プロ野球名球会への入会資格の変遷から見る、客観的の基準で人を振り分けることの難しさ
Wikipediaの記述と、このページの記述を合わせるために、2020年9月11日時点でのバージョンに固定している。
プロ野球名球会とは何か
超簡単に言うと日本のプロ野球 (NPB: Nippon Professional Baseball) 界で超すごい成績を残した人が入れる会
「殿堂入りのようなもの」という説明もできるが、名球会とは別に野球殿堂もあるので、この説明は混乱を招く 「超すごい成績」の基準は、時代とともに変わっていき、それとともに名球会入りの入会資格も変わってきた
ただ、入会の基準を変更することで、同時に「歪み」も生んでしまった。
それを見て、客観的の基準で人を振り分けることの難しさを実感したので、それに関する話。
プロ野球名球会への入会資格の変遷
名球会が発足した当時(1978年)の入会基準がこちら
NPBの選手または元選手
昭和生まれ
NPBで以下のいずれかを達成
通算200勝利以上
通算2000安打以上
この当時は大リーグに移籍する選手はほとんど(全く?)いなかったため、大リーグのことが考慮されていない。そのため、日本で1278安打、大リーグで3089安打のイチローが名球会に入れない。これは明らかに直感に反する。 その後、投手の分業化や大リーグ移籍選手の増加に伴い、2003年に以下のように変更された。
昭和生まれ以降
通算250セーブ以上
記録は日米通算(NPBとMLBの成績を合算)
ところが、合算にしたことで「歪み」が生じる。当初「日本ですごい成績を残した人」を意図していたが、大リーグで2000安打を達成してからNPBに移籍した外国人選手などに入会資格を与えることになった。
この基準を満たした外国人選手は10人いたらしいが、なんだかんだで名球会には入れなかった、らしい。
その後、この歪みを解消するために、「日米通算(ただしNPBでの記録をスタート地点とする。)」という基準に変更された
ところが、この基準でも「歪み」が生じた。
日本でキャリアをスタートして2安打、"その後"大リーグに移籍して1998安打で合計2000安打となったアルフォンソ・ソリアーノが名球会入りの資格を得た。これは直感的には「日本ですごい成績を残した人」とは言いがたい。
この選手もなんだかんだで名球会には入ってないらしい。
現時点の基準でも、以下のような問題がある
1投手がキャリア途中でスタイルを変えた時の問題
キャリア前半は先発投手として活躍して100勝、キャリア後半は抑え投手として活躍して150セーブ、のようなケースをどう扱うか
一人二役(二刀流)選手をどうするか
投手、打者として以外の活躍をどうするか
走塁、犠打etc
2019年12月の会議で新たな基準変更があり、理事会にて推薦を受けた選手が、会員の4分の3以上の承認を得られれば入会が認められることになった
客観的な基準と主観的な基準で混ぜながら運用
思ったこと
「外れ値」の難しさ
「客観的な基準」と「外れ値」は相性が悪い
例えばプロ野球でも「5年連続で300安打を達成したが、ケガで早期引退」みたいな超すごい選手が出てきたらどうなるかな〜と思う
スマブラ界隈でも「めっちゃ強いけどあんまり大会に出られない人」みたいな人がランキングで過小評価されるケースがままある
一番最初に発表したJPRでは、大会出場回数が極端に少なかったが明らかに強いプレイヤーだったキリハラ選手をHidden Bossという扱いでランキングに載せた。 まぁこの当時は牧歌的だったからこういうのも許されたけど、競技として先鋭化してきた今だったらどうかな〜という感じもあり、難しい
「名球会」のような形であれば特例も許されがちだけど、ランキングのように客観的な数字で並べる世界では特例扱いは難しい
客観的な基準で作るランキングに無理が生じたときには、PGRのように有識者の投票形式のような主観に頼る方式にせざるをえない
日本のランキングもいつかこっちに舵を切らなくちゃいけないのかな、とも思ったり
むずい!!
時間的に普遍な基準を作る難しさ
記録の価値は常に経年変化する。
プロ野球においては、投手の分業化もあるし、そもそも試合数は頻繁に変わるので、時を越えての比較は難しい
スマブラで言えば、例えば、n年前のウメブラトップ8と、直近のウメブラトップ8を同列に扱って良いのか問題 格闘ゲーム等のレーティングも、計算式が変わらなくても参加人数によって全体の分布が変わる
昔のスマメイトレート2000と今のスマメイトレート2000は"違う"けど、何がどう違うかは難しい
参加人数が多ければ多いほどレート2000達成者は多くなる。ただ、参加人数が多いということはそれだけ競争が激しいことを意味するので、達成者が増えるすなわち価値が下がる、というわけでもなさそう
むずい!!
海外の成績をどこまで入れるか問題
大リーグ以外にも野球のリーグは存在するが、カウントするのは大リーグの記録のみ
「大リーグは日本プロ野球より上だからカウントする」「それ以外(韓国、台湾etc)は日本プロ野球より下だからカウントしない」という暗黙の了解がある
もし将来、韓国や台湾のリーグが日本のプロ野球並みか、それ以上にレベルが高いリーグになったらどうなるだろう。それを誰がどうやって判断するのだろう
「日本から見た韓国、台湾の野球界」は「大リーグから見た日本のプロ野球界」とほぼ同じ
イチローは日米通算で世界一の安打数だが、大リーグから見ると日本のプロ野球は「韓国や台湾のようなもの」だから、軽視されがち
JPRでも、海外の成績を入れるか入れないかで迷った まぁ正直に言うと集計が面倒という事情も…
ただ、やっぱりランキングは直感的に見て「強い順」に並んでたほうがいいなと思って2回目以降は入れるようにした
この頃から日本人の海外遠征が増えてきたこともあり、入れざるを得なかった事情も。
ここでも「どの海外大会まで入れるか」という問題がある
アメリカの大会は日本よりレベルが高いので入れるとして、メキシコ、オーストラリア、ヨーロッパはどうする?また、入れるとしてもどう重み付けするかという問題もある
PGRが世界の大会を格付けする基準であるTTS(Tournament Tier System)を公表しているので、日本のランキングでもこれを借りて作っている むずい!!
安易に基準をゆるくすることの難しさ
基準をゆるくするということは、名球会に入りやすくなり、名球会の価値を下げることにもなりかねない
既に名球会入りしている人から見れば、ある意味で「既得権益」を揺るがすことになるとも言える
とは言え、基準を変えないとそれはそれで名球会の価値を下げることにもつながる
例えば、イチローが名球会に入れなかったら名球会の価値は下がる、とは思う。
名球会入りが簡単になると名球会の価値が下がる、と思いきや、イチロークラスの選手を名球会に入れないと逆に名球会の価値が下がってしまうので、適度に緩めないと名球会の価値を維持できない
むずい!!