Artificial Collective Intelligence Engineering
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Artificial Collective Intelligence Engineering: a Survey of Concepts and Perspectives
https://arxiv.org/abs/2304.05147
**要約**
本稿は「Collective Intelligence(CI)」、とりわけ「人工的(Computational/Artificial)Collective Intelligence(ACI/CCI)」を中心に、CIを工学的に取り扱うための概念や視点を整理・俯瞰しようとするサーベイである。具体的には、
1. **Collective Intelligence とは何か**
- **概要**:CI とは、多数の個体(自然・人工問わず)が相互作用や情報交換によって生み出す知能・振る舞いを指す。個々の知能の単純な総和を超えた現象が起こり得る点が特徴である。
- **自然界における例**:アリやハチなどの昆虫のコロニーや、マーケットにおける価格形成、人間の群衆心理など。
- **人工システムにおける例**:クラウドソーシングによって集められた知識や意思決定、ロボットの群制御やマルチエージェントシステム、ヒトと機械が混在するハイブリッドなシステムなど。
- **主要要素**:
- (a)多数の個体(メンバー)
- (b)相互作用・協調・学習などのメカニズム
- (c)グループ全体としての目標や評価指標(世界全体の有用性や効率など)
2. **先行研究の整理:CIに関するサーベイや関連分野**
- **CI 一般**:人間集団、社会心理学、経済学などの観点を含む総合的な議論がある。
- **Swarm Intelligence**:多数の単純エージェントの相互作用で高次の知能や問題解決能力を得る研究(アリの行動から着想したメタヒューリスティクスや、ロボット群制御など)が盛ん。
- **人間中心の CI**:クラウドソーシングや SNS、組織論など。
- **人工知能・機械学習**:大規模データから知見を引き出すデータマイニング、マルチエージェント強化学習などが“人工的”な CI を支える。
3. **CI を理解するための基本概念**
- **Collective(集合体)**:同質・類似の個体からなる集団、ときに空間的・役割的に区分をもつものを含む。
- **Intelligence(知能)**:一般知能(多様な環境でゴールを達成する能力)・タスク特化型(特定の問題解決能力)など定義は多岐にわたる。
- これらを「集団の“個体”として再定義」することで、集団を一つの知能体として扱うアプローチへ拡張できる。
4. **CI の定義・モデル・主要分類**
- **定義の多様性**:
- 既存の個体知能の定義をそのまま集団へ当てはめる。
- 相互作用と集合知能(Emergence)の観点を加味する。
- **ACI/CCI**:人工的に構成された集団知能。ソフトコンピューティングや AI を活用し、集団の状態や振る舞いを最適化する。
- とくに**Computational Collective Intelligence(CCI)**は、機械学習・メタヒューリスティクス・分散コンピューティングなど“計算手法”に焦点を当てる場合に用いられる。
- **CI の評価指標**:個人の知能と集団全体の知能との関係、社会的感受性や多様性・独立性・分散性などが重要だと指摘されている。
5. **CI の工学的アプローチ:どのように設計・構築するか**
- **知識指向型(Knowledge-oriented)CI**:
- Web システムや IoT デバイス等により人やセンサから大量データを集め、データマイニングや機械学習で集合知を抽出・共有するアプローチ。
- 例:Wikipedia、SNS のトレンド分析、クラウドソーシング。
- **振る舞い指向型(Behavior-oriented)CI**:
- 個々のエージェントの制御則や学習アルゴリズムを設定し、相互作用によって「ロボット集団の自己組織化」「大規模ネットワークの自律制御」などを実現するアプローチ。
- 例:Swarm Robotics、マルチエージェント強化学習システム、分散最適化システム。
- **マニュアル設計 vs. 自動設計**:
- **マニュアル設計**:
- デザイナが直接「ローカルなふるまいのルール」をプログラミングする(Aggregate Computing、マクロプログラミングなど)。
- キー課題は「個々の制御則 → 全体の期待する挙動」の対応付け(ローカル対グローバル問題)。
- **自動設計**:
- 機械学習(強化学習、進化的手法)やプログラム合成を使い、望ましい集団行動を自律的に探索・獲得する。
- マルチエージェント強化学習(MARL)や Evolutionary Robotics などが代表例。
- **ハイブリッド**:上記を組み合わせ、手動による「全体設計(スケルトンや制約、仕様)」と、自動探索による「最適化・補完」を両立させる方向性も注目されている。
6. **人間と機械のハイブリッドな Collective Intelligence**
- **Human-Machine Collective Intelligence (HMCI)**:
- 「人間の判断・学習能力 + AI の大規模計算・自動化能力」を組み合わせる。
- クラウドソーシング、レコメンドシステム、社会的合意形成システムなど、多くの実例がある。
- **社会技術システム(Social Machine)**:
- Web や IoT などをインフラとして、人間が多数参加する巨大なオンラインシステムを指す。
- 集団的意思決定や集合的知識形成を円滑に進める仕組み(協調プロトコル、チーム形成、タスク割り当てなど)を体系的に設計する必要性が大きい。
7. **主要な集団タスクと手法**
- **(a) 集団意思決定**:
- 「最適な選択肢を見つける(best-of-n 問題)」「多数決の同期化」など、分散システムの観点でも分析が進む。
- **(b) 集団学習**:
- 分散学習(フェデレーテッドラーニング、ゴシップ型学習など)やマルチエージェント強化学習が研究対象。
- **(c) その他(集団行動、自己組織化、分散最適化、集団知識構築など)**:
- ロボット群のフォーメーション制御・群れ行動(flocking)、大規模ソーシャルネットワークでの情報拡散モデルなど、多様な応用領域がある。
8. **研究上の課題・今後の展望**
1. **マクロプログラミングと“Emergence”の制御**
- 個々の単純なルールから複雑な集団行動が創発する過程を、人間が意図的に設計・予測・修正するための理論的・実装的アプローチが必要。
2. **手動設計と自動設計の統合**
- 仕様や高レベル言語でグローバル目標を定義し、学習やプログラム合成で詳細動作を補う枠組みへの期待。
3. **トップダウンとボトムアップの融合**
- 集団レベルの目標フィードバック(トップダウン)と、エージェント間のローカル相互作用(ボトムアップ)の両立。
- 既存のオートノミックコンピューティング(MAPE-K ループ)やオーガニックコンピューティング(Observer/Controller)などの手法応用も課題。
4. **社会技術システムとしての視点**
- 人間と機械が相互に学習・協調する枠組みを、セキュリティ・プライバシ・アクセシビリティなどの社会的課題と併せて検討する必要がある。
5. **ソフトウェア工学への統合**
- 集団・創発・動的適応を第一級の概念として捉える新たなソフトウェア設計手法の確立。
**結論**
- CIは多分野にまたがる統合的な研究領域であり、いまだ断片化が大きい。本稿は、特にコンピュータサイエンス・ソフトウェア工学の観点から、定義・分類・既存技術や今後の課題を俯瞰し、CI研究を「知識指向型・振る舞い指向型」「手動設計・自動設計」「人間中心・機械中心・ハイブリッド」といった多層的視点で整理した。
- 今後はマクロプログラミング言語の確立や、強化学習・プログラム合成との結合手法、ヒトと AI が協働する大規模社会システムへの応用などが重要な課題として浮かび上がる。
- 集団知能がもたらす「柔軟性・スケーラビリティ・レジリエンス」を活かすためには、局所的なふるまい(エージェント)の設計原理からシステム全体の振る舞い(創発)的現象までを総合的に扱う理論と技術が不可欠であり、将来的にはソフトウェア工学やシステムズエンジニアリングへのより深い統合が期待される。