2021年12月18日(土)〜19日(日)宮城県栗原市・仙台市視察
参加した研究会メンバー(敬称略・50音順):
一ノ瀬友博(慶應大)、井本郁子(慶應大・GCN)、新保奈穂美(兵庫県立大)、竹内智子(千葉大)、花房昌哉(慶應大)、三輪隆(竹中工務店)、山田由美(慶應大)
12月18日(土)
栗駒山麓ジオパーク
栗駒山麓ジオパークビジターセンターを訪問し、佐藤英和さん(栗原市・ジオパーク推進係長)に解説していただいた。栗駒山麓ジオパークは2015年に日本ジオパークとして認定された。本ジオパークは標高1,626mの栗駒山から標高5mの伊豆沼・内沼まで東西40kmので景観が大きく変化する点が特徴的である。また、平成20年(2008年)に岩手・宮城内陸地震が発生し、大規模な土砂災害が発生するなど、自然災害との共生を考え学ぶ上で、重要な場所でもある。特に、荒砥沢ダム上流部地すべりは日本最大規模の地すべりであり、継続的にモニタリングが行われている。
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ジオパークでの教育プログラムにも力を入れており、県内外の多くの児童が本パークを訪れ、学んでいる。
栗駒山麓ジオパーク認定商品「栗原山麓のめぐみ」がある。ちなみに、昼食には認定商品の一部である「くりこま荘の岩魚丼」を、夕食は「くりはら産 彩り野菜deはっとグラタン」をいただいた。
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上図 くりこま荘の岩魚丼
伊豆沼・内沼センター
宮城県伊豆沼・内沼サンクチュアリセンター(鳥館)を訪問し、嶋田哲郎さん(宮城県伊豆沼・内沼環境保全財団・研究室長)に解説していただいた。伊豆沼・内沼は、国指定の伊豆沼鳥獣保護区となっている。鳥獣保護区は1,455haであり、特別保護地区として907haとして指定されている。マガンを始め、多くの冬鳥が来訪する日本有数の越冬地である。特に、日本を訪れるマガンの8~9割が宮城県北部で越冬を行う。1985年9月に日本で2番目にラムサール条約登録湿地に指定された。その他にも、オオヒシクイ・ガガブタ・カラスガイ・ゼニタナゴ・アサザ・カキツバタ・オオセスジイトトンボなど、絶滅危惧種や天然記念物等の貴重な生き物が生息している。
一方で、水質汚濁や生物多様性の劣化などの課題があり、自然再生推進法に基づく自然再生事業が実施されている。現在は、伊豆沼・内沼自然再生全体構想・実施計画(第2期)に基づき、自然再生が実施されている。伊豆沼・内沼では、①水質汚濁と浅底化の進行、②生物多様性の劣化、③エコトーン(湖岸域)の消失、④地域活性化と沼の利活用という4つの課題を抱えている。それに対して、伊豆沼・内沼自然再生協議会が作られ、全体構想や実施計画を立案・実施している。
ねぐら入り
16時~17時にマガンのねぐら入りを観察することができた。マガンは宮城県の県鳥であり、9月頃になると極東ロシアから越冬のために伊豆沼に向かってくる。この沼をねぐらとして冬を越し、3月頃には再び繁殖地であるロシアに帰っていく。ガン類以外にもハクチョウ類やカモ類がこの沼で越冬するが、数としてはガン類が圧倒的に多い。(種/羽数がカウントされ公表されており視察時は約9万羽 (http://izunuma.org/) ねぐら入りするまでマガンは近隣の農地で田んぼ、麦畑、大豆畑の落穂・種子などを採食している。太陽が沈む時間に併せて家族単位でまとまって沼に戻る。高度を落とす時にヒラヒラと舞うように落下していくする様子が「落雁」と呼ばれるが、その時に家族単位が上げられるトーンの違う鳴き声と合わさって、ここでしか見られない光景を愉しむことができる。
個体数激減後1971年狩猟鳥としての指定を外されて以来個体数は回復の兆しにあるが、湿地帯の減少はなお顕著である。ねぐらの湿地と周囲に広がる農耕地がセットで維持されることが、同種の生息地保護には必要で、そのためには農家の理解も欠かせない。伊豆沼周辺農家はその食害も受けており、農家から提案される形で食害補償条例が制定されて、保護が経済的な枠組みとしてもカバーされているというお話も伺った。
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上図 夕暮れ時の伊豆沼
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上図 落雁 (16時33分)
12月19日(日)
6時~7時 飛び立ち
マガンは早朝に一斉に飛び立ち、餌を食べるために水田へ飛び立つ。観察時間としては日の出30分前からが良く、11月初めは午前5時30分頃、12月初めは午前6時頃、1月初めは6時30分頃が適している。
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上図 マガンの飛び立ち@伊豆沼
そして、午前中から東日本大震災で甚大な津波の被害を受けた仙台湾岸を訪れ、平吹喜彦教授(東北学院大学)に自然再生や保護活動の様子を解説していただいた。仙台湾岸では海岸エコトーンが形成され、何度も攪乱が繰り返されることで、独自の環境が形成されてきた。このエリアでは、南蒲生/砂浜海岸エコトーンモニタリングネットワークが生態学的調査を実施している。国土交通省が防潮堤を、林野庁が海岸林を、宮城県が貞山運河を主管している。
井土浦
・貞山運河
明治5年に仙台藩士らにより、名取川と七北田川を結ぶ貞山運河が完成した。
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上図 貞山運河
砂丘上の半自然再生クロマツ疎林
防潮堤の背後にはクロマツが植林された。背後の木柵はxxx産の間伐材を利用したものである。
林野庁が山から採取した土で盛土を行った上にクロマツを植林したがはじめのころは排水不良などもあり、なかなか育たなかった。近年は(地盤の改良や工夫など?による?)活着して成長した姿が確認できる。
一方で、自然の再生にまかせたところにもクロマツが自然再生をし、良好な生育を示している。
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上図 解説してくださる平吹教授
CSG(Cemented Sand and Gravel)防潮堤+覆砂
CSGとは現地の発生材(この場合は近くの川の砂)にセメントと水を混ぜて作った材料のことで、それを使って防潮堤ができている。ここではその堤防に海浜植生を回復させるために砂を被せ植生の活着(=根付き)を促している。防潮堤は事業を行う業者によって形状が異なることもあり、視察した箇所でもある所を境に異なる見た目が確認できた。面に穴が空いていると、そこがポットのように根が張りやすいようで活着しやすいそう。
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上図 覆砂上での海岸植生
CSG防潮堤について下記文献によると「井戸浦地区における景観や生態系などの貴重な自然環境へ配慮し、用地、堤体材料等の制約条件から・・」(松居他 2017) と記載されていた。
構造安定性に加え、堤体の幅を狭くすることができ改変面積が少ない、工事用道路の敷設のみで対応できるため改変面積が少ないなど、多くの利点がある, とのことでした。
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写真:井戸浦の CSG 防潮堤部分。海岸側の堤体上部は自然に砂が溜まったり、下がったりしている。
閖上(ゆりあげ)/かわまちテラス
閖上地区は漁港で栄えていた町であるが東日本大震災では壊滅的な被害を受けた。その名取川沿いには、かわまちづくりの事例として、「かわまちテラス」という商業施設がある。嵩上げした堤防の上に26の店舗が軒を連ね、復興のシンボル的存在でもある。川にも降りることができ「再び水辺と共に生きていく」という意思が感じられる設計であった。
新浜海岸
・覆砂された防潮堤試験区
「北の里浜 花のかけはしネットワーク(はまひるがおネット)」により防潮堤砂丘化事業が行われた箇所を視察した。この防潮堤は海浜植生が最も生息しやすい場所に築造されており、言わば津波に次ぎ再び生息地喪失がされてしまった状況にある。ここに砂丘化する事業が2018年から始まった。既に活着している場所もあるが、所によっては被せた砂が取れてしまい、再びコンクリートが見えている箇所も存在する。(写真上部)防災と環境を両立させる取組みに今後も継続した調査研究が期待される。
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上図 覆砂された防潮堤試験区
自律的に再生する植生
下の写真は自然に更新した松林である。右下のように津波による倒木が見られるが、残った松もあり、そこから実生(種子から発芽して成長した)の木が震災10年後にこれだけの成長を見せていた。自然の回復力は非常に大きいが、一方で成長や密度に差があり、その不確実性もある。しかし現地でその姿を見ると木の活性度は高く、今後も十分な更新が期待できそうであった。
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上図 クロマツ林の再生状況
荒浜小学校
荒浜小学校は震災遺構であり、津波による被害がそのまま残されている。震災当日は、屋上で避難を行ったそうだ。
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上図 荒浜小学校
新浜後背湿地
・汀沈釜湿地
砂丘の後背地には、僅かな凸凹が繰り返される低湿な場所が広がっている。汀沈釜湿地は被災後に人の手がほとんど入らない希少な土地であり、湿地の拡大や絶滅危惧種の植物の復活が確認されている。運河沿いには、津波に耐えたクロマツ高木が残存している。
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汀沈釜湿地
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若いクロマツ植林地 ここでは現地採取の砂が利用されていた。
八大龍王
また、明治3年(1870年)に、海難防止及び海上安全を祈願するために立てられた、八大龍王碑が現在も残っている。新浜地区には、その他にも多くの石碑が残されており、歴史を学ぶことが出来る。
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上図 八大龍王
集合写真 (撮影時のみマスクを外しています。)
この防潮堤は高さ7.2m、延長29kmで築造されている。写真の後方は実は陸側にセットバックしてある部分がある。そこには海岸植生の繁茂が確認でき、改めてここが海から陸への連続性をもった重要な生物相豊かな空間であることを感じた。
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文・写真:花房昌哉・山田由美