13
翌日。僕は面倒臭さ百パーセントのテンションで学校へと向かった。
昨日帰りに買ったCDをiPodで聞きながらアクビを噛み殺す。五月病はまだ抜けきっていないようだ。
また五月少女が現れて励ましてくれないかなと思ったが、あの巻物をもう持っていない。諦めるしかないか。
ふと見ると、目の前を斎藤が歩いていた。
僕はにやりとして斎藤の肩を叩いた。
「彼女にはしっかり愛の言葉をささやいたほうがいいぞ斎藤」
「は?」
「とぼけるんじゃあない。僕は知っている。お前とあの人が、実は付き合ってることくらいな」
僕があの人の名前を口にすると、斎藤はその場に立ち尽くした。まるで自慰行為を母親に見られた少年のように、わなわなと震え、血の気を引かせていた。
「な、なぜそれを知っている」
「今度から千里眼を持つルサンチマンとでも呼んでくれ」
「ルサンチマン。なぜそれを知っている」
「いや本当にそう呼ぶのはやめてくれ。今のは冗談だ」
「誰にもこのことは教えていなかったのに」
ムンクの叫びのように腰をくねらせ悶える斎藤を、登校中の生徒たちが冷たい目で見ていた。
「ちなみに今倦怠期であることも、僕は知っている」
「だからなぜだ!」
「それは秘密だ。誰にも言えないんだ、すまないな」
「まさかお前に彼女の存在を知られてしまうなんて」
「まぁまぁそう落ち込むな。おっ、そうだ。今日の帰り、カラオケに行かないか?」
「か、からおけ!? お前が?」
「あの娘も一緒に連れていこう。三人でデートだ。あ、行く途中でキャラメルフラペチーノおごってくれよ。これは絶対だからな」
「いや、えっ、ちょ……えーっ」
僕は踵を返して軽やかに学校へと向かった。斎藤が腕にすがりついて詳しい説明を求めてくる。僕は適当にはぐらかした。
今日は昨日と打って変わって晴天である。ガジュマルもきっと五ミリくらい成長していることだろう。
流れだす曲は変わり、彼女が歌う「五月少女」のイントロが、静かに僕の中で鳴り響いていた。
<おわり>