幼児の足裏メカノレセプターを活性化する履物および運動遊びの検討
宮口 和義
石川県立大学, 生物資源環境学部, 教授
キーワード:足裏 / メカノレセプター / 姿勢 / 幼児 / 草履サンダル
研究実績の概要
保育園での活動中によく転ぶ園児と、そうでない園児の左右反復跳び能力について比較検討した。10保育園に通う年中・年長クラス(4~6歳児)の園児562名(男児274名、女児288名)を対象に左右反復跳び測定を実施した。測定は反復横跳び測定器(竹井機器社製)を用いて、5秒間に行われる両足左右跳びの回数を計測した。また1人ひとりの園での活動の様子について、担当ならびに副担当保育士に調査を依頼した。調査項目は、転倒の有無に加え、運動遊びの様子、バランス能力の有無等であった。年中、年長ともに約3割の園児がよく転ぶと判定された。実際、該当園児は負傷経験を有する。年中児については、よく転ぶ園児とそうでない園児の左右反復跳び能力に有意差は認められなかった。一方、年長児については、よく転ぶ園児(9.3±2.9回)はそうでない園児(10.5±3.0回)に比べ左右反復跳びの回数は有意に少なかった。なお左右反復跳び能力は運動遊び頻度やバランス能力の有無によっても異なることが示唆された。
また、加齢にともない身体機能の低下が予想される中高齢者において鼻緒サンダルの効果を検証した。日常生活において草履履きを実践してもらった被験者の足裏形状および重心位置等を導入前後で比較した。多くの者で、土踏まずの発達、左右バランスの補正、重心位置の前方変移など、幼児と同様の効果を確認できた。
その他として、糖尿病・予備軍発見のために開発された足底感覚測定装置が本研究で活用できないか予備実験を行った。この装置は、利用者が足を乗せると足底を接触子が5ミクロン単位で刺激(非侵襲)し、利用者は刺激を感じた際に付属のボタンを押すシステムとなっている。従来の検査機器と比較して、短時間で簡易に検査でき、草履効果等の検証にも十分活用できることがわかった。
現在までの達成度 (区分)
: おおむね順調に進展している
理由
転倒しやすい保育園児の身体的特性について基本調査を実施した。様々な要因が考えられ、各種の体力測定結果との関連性について検討した。当初は走、跳、投の基礎運動能力と転倒リスクとの関係を期待していたが、思うような関係性は見られなかった。そこで、左右バランスの切り換え能力が要求される左右反復跳びに注目した。その結果、特に年長児において関係性が認められ、その能力は運動遊び(特に群れ遊び)の影響が大きいことが示唆された。今後、保育園児の転倒リスクを評価する上で左右反復跳び能力が有効な指標になるであろう。
これまで足裏メカノレセプターを直接的に評価する測定装置は見当たらなかった。二点弁別閾法や重心動揺等が指標として利用されていたが、思うような測定結果は得られなかった。近年、医療機器(糖尿病患者の早期発見:糖尿病は多くの場合、早期に足に感覚障害が表れる)として開発された足底感覚測定装置の存在を知り得たことは大きい。開発メーカーも健常者を対象とした本研究に関心を示しており、今後も積極的に支援してくれることになっている。
また、多くのメディア(テレビ取材、保護者向けの情報誌etc.)で研究が紹介される機会があり、我々が推奨している鼻緒サンダルを導入する保育園・幼稚園も増えている。そのため、様々な検証を行う上での被験者の確保も比較的容易になっている。
今後の研究の推進方策
これまでの研究成果を踏まえて、まず草履サンダル導入園の園児の①動的バランス能力、②足底感覚、③歩行および走動作について比導入園の園児と比較検証するつもりである。まず、①動的バランス能力についてはディジョッグボード・プラス(酒井医療)のゲーム機能を活用し評価する予定である。またバランス感覚を鍛える運動遊具としてオリジナルで考案した木竹揺らぎ平均台、およびバランスバーを用いた動的バランス評価も検討中である。②高齢者において、また糖尿病患者において足底感覚閾値の上昇やバランス能力の低下が生じることは周知であるが、幼児でそれらの関連性を調べた報告は無い。また、幼児では立位時に全足底が接地していない場合も多く、足底接地の状態もバランス能力に影響を与えていると予測される。よって、足底感覚と足圧分布が幼児の動的バランスに与える影響を明らかにすることは重要と思われる。足底感覚は前述した足底感覚測定装置(飛鳥電気)を用いた評価を考えている。なお、この装置については、大学生を対象に信頼性等も検討する予定である。③歩行および走動作についてはビデオ撮影を実施し、動画解析ソフトを用いて比較検討することを計画している。加えて草履サンダルを利用した運動プログラム(スプリント改善プログラム)を考案し、授業支援で関わっている小学校の体育授業、および民間のスポーツクラブで実際に導入してもらい(交渉済)、前後で足裏感覚(特につま先力、ダッシュ力等)を調べたいと考えている。なお、歩行中の接地時足圧変移についてもフットビュークリニックで検証したいと考えている。
次年度使用額が生じた理由
これまで足底感覚を手軽に客観的に、また非侵襲で安全性が高く測定できるものが無かったが、足底感覚測定装置(飛鳥電気)が医療機器として新たに開発されたので購入を計画した。また、当初は筋電図を用いた分析を予定していたが、予備実験によって思うような結果が得られなかった。そこで、動作分析を中心に進めることになり、動画解析ソフトを購入することとなった。
次年度使用額の使用計画
転倒しやすい園児が足底感覚が劣っているのか、また裸足教育を実践している保育園の園児の足裏感覚が優れているのか、さらに草履サンダル等の着用によって改善が認められるのか、幼児のみならず高齢者についても検証していく。また、履物等による歩行および走行フォームの違いについて動画分析を予定している。