柄谷行人と交換様式論 (Modes of Exchange)
public.icon
柄谷行人 (Karatani Kōjin, 1941-)は、日本の哲学者・思想家である。日本では浅田彰とともに1980年代の現代思想ブームの中心人物、協同組合である批評空間、「国家と資本への対抗運動」の活動としてのNAM (New Associationist Movement)の旗手として記憶している人も多いだろう。
2000年以降翻訳が進み国際的な評価も高まる中、2022年には、グローバル資本主義の問題、民主主義国家の危機、ナショナリズムの復活の時代における重要な貢献を果たしたとしてBerggruen賞を受賞している。
Audrey Tangが、柄谷行人より影響を受けたという話はインタビュー等でも開陳されている。特に、2010年に執筆された『世界史の構造』(The Structure of World History)における交換様式論に、Audreyは影響を受けている。
ヴィタリックさんのEthereum上で研究開発された「新たな交換様式」は、不特定多数の人が公共の利益のために交換することを可能にするものです。これは一見すると個人のための利益に見えるかもしれませんが、最終的にはコミュニティー全体の利益になるという共通認識につながります。これらはメカニズムデザインの活用方法であり、私はこれを台湾の政治にできる限り応用するようにしています。前置きが長くなりましたが、なぜこのような交換様式をRadicalxChangeと名付け、Radical x Changeと別々の単語に分けて表示しなかったのか。それは日本の文学者であり哲学者である柄谷行人(注3)さんが提唱している交換様式X、すなわち「交換様式論」(注4)から着想したものだからです。
『台湾デジタル大臣「唐鳳」を育てた教えと環境』(2020) 執筆:福田恵介
https://scrapbox.io/files/664af34a0361ca001c590e58.png
柄谷は、マルクスが指摘した生産様式によって上部構造の社会システムが決定されるとした図式を、むしろ交換様式によって基礎づけようとした。ここではAudreyが影響を受けた交換様式DのXについて言及する※1。 https://scrapbox.io/files/664af3aac52b62001db5d613.jpg
図1: Modes of exchange
柄谷は交換様式を『他者との関係』と『見返りの有無』の2軸で表現している (図1)。この図式で、四つの象限がそれぞれ交換様式A-Dに対応している。これらを整理する。 交換様式 A = 互酬: 知り合いと見返りの関係になって交換する様式 交換様式 B = 再分配: 知り合いと見返りの関係にならずに交換する様式 交換様式 C = 商品交換: 見知らぬ人と見返りの関係になって交換する様式 交換様式 D = X: 見知らぬ人と見返りの関係にならずに交換する様式 柄谷は、それぞれの交換様式が、場所、世界システム、理念とそれぞれ対応していると指摘した。
例えば場所の場合、交換様式A 互酬は、共同体の基盤になる。交換様式 B = 再分配は国家、交換様式 C 商品交換 = 市場、交換様式 Dの場合は名前がつけられておらず便宜的にXとして置かれている。このように柄谷は、『見知らぬ人と見返りの関係にならずに交換する様式』がな。一方で、宗教的な理由等で成立したアジールなど歴史的には存在したと指摘している。
Audrey TangはEthereumが実現するエコシステムと交換様式Dを重ねている。RadicalxChangeという単語のxには交換様式Dに対応するXが含まれており、RadicalxChangeとは、根本的な交換様式(RadicalxChange=根本的な変化、根本的な交換様式)を目指すことが企図されており、その思想の根源に柄谷からの影響が伺える※2。
※1 記事の中では、交換様式Xとなっているが、交換様式はA、B、C、Dで定義されるので交換様式Dが正しいと思われる。
※2 柄谷自身は、そもそも交換様式Dを自然的な交換様式Aの高次元による回復として説明しており、社会による自発的な結果として生まれると予言している。その意味で、AudreyらがRxCで交換様式を設計するような動きは、元々の発想とは異なることは指摘しておく必要がある。