児童を対象とした裸足による疾走指導の効果
児童を対象とした裸足による疾走指導の効果.
体育学研究. 2021;66:703–14.
doi: 10.5432/jjpehss.20156
Abstract:
Introduction: The purpose of this study was to investigate the effects of a 4-week barefoot sprint training program on sprint biomechanics and stretch-shortening cycle jump ability. Methods: Fourteen children with no experience in barefoot sprinting were randomly assigned to 1 of 2 groups: a barefoot training group (3 boys and 4 girls; age, 11.0 ± 0.8 years-old; height, 143.1 ± 8.4 cm; body mass, 35.4 ± 5.6 kg; shoe mass, 0.17 ± 0.02 kg) and a control group (3 boys and 4 girls; age, 11.0 ± 0.8 years-old; height, 142.6 ± 8.2 cm; body mass, 34.4 ± 6.4 kg; shoe mass, 0.18 ± 0.01 kg). The 4-week intervention consisted 40 minutes of sprint training per weekly session using the allocated footwear. Before and after the intervention, 2-dimensional biomechanical analysis of the 50m maximal sprint under both shod and barefoot conditions, and the counter-movement jump and 5 repeated rebound jumping tests were performed by both groups. Pre-to post-test changes in spatio-temporal parameters and sprint kinematics, and jump heights for both jump types, and the contact time and rebound jump index for the rebound jump, were analysed using 2-way mixed ANOVA. Results and Discussion: After the 4-week intervention, a higher step frequency (p <0.01), a longer step length (p <0.05), and a higher sprint velocity (p <0.01) were observed in the barefoot training group, although no change was observed in the foot strike patterns and the swing leg velocity. The barefoot training group showed a higher rebound jump index (p <0.05) and a shorter contact time (p <0.01), while no differences were evident in the counter-movement jump height. These results suggest that 4-week barefoot sprint training seems to be an effective strategy for improving certain aspects of sprint biomechanics and for development of fast stretch-shortening cycle ability in children.
はじめに 本研究の目的は,4週間の裸足でのスプリントトレーニングプログラムが,スプリントバイオメカニクスと伸張短縮サイクルジャンプ能力に及ぼす影響を調査することである。 方法は以下の通り。裸足でのスプリント経験のない子ども14名を,2つのグループのうち1つに無作為に割り付けた:裸足トレーニンググループ(男子3名,女子4名,年齢11.0±0.8歳,身長143.1±8. 4cm、体重35.4±5.6kg、靴の質量0.17±0.02kg)と、対照群(男子3名、女子4名、年齢11.0±0.8歳、身長142.6±8.2cm、体重34.4±6.4kg、靴の質量0.18±0.01kg)の2群に無作為に振り分けられました。4週間の介入では,割り当てられたシューズを用いて,週1回40分のスプリントトレーニングを行った。介入前と介入後に,靴を履いた状態と裸足の状態での50m最大スプリントの2次元バイオメカニクス分析と,カウンタームーブメントジャンプと5回の反復リバウンドジャンプテストを両グループで実施した。テスト前後の時空間パラメータとスプリント運動学の変化、および両ジャンプタイプのジャンプ高、リバウンドジャンプのコンタクトタイムとリバウンドジャンプインデックスの変化を、2ウェイ混合ANOVAを用いて分析した。 結果と考察 4週間の介入後,裸足トレーニング群では,足の踏み込みパターンと遊脚速度には変化が見られなかったが,ステップ頻度が高く(p<0.01),ステップ長が長く(p<0.05),スプリント速度が高く(p<0.01)なっていた。裸足トレーニング群では,反発跳躍指数が高く(p<0.05),接触時間が短い(p<0.01)ことが認められたが,反発跳躍高さには差が認められなかった。これらの結果から、4週間の裸足によるスプリントトレーニングは、子どものスプリントバイオメカニクスの特定の側面を改善し、速い伸張-短縮サイクル能力を開発するための有効な戦略であると考えられる。
www.DeepL.com/Translator(無料版)で翻訳しました。
Key words :
I 緒 言
走運動は,人間の基礎的・基本的な運動である が(宮丸,2001;尾縣,2011),達成水準を問わ なければ誰にでもできる運動であるが故に,技能 を高める指導が軽視されてきたと報告されている(加藤ほか,2000;宮﨑・尾縣,2009).小学校体 育における走運動は,小学校学習指導要領体育編 の陸上競技系の領域に取り上げられ,低学年と中 学年では「走・跳の運動遊び」,「走・跳の運動」 として「かけっこ」と表記されており,高学年か らは「陸上運動」として「短距離走」と表記され ている(文部科学省,2017).それらの学習指導 に関して,低学年と中学年では「動き自体の面白 さや心地よさを引き出す」「楽しい活動の仕方や 場を工夫する」ことが大切だと記載されており, 高学年では「合理的な運動の行い方を大切にす る」「自己の能力に適した課題をもち,適切な運 動の行い方を知り,記録を高める」ことに重きが 置かれている(文部科学省,2017).つまり,小 学校における短距離走の授業では,ただ走り方を 教えるだけでなく,児童が教材に親しみを持ちな がら,楽しく授業を展開していくなかで,合理的 な疾走動作を習得できるような指導をする必要が ある.
これまでに児童の疾走動作を対象とした研究は 多く行われてきた(加藤ほか,2001;加藤ほか, 1999;宮丸,2001).例えば,加藤ほか(2001)は, 疾走能力の高い児童は,疾走能力の低い児童と比 較して,支持脚の後方スウィング速度が高いこと や,支持脚の下腿部がより前傾している特徴を有 していると報告している.また,これらの疾走動 作の習得には,脚筋パワーなどの体力的要素が大 きく関係していることが報告されている(加藤ほ か,1999).そのようななか,いくつかの先行研 究では,児童期に習得すべき合理的な疾走動作と して,前足部あるいは中足部での接地(Miyamoto et al., 2018;鈴木ほか,2016),そして遊脚の後方 から前方への素早いスウィング動作(木越・関, 2019;関ほか,2016)が挙げられている.そして
これらの合理的な疾走動作を習得するためのアプ ローチとして,近年,シューズの有無による疾走 動作の変化が児童を対象とした疾走指導に活用 できる可能性が示されている(水島ほか,2016; Mizushima et al., 2021; Mizushima et al., 2018). Mizushima et al.(2018)は,普段シューズを着用 している児童 94 名の最大疾走局面における疾走 動作を対象とし,シューズ条件と裸足条件との比 較をしたところ,児童はシューズを脱ぎ裸足で走 ることで,接地様式が前足部あるいは中足部接地 の割合が高くなり,遊脚の前方スウィング速度が 高くなることを報告している.それらの疾走動作 の変化の背景には,着地衝撃による生体への負担 を軽減する運動制御系の適応やシューズの質量の 増減による遊脚のスウィング動作への影響が関連 していると考えられている.このことは,疾走指 導を裸足で行うことにより,児童が前足部あるい は中足部接地の習得および遊脚の後方から前方へ の素早いスウィング動作を習得しやすくなる可能 性を示唆している.また,前足部あるいは中足 部接地になりやすい裸足での疾走において,特 に足関節底屈筋群の伸張―短縮サイクル(stretch- shortening cycle,以下「SSC」と略す)運動(Komi and Buskirk, 1972)が強調されるため,疾走能力 に影響を及ぼすとされる SSC 運動の遂行能力(岩 竹ほか,2002)に対するトレーニング効果も期待 できる.しかし,先行研究では,シューズの有無 による児童の疾走動作の変化を横断的に分析し ており(水島ほか,2016;Mizushima et al., 2021; Mizushima et al., 2018),実際に児童を対象とした 疾走指導を裸足で行い,その効果について検討し た研究は見当たらない.
一方で,疾走指導をする立場である小学校教員 を対象に行った研究によると,「走り方の指導を どの程度しているか」という問いに対して「特に していない」という回答や「年間 3 コマ以下」と いう回答が約 9 割を占めたと報告されている(青 戸,2012).その理由として,指導方法がわから なく,指導によって児童が速くなっている実感が ないこと,陸上についての専門書や指導書には, 専門用語が多用されており,理解が困難であることなどが指摘されている.このような現場の課題 に対して,裸足による疾走指導は,シューズを脱 ぐだけで特別な機器を用意する必要がないことか ら,簡便に児童の合理的な疾走動作を引き出すこ とのできる疾走指導方法になり得ると考えられ る.
そこで本研究では,児童を対象とした裸足によ る疾走指導が,疾走能力および SSC 運動の遂行 能力に及ぼす効果について,対象者の内省を踏ま えながら検討することを目的とした.
II 方 法
1. 対象者
対象者は,スポーツクラブに所属し,毎週土曜 日に,走,跳,投の基本的な運動を行っている小 学校 5–6 年生 14 名とし,ランダムに裸足トレー ニング群 7 名(barefoot training 群,以下「BT 群」 と略す)(男子 3 名・女子 4 名,年齢 11.0 ± 0.8 歳, 身長 143.1 ± 8.4 cm,体重 35.4 ± 5.6 kg,シューズ 質量 0.17 ± 0.02 kg),コントロール群 7 名(control 群,以下「CT 群」と略す)(男子 3 名・女子 4 名, 年齢 11.0 ± 0.8 歳,身長 142.6 ± 8.2 cm,体重 34.4 ± 6.4 kg,シューズ質量 0.18 ± 0.01 kg)に分類し た.年齢,身長,体重,シューズ質量について, 群間に有意な差は認められなかった.対象者およ び保護者には本実験の主旨,内容ならびに安全性 についてあらかじめ説明をし,参加の同意を得 た.なお,本研究は筑波大学体育系研究倫理委員会の承認を得て実施された.
2. 指導内容
先行研究(水島ほか,2016;Mizushima et al., 2021; Mizushima et al., 2018)を参考に,指導内容 を考案した(表 1).本指導における児童が目指 す合理的な疾走動作は,前足部あるいは中足部で の 接 地(Miyamoto et al., 2018; 鈴 木 ほ か,2016) および遊脚の後方から前方への素早いスウィング 動作(木越・関,2019;関ほか,2016)とした. 対象者への指導は,全天候型直走路において 40 分間のプログラムを週 1 回の頻度で 4 週間(計 4 回)継続した.本研究では,1 回目および 2 回目 の指導において前足部あるいは中足部での接地, 3 回目および 4 回目の指導において遊脚の後方か ら前方への素早いスウィング動作の習得を目的と した.30 m 全力疾走の最終セットを除き,全て のトレーニングは,BT 群が裸足で CT 群がシュ ーズ着用で実施するものとした.Rothschild(2012)は,裸足での運動に取り組み始める際には,関節の運動範囲の拡大や伸張性 筋活動の増加による外傷あるいは障害のリスクを 最小限に抑えるために,運動負荷の低い運動から 徐々に取り組み始める必要があると述べている. 本研究においても障害予防のため,指導の開始時 に 50 m「歩行」を 1 セットと 50 m「ジョギング」 を 2 セット取り入れた.続いて「接地意識歩行」 では,片方の足の接地を前足部あるいは中足部で 接地することを意識して 50 m 歩き,脚を入れ替えさらに 50 m 歩かせた.また「遊脚意識歩行」は, 片脚の遊脚を後方から前方へ素早く回復すること を意識して 50 m 歩き,脚を入れ替えさらに 50 m 歩かせた.さらに「もも上げ」では,その場で 10 歩分走る運動を 3 セット行わせた.
また,児童の裸足での疾走能力と SSC 運動の 遂行能力を高める要因について,前足部あるいは 中足部での接地時の足関節底屈筋群の機能発揮に 関連した共通性があると報告されている(水島ほ か,2016;Mizushima et al., 2021).本研究では, 児童に前足部での接地での SSC 運動に慣れさせ るために,両脚および片脚でのジャンプ運動を取 り入れた.「両脚ジャンプ」では,両腕をタイミ ングよく振りながら,短い接地時間で上方へ 5 回 踏み切る運動を 3 セット行わせた.続いて「片脚 ジャンプ」では,前方へ 5 回踏み切り,続いて反 対脚で 5 回踏み切る運動を 1 セット行わせた.
その後,30m 全力疾走を計 3 セット行った. Mizushima et al.(2021)によると,普段裸足で走 っている児童でも,シューズを着用して走ること で接地様式が踵接地の割合が高くなることが明ら かとなっている.このことは,ただ裸足で走るだ けでは,裸足での疾走動作がシューズ着用時には 定着しない可能性を示唆している.そこで,BT 群の児童が裸足で走っているときの疾走動作をシ ューズ着用時にも再現できるようにするために, 計 3 セットの 30 m 全力疾走のうち,最終セット にはシューズを着用して走らせた.
https://gyazo.com/2cc43b140806c7450b596e2dcf655e71
3. 指導者の関与
本研究における指導は,対象者が通うスポーツ クラブの陸上競技指導者 1 名が主に行い,必要に 応じて他 の指導者 2 名がサポートをした.指導者の言葉かけは,上述の指導内容に関する説明のみとした.
4. 測定項目および分析方法
4 週間の疾走指導前(以下「Pre」と略す)お よび指導後(以下「Post」と略す)に疾走能力お よび SSC 運動の遂行能力を評価する項目につい て測定を実施した.また毎回の指導において,児童のトレーニングに関する内省調査を実施した.
4.1 疾走能力
対象者には,全天候型直走路において,普段か ら着用しているシューズでスタンディングスタ ートの姿勢からの 50 m 全力疾走を行わせた.疾 走動作は,スタートから 25 m 地点の左側方 20 m に設置したハイスピードカメラ(Panasonic 社 製,LUMIX FZ200,露出時間 1/1000 s)を用いて 240 fps で撮影した.撮影範囲は 25 m 地点を中心 に前後 3 m とした.本研究では,撮影された動画 から,左足接地瞬間から再びその足が接地するま での 1 サイクル(2 歩)を分析対象とし,身体分 析点上肢 8 点(左右の第三中手指関節中心,手関 節中心,肘関節中心,肩関節中心),下肢 12 点(左 右のつま先,第三中足指節関節中心,踵点,足関 節中心,膝関節中心,股関節中心),頭部および 体幹部3点(頭頂,左右耳珠点を結ぶ線分の中点, 胸骨上縁)の計 23 点および較正マーク 4 点を動 画解析システム(DKH 社製,Frame-DIAS IV)を 用いて 120 Hz でデジタイズした.デジタイズに よって得られた 2 次元座標を 4 点の較正マークを もとに実長換算し,4 次のバターワース型低域通 過フィルタによって平滑化した.このときの最適 遮断周波数は Wells and Winter(1980)の方法に より決定した(5.0―10.0 Hz).
平滑化したデータから,身体を左右の手部,前 腕,上腕,足部,下腿および大腿,そして体幹お よび頭部の 14 部分からなるリンクセグメントモ デルを構成した.平滑化した 2 次元座標から横井 ほか(1986)の身体部分慣性係数を用いて,部分 および全身の重心位置,部分の慣性モーメントを 算出した.また,全身および部分の重心位置を数 値微分することで,それぞれの重心の速度を算出 した.遊脚重心は,遊脚の大腿,下腿,足の合成 重心とした.遊脚の前方スウィング速度は,遊脚 重心の水平速度から身体重心の水平速度を減じて 求めた(関ほか,2016).
ストライドは,1 歩における身体重心の水平移 動距離,ピッチは 1 歩に要した時間の逆数とし, 両者の積を疾走速度として算出した.地面に左右いずれかの足部が接触している局面を支持期,身 体のどの部分も地面に接触していない局面を滞空 期とした.また,支持期に要した時間を接地時間, 滞空期に要した時間を滞空時間とした.いずれも 分析を行った 1 サイクルの平均値とした.
また,接地様式を判別するために,スタートか ら 25 m 地点に 3 台のハイスピードカメラ(CASIO 社製,EX-F1,露出時間 1/1000 s)を設置し,3 方向から接地時の足部を 300 fps で撮影した. 接地様式に関して,先行研究(Mizushima et al., 2021)を参考にして,踵が最初に接地する踵接地(rear-foot strike,以下「RFS」と略す),踵と母指 球が同時に接地する中足部接地(mid-foot strike, 以下「MFS」と略す)および踵より先に母指球で 接地する前足部接地(fore-foot strike,以下「FFS」 と略す)の 3 つに分類を行った.
4.2 SSC 運動の遂行能力
対象者には,腕の振込み動作の影響を排除す るため,手を腰に当てた状態で反動付き垂直跳 び(counter movement jump, 以 下「CMJ」 と 略 す)および連続 5 回リバウンドジャンプ(five repeated-rebound jumping,以下「RJ」と略す)を 行わせた.試技の前には,本研究の実験試技に精 通した陸上競技選手によるデモンストレーション を見せながら練習させた.
本研究では,マットスイッチ(DKH 社製,マ ルチジャンプテスタ)を用いて CMJ の滞空時間 を測定し,以下の式により跳躍高を算出した. また,RJ についても滞空時間から跳躍高を求め, 接地時間で除すことによってリバウンドジャンプ 指数(rebound jump index,以下「RJ-index」と略す) を算出した(図子ほか,1993).
CMJ は試技を 2 回行わせ,跳躍高が高いもの を分析対象とした.また,RJ は試技を 1 回のみ 行わせ,最も RJ-index が高い跳躍を分析対象と した.
跳躍高 =(9.81・滞空時間 2)8 - 1, 9.81 は重力加速度(m/s2)
4.3 児童のトレーニングに関する内省
本研究では,毎回の指導において,フィードバ ックシートを活用した児童の内省を促す時間を設 けた.BT 群に対しては,計 3 セットの 30 m 全力 疾走の 2 セット目終了後に,裸足で走る際の接地 部位や裸足で取り組むことに対する気持ちについ て振り返らせた.また,最終セット終了後には, シューズを着用して走る際の接地部位と,裸足で のトレーニングを通じて学んだことや感じたこと について振り返らせた.CT 群に対しては,30 m 全力疾走の最終セット終了後に,トレーニングを 通じて学んだことや感じたことについて振り返ら せた.BT 群と CT 群のトレーニングを通じた学 びと感想に関する自由記述については,記述内容 を整理統合した.これらのデータの信頼性は,記 述内容が作為的に変更されていないかについて, 本研究に関わっていない体育科教育の研究者 2 名 が確認をした.また BT 群に配布したフィードバ ックシート(図 1)では,裸足でのトレーニング に取り組むことに対する気持ちを「楽しい」「痛 い」「気持ちいい」の 3 項目に分類し,それぞれ5 段階で回答させた.
https://gyazo.com/84cd7b243b42f765e6a9d1ee3d65ecb3
5. 統計処理
値は全て平均値±標準偏差で示した.すべて の統計処理には IBM SPSS Statistics 22.0 を使用し た.身体的特性について,独立したサンプルの t 検定を行った.また,両群の Pre–Post 間におけ る疾走能力および SSC 運動の遂行能力の変化に ついて検討するために,二元配置分散分析(群: BT 群・CT 群× Pre–Post)を用いた.なお,交互 作用が有意であった場合は各要因間の単純主効果 検定および Bonferroni 法で多重比較検定を行い, 交互作用が有意でなかった場合には,その後主効 果検定および多重比較についても Bonferroni 法を 用いて検討した.接地様式に関して,両群の Pre– Post 間における接地様式の変化について検討する ために,McNemar 検定を用いた.その際,接地 様式を RFS とそれ以外(FFS および MFS)の 2 つに分類して計算を行った.なお,いずれも有意 性は危険率 5% で判定した.
III 結 果
1. BT 群と CT 群の疾走能力
表 2 には,疾走能力に関する項目の二元配置 分散分析(群× Pre–Post)の結果を示した.疾 走能力に関する項目では,疾走速度(F(1,12)= 7.065,p < 0.05), ス ト ラ イ ド(F(1,12)= 7.687, p < 0.05)および滞空時間(F(1,12)= 6.222,p < 0.05)において,有意な交互作用が認められたた め,各要因の単純主効果検定および多重比較を行 った.疾走速度は,BT 群において,Pre と比較 して Post で有意に高かった(p < 0.01).ストラ イドは,BT 群において,Pre と比較して Post で 有意に高かった(p < 0.05).Pre–Post 間の主効果 について,各群のピッチ(F(1,12)= 13.480,p < 0.01) お よ び 接 地 時 間(F(1,12)= 19.951,p < 0.01)は,群間に関わらず,Pre と比較して Post で有意に高かった.また,遊脚の最大前方スウィ ング速度において,有意な交互作用は認められな かった.
https://gyazo.com/f47cf867236f7eb83d4a62136c4d213a
2. BT 群と CT 群の接地様式
表 3 には,接地様式に関する項目の McNemar 検定の結果を示した.BT 群の接地様式は,Pre では全体(7 名)のうち RFS の児童が 6 名,MFS の児童が 1 名,FFS の児童が 0 名であったのに 対して,Post では全体のうち RFS の児童が 1 名, MFS の児童 3 名が,FFS の児童が 3 名であり, Pre–Post 間で有意な差は認められなかった.CT 群の接地様式は,シューズ条件では全体(7 名) のうち RFS の児童が 6 名,MFS の児童が 1 名, FFS の児童が 0 名であったのに対して,Post では 全体のうち RFS の児童が 2 名,MFS の児童が 2 名, FFS の児童が 3 名であり,Pre–Post 間で有意な差 は認められなかった.
3.BT 群と CT 群の SSC 運動の遂行能力
表 4 には,SSC 運動の遂行能力に関する項目の二元配置分散分析(群× Pre–Post)の結果を示し た.SSC 運動の遂行能力に関する項目では,RJ- index(F(1,12)= 6.568,p < 0.05)および RJ 接地 時 間(F(1,12)= 5.662,p < 0.05) に お い て, 有 意な交互作用が認められたため,各要因の単純主 効果検定および多重比較を行った.RJ-index は, BT 群において,Pre と比較して Post で有意に高 かった(p < 0.01).RJ 接地時間は,BT 群におい て,Pre と比較して Post で有意に短かった(p < 0.01).RJ 跳躍高および CMJ 跳躍高において,有 意な交互作用は認められなかった.
https://gyazo.com/8401445cf0d9e7901efd6b6bd5527d8c
4. BT 群と CT 群のトレーニングに関する内省
図 2 には,BT 群の裸足でのトレーニングに取 り組むことに対する気持ちに関する項目の結果を 示した.また表 5 には,BT 群と CT 群のトレー ニングを通じた学びと感想に関する自由記述を示した.
https://gyazo.com/83a37450bbb9f8251f7231d3b61151d0
https://gyazo.com/14eca54df37d9ecf161af6bc29bd8f11
IV 考 察
本研究は,児童を対象とした 4 週間の裸足によ る疾走指導の効果を検討することを目的とした. その結果,Pre–Post 間において,BT 群のピッチ が有意に高まり,ストライドが有意に増大したこ とにより,疾走速度が有意に増加したことが明ら かとなった.また,BT 群内の Pre–Post 間におい て,疾走中の滞空時間に有意差は認められなかっ たが,接地時間が有意に短縮した.ピッチは,1 歩に要した時間の逆数と定義され,接地時間およ び滞空時間の長さによって決定される(Hunter et al., 2004).このことから,BT 群のピッチが向上 したことは,接地時間が短縮したことによるもの であったと考えられる.
1. 接地様式について
Hasegawa et al.(2007) は,FFS あ る い は MFS の接地時間が RFS と比較して短いことを明ら かにしている.その理由として,FFS あるいは MFS は RFS と比較して,踵が接地してから母指 球が接地するまでの時間だけ接地時間が短くなる ことや,支持期前半における膝関節屈曲動作時間 が短くなることを指摘している.また,シューズ 着用の有無が児童の疾走運動に及ぼす即時的な影 響について検討を行った研究(Latorre-Román et al., 2017; Mizushima et al., 2018) に よ る と, 普 段 シューズを着用して走っている児童は,シューズ を脱ぎ裸足で走ることによって RFS から FFS あ るいは MFS へと変化することが明らかになって いる.さらに,BT 群のフィードバックシート中 の自由記述において,例えば指導 1 回目における 対象者 B,C および F の記述をみてみると,裸足 で走る際には FFS であることを自身で振り返っ ていることが分かる.これらのことから,本研究 の裸足による疾走指導中において,BT 群の接地 様式は FFS あるいは MFS であったことが推察さ れる.一方で,CT 群のフィードバックシート中 の自由記述においても,全ての対象者が指導 1 回目あるいは 2 回目に FFS であったことを振り返 っている様子が確認できることから,この接地様 式の変化が裸足での疾走指導によるものであった とは考え難い.
他方,Mizushima et al.(2021)は,普段から裸 足で走っている児童がシューズを着用して走った 際には,FFS あるいは MFS から RFS へと変化す ると報告しており,ただ裸足で走るだけでは,シ ューズ着用時には FFS あるいは MFS が定着しな い可能性を示唆している.このことを踏まえ,本 研究では BT 群に裸足で走らせるだけに留まら ず,指導内容に前足部あるいは中足部接地をする 意識をさせるような運動を取り入れ,そして毎回 の指導において,図 1 に示したフィードバックシ ートを用いて児童に接地部位を認知させ,裸足で 走っているときの接地部位を再現するように意識 させた.しかしながら,本研究の結果において, 両群ともに Pre–Post 間で接地様式に有意な差は 認められなかった.したがって,児童が FFS あ るいは MFS を習得するためには,トレーニング 期間や指導者の言葉かけを含め指導内容のさらな る検討が必要であると考えられる.
2. 遊脚の動作について
遊脚の動作に関して,BT 群内の Pre–Post 間に おいて遊脚の前方スウィング速度に有意な差が認 められなかった(表 2).Mizushima et al(. 2018)は, 児童がシューズを脱ぎ裸足で走ると,シューズの 質量分の物理的な負荷が減ることにより,遊脚の スウィング速度が高まったと報告している.本研 究において,対象者の足部の平均質量は,横井ほ か(1986)の身体部分慣性係数をもとに推定する と約 0.56 kg であり,それに対してシューズの質 量は平均約 0.18 kg であった.本研究でも,通常 では達成が困難となる超最大速度(Supramaximal speed)レベルでの運動遂行を実現することによ り,そこでの速いスピード感やリズム,タイミン グを身に付けるための神経系のトレーニング法と して用いられる負荷軽減法(森本ほか,2003)の 効果が適用されることで,遊脚の前方スウィング 速度が増加することが期待された.実際,BT 群のフィードバックシート中にシューズの質量の減 少を好意的に感じる記述が多くみられ,裸足で走 っている際には遊脚のスウィング速度が高まって いる感覚を得ていたと推察される.しかしなが ら,本研究の結果より,裸足による疾走指導にお いて負荷軽減法としての効果は発現しないことが 明らかとなった.BT 群が遊脚の前方スウィング 速度を高めることができなかった要因として,遊 脚の動作は接地様式と異なり,児童にとって裸足 で走っているときの動作が,シューズ着用時にも 再現されているか否かのフィードバックを得るこ とが困難であったと考えられる.また,負荷軽減 法における適正負荷の条件は,基本的な動作パタ ーンを損なわないこととされている(森本ほか, 2003).このことを踏まえると,裸足で走ってい るときとシューズ着用時の遊脚の動作が大きく異 なる(Mizushima et al., 2018)ために負荷軽減法 の効果が発現しなかった可能性もある.これらの ことから遊脚の後方から前方への素早いスウィン グ動作を習得するためには,本研究で提案された 裸足による疾走指導とは異なるアプローチが必要 であるだろう.
3. SSC 運動の遂行能力について
疾走能力に影響を及ぼすとされる SSC 運動の 遂行能力(岩竹ほか,2002)の変化に着目する と,Pre–Post 間で,BT 群の RJ 接地時間が有意に 短縮し,RJ-index が有意に向上した.一方,CMJ 跳躍高には有意な差は認められなかった.これら の結果は,普段裸足で走っている裸足教育校の児 童 101 名と対照校の児童 93 名を対象としたケー スコントロール研究(Mizushima et al., 2021)と 同様の傾向を示すものであった.つまり,BT 群 は FFS や MFS になりやすい裸足でのトレーニン グにおいて,足関節底屈筋群に対して短時間で高 い伸張性の負荷がかかることにより,短時間の SSC 運動におけるパワー発揮能力を高めていたと 考えられる.また,この変化の特徴は疾走能力に もみられ,Pre–Post 間において,両群ともに接地 時間が有意に短縮し,ピッチが有意に向上しなが らも,BT 群のみさらにストライドが有意に増大した.すなわち,BT 群はストライドを増大させ るだけの力積を獲得するために,短い接地時間で 大きな力を地面に伝達していたと捉えることがで きる.これらの結果から,児童を対象とした裸足 による疾走指導は,短時間に大きなパワーを発揮 する能力を選択的に発達させることに対しても有 効である可能性があると考えられる.
4. 裸足による疾走指導を小学校体育における疾 走指導現場へ導入するための提言
本研究において,BT 群の裸足でのトレーニン グに取り組むことに対して感じた気持ちに着目す ると,全体を通じて「楽しい」,「気持ちいい」と いう肯定的に感じていたことが明らかとなった. このように,BT 群が裸足でのトレーニングへの 取り組みに対して肯定的であったことは,児童の
「裸足教育」に対する意識調査を行った先行研究 (青柳ほか,1999;野田,1983)の結果を支持す るものであった.本研究の場合,対象者は普段シ ューズを着用していたことから,裸足で走ること により感覚受容器の分布が豊富とされている足底 の皮膚に対して地面からの刺激が強すぎて,児童 にとって侵害刺激となる可能性も懸念された.し かしながら,BT 群における「痛い」という否定的な気持ちも全体を通じて低値で推移しており, 初回から最終回にかけて徐々に低下していた.これらの結果から,児童は裸足でのトレーニングに 対して親しみを持ちながら,楽しく取り組むこと が可能と確認された.他方,「裸足教育」に関す る研究(寺田ほか,1985)によると,児童が裸足 で身体活動を行う前の,校庭の石拾いや遊具等の 整備(安全点検等)などの環境整備や保健衛生上 の習慣形成は,児童が健康・安全な生活を送るた めに重要かつ不可欠な管理・指導内容であると指摘されている.このことは極めて重要であり,学校のグラウンド等において裸足による疾走指導を する際には,十分に安全確保した上で実施して欲しい.
V まとめ
本研究は,小学 5–6 年生を対象に裸足トレーニ ング群とコントロール群に分けて,前足部あるい は中足部での接地指導 2 回,遊脚の素早い前方ス ウィング動作指導 2 回,の計 4 回におよぶ疾走指 導の効果を明らかにすることを目的とした.疾走 指導の効果は,介入前後における疾走能力(50 m 全力疾走)と SSC 運動の遂行能力(反動付き垂 直跳びおよび連続 5 回リバウンドジャンプ)の評 価,指導毎に実施した児童の内省調査の結果によ り検討した.
その結果,裸足トレーニング群の疾走能力は, ストライドが増大し,ピッチが高まったことによ り向上し,SSC 運動の遂行能力においては,より 短時間・高負荷型である連続 5 回リバウンドジャ ンプにおける接地時間の短縮とリバウンドジャン プ指数の向上が認められた.これらの変化は,コントロール群と比較して顕著であった.一方で, 接地様式および遊脚の前方スウィング速度は,両 群ともに変化が認められなかった.また児童の内 省に着目すると,両群ともに上述の疾走指導の内 容について理解できて走りやすくなったという記 述が確認された.さらに裸足トレーニング群は, シューズ着用時と裸足時の動きを比較しながら, 自らの動きについて振り返っていたことが明らか となった.
以上のことから,裸足による疾走指導は,短時間・高負荷型の SSC 運動の遂行能力を高めなが ら疾走能力を向上させる上で有効であると考えら れた.