持つ財に関する議論は活発だった。 一方で、これらのネットワーク効果を持つソフトウェアを提供していたYoutubeやGoogleなどの企業は2010年代には巨大なビックテックとなり、2000年代に夢見た世界とは程遠い世界となっている。ショシャナ・ズボフは、監視資本主義と呼ぶほどになっている。東浩紀は、2000年代初期にこれまでの権力が個人の訓練することで権力を行使する規律訓練型権力であった一方で、個人認証やネットワークなどが人の行動を物理的に、情報的に制限するような環境管理型権力が台頭していると指摘していた3。 Ethereum含めたWeb3の運動は、その分散性、パーミッションレス性、検閲耐性などの環境管理型権力の行使に対抗する取り組みを目指している。
Web3と財の関係
2010年代にWeb2の新興企業が巨大になる中、2014年にEthereumの共同創業者であるGavin Woodによる『ĐApps: What Web 3.0 Looks Like』4がクリプトにおけるWebのあり方を決定づけた。その後DAOやDeFiなどが誕生している。デジタル財を公共のために使おうという精神は、Web3にも一部受け継がれており、プロダクトを作る人たちに大きな影響を与えている。 Ethereum Foundationは、Web3入門の中でWeb3の主要なアイデアをいくつかまとめているが、その一つに"Web3はパーミッションレス"=誰もがWeb3に参加する平等なアクセス権を持っており、誰も除外されることはないことをあげている5。このWeb3の特徴の一つであるパーミッションレスは、財の種類における排他可能性(exclusivity)と類似しており、Web3運動がコモンズや公共財を構築する動機を持っていることを示している6。 実際、分散型金融 (DeFi)は、東南アジアやアフリカの一部地域で政府が信頼できない国の市民や銀行口座を持たない人たちが金融にアクセスできる機会を提供していると考えられており、パーミッションレスが持つ利点が活かされている。さらにDeFiのプレイヤーの代表格とみなされているUniswap 7は、オープンソースソフトウェア(OSS)としてコードを公開しており、参考にしたSushiswapやPancakeswapなどの分散型取引所(DEX)の一大トレンドを作った。 デジタル公共財としてのクリプト
デジタル財を公共のために使おうというデジタル公共財の議論は、2000年代からネットワーク効果含め存在したが、その取り組みや議論がEthereumのエコシステムを中心に再燃している。
実際、Ethereumの共同創業者であるVitalik Buterinは、2021年3月に公開したブログの中で、イーサリアムが保有する資産を全てインフラの維持のみに使うよりも、一定の支出を研究開発やコアプロトコルに割り当てることで、新しいインフラに先行投資を行いエコシステムの価値が高まる可能性があること示唆している8。 オープンソースプロジェクトを支援するGitcoinは、新規プロジェクトやオープンソースの開発者に寄付をすることができるプラットフォームとなっている。ユーザーの寄付の数を重視してプール金から分配する仕組み(Quadratic Funding)を導入し、取引手数料(ガス代)で手に入れた資金を公共財の支援にあてる仕組みも提供している9。Gitcoinは、Ethereum Foundationや分散型金融のプロトコルである1INCHなどとパートナーシップを結び、これまでに日本円にして70億円以上の支援を行っている。公共的なプロジェクトへの支援の代表例として、2022年の年末には、Ethereum Foundationは、国際連合児童基金 (UNICEF)と連携し、金融アクセス、教育・リテラシー、環境、公衆衛生の格差を是正するプロジェクトをサポートしている。 他にも、Ethereumのエコシステムのプレイヤーの代表格であるOptimismは、Retroactive Public Goods Fundingと呼ばれる、結果を残したプロジェクトに対して事後的に支援を行うことで、オープンソースの開発を持続するための資金調達の課題への解決を目指している10。プロジェクトの依存関係から、OSSのプロジェクトへの分配金を決定するDRIPSなどもこの領域での新たな取り組みを行っている。 さらに、公共のために使おうという運動は、分散型技術の上で万人のための研究基盤を作る運動である分散型科学(DeSci)もこういったデジタル公共財の影響を受けている 6。 Funding the Commonsを日本でやる意味について
これまで見たようにFtC Tokyoではクリプトでデジタル公共財を作っているプレイヤーを日本に紹介することを一つの目的としている。
我々がもう一つFtC Tokyoを実施する目的に、日本におけるクリプトの受容としてのlocal DAO、日本における財の問い直しとしての社会的共通資本、現在のクリプトと関連した日本の思想 (柄谷行人による交換様式や鈴木健による"なめらかな社会")などを国外に紹介することがある。
FtC Tokyoでは、これらの双方向の交流が新たな国際的な連携を促すことを企図している。
日本はWeb3について人口減少という独自の課題から受容しており、地方行政への関与をNFTを通じたデジタル住民票による参与などが注目されている。特に地方創生の取り組みとして、Yamakoshi DAOとデジタル住民票として活用されるNishikigoiNFTがある。YamakoshiDAOは、過疎化が進みつつある地域に地方自治に参画するデジタル自治は、クリプトにおけるDAOガバナンスとも非常に関連がありより議論が活発化することを期待している。
次回は、日本、東アジアが抱える課題である人口減少社会に対抗するための再生的な取り組みであるデジタル財を使った地方自治について紹介していく。
その次には、現代における自治の破綻を財の再定義によるメカニズム設計によって再生するスーパーモジュラー財や社会的共通資本の議論などを紹介していく予定である。
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参考文献