09
放課後になって今まで考えてきたプロットを改めて見なおしてみると、ショートストーリー型私小説というよりは、珍しい人との対話記事のようなものが出来上がりそうな雰囲気である。
肩をつつかれたので振り向くと、五月少女が何か話したそうにしていた。
部室には幸い誰も居なかった。
「小説の方はうまくいきそうですか?」
「これでいいのかどうかわからないけど、プロットは出来上がったよ」
「すばらしい。そんな貴方に五月病克服プログラム第二弾です」
彼女はババンと効果音を発した。えらい張り切っていた。
「え、まだ僕、小説書いてないんですけど」
「それはそれ、これはこれです」
「そ、そうなんだ」
彼女はエセKJ法の落書きが残る部室のホワイトボードにきゅっきゅと文字を書き出していった。僕はその書かれた文面を素直に読み上げた。
「気になるあの娘と修羅場ラ・バンバ」
「そのとおり。ここで一発、貴方には男になってもらおうと思います。素敵なリア充の味を堪能してもらうのです」
「修羅場って書いてあるけど」
「特に意味はないです」
僕は苦笑した。
「それよりも気になるあの娘って誰?」
「それはフフフ、誰でしょうねえ」
彼女はニヤニヤしながら腕を組んだ。
すると突然部室の扉が開いた。
「あっ、居た」
同じクラスの一番成績の良い女の子が僕を見据えていた。僕はあまりに急な展開だったので目ン玉が「?」になった。
「何やってんのこんなところで」
「あ、いや、ちょっと話してて」
「誰と?」
「あっ」
うっかり本当のことを言ってしまった。彼女に五月少女は見えないんだった。
「……っていうのはれっきとした冗談で、本当はKJ法を使って明日の運勢を占ってたんだよ」
「KJ法って占いに使えたっけ?」
「……新しいKJ法の開発を目論んでいたんだ」
「ふぅん」
僕は笑いになってない笑顔を彼女に向けた。彼女は扉に寄っかかったままだった。
しばらく沈黙が流れた後、彼女は切り出した。
「ねぇ早く帰ろうよ」
「えっ……か、帰る?」
「今日、一緒に帰る約束だったでしょう?」
僕の心は氷のように固まった。